国税庁はタックスヘイブンをどう見ているのか(写真:PainterSaba/iStock)

2016年に「パナマ文書」、2017年には「パラダイス文書」の流出によって、鳩山由紀夫元首相やマンガ家の鳥山明さん、歌手のマドンナさんなど数多くの著名人たちが「タックスヘイブン」にかかわっていることがわかり、大きく報道されました(事実確認や調査事績についてはあまり報道されず、うやむやになってしまいましたが)。

タックスヘイブンという言葉を聞いたことがあっても、意味までを理解している読者は少ないのではないでしょうか。今回はその内容や問題点、それに対して国税庁はどう見ているのかを解説します。

タックスヘイブンのメリットと問題点

中米のパナマや欧州のモナコにケイマン諸島、イギリス領のヴァージン諸島など世界中に存在するタックスヘイブン。日本語では、「租税回避地」と訳されます。

国や自治体が医療や行政サービスなどの社会インフラを支えるためには、税収が必須です。にもかかわらず、タックスヘイブンと呼ばれる地域は法人税や所得税、相続税などを他国よりもかなり安く、あるいはゼロに設定しているのが大きな特徴で、その目的は企業誘致による産業の活性化や外貨の獲得、そもそも税収を必要としていないことなどが挙げられます。

税率は国によって異なるため、その差を利用すれば税負担を軽くすることができます。たとえば、日本の法人税率は19〜23.2%(2018年度)なので、それよりも法人税率が低い地域に本社を移したり、子会社を作ったり、あるいはそこにある会社を間に挟んで取引したりできれば、納税額を低く抑えることができるわけです。

しかし近年は、タックスヘイブンの社会的な問題点が多く取りざたされています。本来支払われるべき税金が支払われず、税収が減ってしまうわけですから国にとっては大きな不利益です。それに、ちゃんと税金を支払っている企業や個人のことを考えると不公平でもあります。

また、タックスヘイブンは情報の機密性が高いのも特徴で、誰が会社を設立したかなどの情報がまったくわかりません。そのため、テロ組織や犯罪組織のマネーロンダリングの温床となっているとも指摘されています。

注目を集めた「パナマ文書」と「パラダイス文書」とは?

タックスヘイブンが大きく問題視されるようになったきっかけは、冒頭でも出てきた「パナマ文書」と「パラダイス文書」の役割が大きいです。

パナマ文書とは、ドイツの南ドイツ新聞が匿名の情報提供者から入手した膨大なデータを、国際的な犯罪を取材、報道する「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」とともに分析、2016年5月に公開したもの。パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」が作成した21万以上のオフショア法人(タックスヘイブンを利用している法人)に関する情報が記載された内部文書です。

それまでモサック・フォンセカは、他国の法人や個人のためにタックスヘイブンでの企業設立支援を行っていました。タックスヘイブンでも法人を設立するためには、登記をしなければなりません。登記に必要な法人の代表者の氏名や住所、法人の本店所在地、法人の目的などが書かれたデータが流出した結果、21万社余りの事業実態がないペーパーカンパニーの存在や、世界各国の富裕層や政治家、著名人たちの税金逃れや資産隠しが明らかになって注目を集めました。

パナマ文書の衝撃から1年半余り。2017年11月には、国際調査報道ジャーナリスト連合によって「パラダイス文書」の存在も明らかにされました。それは、タックスヘイブンにある法律事務所や法人設立サービスを行う企業の顧客データが記載された内部文書でした。

これら文章の存在が明らかにされたことで国内外の著名人がタックスヘイブンに法人を設立していることが流布されました。ですが、ただちに不正を行っていると認定されるわけではありません。タックスヘイブンに資金を移したり、会社を移転したりしたとしても、それはあくまでビジネス目的で自国でも正しく納税している可能性もあります。

つまり、パナマ文章やパラダイス文書に名前が掲載されたとしても、決してその法人や個人が税金逃れをしているとは言い切れないわけです。

国税庁も対策を強化している

とはいえ、事業実態のないペーパーカンパニーの存在が明らかになったことから、一部の企業や個人がタックスヘイブンを利用した租税回避を働いているのは明らかです。それに合わせて、日本の国税庁も対策を強化しています。

まず不正を防ぐために、国税庁は他国の税務当局との情報交換や連携を強化するようになりました。将来的には、非居住者(個人・法人など)が自国に持つ金融口座の残高や、彼らの個人情報を交換し合う仕組みも始まる予定です。

また、「タックスヘイブン対策税制」によって課税の調整も図られています。日本の会社の子会社が海外にある場合、その国の法人税が20%を下回ると、日本国内の親会社の所得が増えるという仕組みです(所得が増えれば、もちろん法人税も増えます)。親会社と子会社では、利益を移すことが比較的容易にできるため、海外の法人税率が低い国の子会社に利益を移し、日本国内での納税を圧縮しようと考える人がいます。それを防ぐのが、この制度の役割です。

国税局の税務調査の件数には限界があって、毎年、すべての法人を調査することはできません。そのために重点項目を定めて、そこを徹底的にたたきます。その対象が近年では、国際的な取引のある法人や個人なのです。国税庁内に、新たに国際課税の役職を設置したり、国際取引を行う可能性の高い富裕層の情報を収集するプロジェクトチームを全国に拡大や増員したりもしています。また、今後は国税局だけでなく税務署にも国際税務の専門官を置く予定です。

タックスヘイブンを利用した租税回避は、現状、違法には当たらないため罰金や懲役の対象とはなりません。とはいえ、それは税制度を揺るがす可能性をはらむ、恣意的かつ不公平なものです。国際的な課税ルールにもなじまないタックスヘイブンは、今後、是正されると考えられます。