金正恩氏

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実兄・金正哲氏の新情報(下)

北朝鮮の金正恩党委員長の実兄である金正哲(キム・ジョンチョル)氏が、今年2月に発生した金正男氏暗殺事件に関わった可能性があるという。

韓国在住の脱北者で北朝鮮中枢の人事情報に詳しい北朝鮮戦略情報センター(NKSIS)の李潤傑(イ・ユンゴル)代表は、同センターのウェブサイトに最近掲載したレポートで、金正哲氏が金一族の秘密資金の金庫番を任されたと述べている。さらには金正哲氏が、北朝鮮の秘密警察である国家保衛省(保衛省)傘下の海外反探(スパイ担当)組織を管理しているというのだ。

拷問部隊を管理か

保衛省は、金正恩独裁体制を支える要の機関だ。

職員・協力者を合わせ数十万人の情報網を北朝鮮社会のあらゆる場所に張り巡らせ、国民の一挙手一投足を監視し、恐怖政治の象徴である政治犯収容所も運営する。

保衛省が管理する各種の拘禁施設の中では、強制労働、拷問が横行しており国際社会の激しい批判を浴びている。とりわけ、女性虐待が日常化している実態は、元収容者や関係者の告発により明らかになっている。

近年では、金正恩氏の意向で北朝鮮国民が韓流ビデオなどの海外コンテンツに触れることに対して厳しく取り締まっている。

一昨年4月には、韓流ビデオをファイルを保有していた容疑で女子大生を摘発し拷問。悲劇的な末路に追いやった。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

まさに金正恩式恐怖政治の象徴と言える組織だが、この保衛省の海外での活動に金正哲氏が深く関与しているというのだ。

麻薬密売に偽造紙幣

李氏によると、北朝鮮では金正恩氏の主催で海外で活動する工作員の2世達が、正恩氏に忠誠を誓うイベントが種々の記念日に合わせて開かれている。

この場に最近、金正恩氏の身内としてただひとり金正哲氏が姿を見せ、金正恩氏が参加者に紹介したというのだ。二人は非常に親しい関係に見え、互いに信頼し合っている様子だったという。

また、金正哲氏の姿はマレーシア、香港、シンガポール、イラン、カンボジア、ミャンマーなどで捕捉されているとのことだ。金正恩氏の秘密資金は、過去にはヨーロッパで管理されていたが、ここ最近は東南アジアへと移されていると見られ、こうした動きと金正哲氏の足跡が符合するという。2015年から2016年の間に、北朝鮮は東南アジアを中心にハッキングなどの違法行為で得た外貨が1億ドルを超えたが、これも金正哲氏が管理しているのかもしれない。

その金正哲氏は、今年2月に金正男氏が暗殺された時、香港総領事館に滞在していたという。

暗殺事件の核心的な関係者と見られているキム・ジョンリョン駐中北朝鮮大使館安全代表とかなり親しい間柄だという。キム・ジョンリョン氏は、保衛省の海外反探局副局長でもある。

金正哲氏が秘密資金の管理や工作員による不法行為に関わり、反探組織を管理する立場にいるとするなら、金正男氏殺害事件にも深く関与した可能性が高いと李氏は指摘する。

金正男氏はかつて北朝鮮が国家運営の維持に必要な秘密資金を調達するために行っている各種の密輸を取り仕切り、そこで得た資金を管理していたと言われている。金正哲氏も同じく、秘密資金の獲得に携わる北朝鮮権力層の子弟グループ「烽火(ポンファ)組」であるとの噂がある。

金正恩氏が最高指導者になる少し前の2011年4月に組織された烽火組は、保衛省、人民武力省(防衛省にあたる)、偵察総局などの権力機関に所属しながら、兵器売買、偽造紙幣や麻薬密売など合法、非合法を問わず外貨を稼ぎ、その外貨は秘密資金として上納されるという。

かつての秘密資金の金庫番だった金正男氏が暗殺され、金正哲氏にその役割が移ったとするなら、暗殺事件の裏には秘密資金をめぐる対立があったことも十分に考えられると李氏は指摘する。

金正恩氏にしてみれば、政治的野心がなく身内として信頼できる金正哲氏が金庫番ならば安心できるだろう。実妹の金与正(キム・ヨジョン)氏は、金正恩氏の公開活動に同行することも多く、精力的に動きながら、兄をサポートしている。

金正恩氏と正哲氏、与正氏の3兄妹は、母親が日本の大阪で生まれた元在日朝鮮人という、北朝鮮の権力層では異色の存在であり、他には頼るべき身内もいない。

もしかしたら金正恩氏は、兄と妹とともに、北朝鮮を文字通り王朝国家のように支配していくことを狙っているのかもしれない。