チンパンジーの葉の「ガムテープ」で寄生虫を駆除

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私たち現生人類の「兄弟」で絶滅したネアンデルタール人が、約5万年前に天然の抗生物質や鎮痛成分を含む薬草を食べていたことがわかった。英科学誌「ネイチャー」(電子版)の2017年3月8日号に発表された。

同年3月9日付のロイターやAFP通信は「粗暴と思われてきたネアンデルタール人は知性的な人々だった」と絶賛する報道をした。しかし、ゾウが薬草を食べて自分の病気を治したり、チンパンジーがざらついた葉を飲んで寄生虫を駆除したりするなど、野生動物の健康法はもっと奥深い。

ゾウは病気になると森で薬草を処方する

「ネイチャー」誌の3月8日付プレスリリースによると、豪アデレード大学などの研究チームは、スペインのシドロン洞窟で発見した4万8000年前のネアンデルタール人の青年のあごの骨や歯垢(しこう、プラーク)を遺伝子解析した。すると、青年の下あごにひどい痛みをともなう腫瘍があり、激しい下痢を引き起こす腸内寄生虫にも悩まされていたことを確認した。

そして、青年が鎮痛作用のあるサリチル酸を含むポプラの樹皮をかんで摂取していたことがわかった。サリチル酸は現代の抗生物質「アスピリン」の有効成分だ。約5万年前に20世紀初頭に発見された「アスピリン」の効用を知っていたことになる。研究を率いた同大学のローラ・ウィーリッチ氏は、ロイター通信の取材に対し、「私たちの研究は、ネアンデルタール人が高い能力を持ち、知的な人々だったことを示唆しています。彼らの振る舞いは粗野だったという歴史書を書き換える必要があります」と語っている。

しかし、最近の動物学では多くの野生動物が抗生物質などを利用し、命を守り、健康を維持していることが明らかになっている。むしろ、ネアンデルタール人こそ天然の薬草を使う知識を失った現代人より「野性的」だといえるかもしれない。英国の動物学者シンディ・エンジェルさんの『動物たちの自然健康法―野生の知恵に学ぶ』(2003年・紀伊國屋書店)では、次のような動物たちの驚くべき知恵と工夫を紹介している。

(1)インドのゾウ使いは、ゾウが病気になると、森に連れて行く。ゾウはそこで必要な薬草や植物、抗生物質を含む粘土を探して食べる。ゾウは自分自身の薬を処方することができる。

(2)チンパンジーは腸内の寄生虫を駆除するため、ざらざらした葉を蛇腹状に折り畳んで飲みこむ。葉の表面がマジックテープになって寄生虫をからめとり糞とともに排出する。糞を見ると、たくさんの寄生虫がのた打ち回っている。

わざと毒ヘビにかまれて免疫をつけるジリス

(3)オマキザルは蚊の猛攻撃を受けると、危険が迫ると毒を分泌するオオムカデを捕まえる。そして、オオムカデを振り回して怒らせて毒を分泌させ、自分の体に塗りつけて蚊を追い払う。

(4)ヤドリバエに卵を注入し寄生されたヒトリガの幼虫は、毒ニンジンなど普段は食べない毒性の強い植物を食べる。ニンジンの毒で自分の体に生みつけられたヤドリバエの卵を殺すためだ。

(5)タテガミオオカミはロベイラというトマトのような実をがっちり食べる。寄生虫を駆除する成分があるからだ。飼育されてロベイラを食べられないオオカミは、寄生虫のために死ぬことがよくある。

(6)草食のはずのシカやヒツジは、地面に巣を作る鳥のヒナを襲い、頭や足だけを食べる。人に飼われているラクダも野生のラクダの死骸を見つけると、頭骨をバリバリ食べる。カルシウムなど必須ミネラルを補給するためだ。

(7)マングースは毒ヘビにかまれると、薬草の汁を傷口に塗って免疫をつける。

(8)一方、ジリスは毒ヘビをわざと挑発してかまれることがよくある。毒に対する免疫をつけているとみられる。

動物たちの知恵に学びたい。