高級鮨屋のベテラン職人に聞く、カウンターでの「正しい知識とマナー」

写真拡大

なかなか面と向かって聞きにくい鮨屋の本音。お金やマナーのことなど、アンケートで上位に入ったギモンの数々を東京で高級鮨店を経営する2人のベテラン職人にぶつけてみた! プロは、一見さんについてどう思っているのか?

●ギモンに答えてくれるベテラン職人
「寿司割烹 西麻布 いしい」店主/石井 仁さん
職人歴27年。早朝の築地通いを欠かさず、最上のネタを仕入れる。海外店舗勤務の経験もあり、楽しい会話で場を盛り上げる。
「鮨 銀座 天川」主宰/星 廣幸さん
職人歴40年。センチュリーハイアット東京勤務を経て、10年前に「天川」を開店。産地直送の野菜と魚を組み合わせたコースが好評。

■鮨屋について100人に聞きました

Q. 鮨屋のカウンターについてどう思いますか?

Q. 理由は?

1位:値段がわからない(31%)
2位:頼み方がわからない(23%)
3位:店の雰囲気に緊張する(14%)
4位:マナーがわからない(9%)
5位:お酒をゆっくり飲めない(6%)

■ギモン1:値段が分からない!

▼接待のお客様への配慮です

「銀座の鮨屋は接待でのご利用が多い。店が値段表をお見せしないのは、接待を受けるお客様が気を遣うことのないように、との配慮です」と、「鮨銀座 天川」の星廣幸さんは話す。

「寿司割烹 西麻布いしい」の石井仁さんは、仕入れ値が変動するのも大きな理由だと言う。「毎日仕入れ値が変わるから、メニュー更新が追いつかない。ネタも通年では膨大な数になる」。

これは星さんも同意見で、「同じ魚でも産地やブランドで値段が大きく違う。たとえば鰺。鹿児島県出水の黄金鰺は最高ランクの値をつけます」。

なるほど、鮨屋にも値段表を置かない正当な理由があったのだ。では、会計時になって大慌て、ということを避けるにはどうしたらいいのか?

「電話予約時が肝心です」と両者。

星さん曰く「予約時に値段やメニューのことなど、ご相談ください。支払いにクレジットカードが使えるかも、あわせて聞いておくと安心ですね」。

■ギモン2:頼み方が分からない!

▼それこそが鮨屋の醍醐味です

メニューがない店は値段の不安だけでなく、どう頼んでいいのかわからないという人が多い。

「お客様の好きなものを好きなときに食べてもらえたら」と、2人の思いは一緒。ただしと、「鮨銀座 天川」の星さんは付け加えて「上級者でないと、お客様の“お好み”で注文するのは難しいと思います」。

一方で「寿司割烹 西麻布いしい」の石井さんは「何でも経験。とにかく好きなものを頼んでみてください!」。

では、鮪の中とろばかりを注文する人は?

「こちらはかまわないけど、途中で声をかけます。会計は高くつきますと」と、石井さんは笑う。

一般的に「淡白な白身から濃厚な赤身、最後は巻き物」と言いますが……。

「白身でも醤油をたっぷりつけたら意味がありませんよね。おまかせでは、その日一番自信のあるネタから握るので、とろから始まることもあります」とは、星さんの弁。

一番のお薦めを味わいたいなら、おまかせを。

■ギモン3:予算1万5000円って鮨屋にとっては高い? 安い?

▼飲み代を別にすれば、平均的な金額です

今日は奮発するぞというとき、出してもいい金額として最も多い答えが1万5000円。鮨屋にとってはどうなの?

「飲むお酒で値段に幅は出ますが、うちのお客様では平均的。ただし接待なら最低ライン」(星さん)。

夜のおまかせは両店とも飲み物別で1万5000円からだが、予約時に予算の相談があれば、柔軟に対応してくれる。

■ギモン4:常連と一見の客は会計が違うの?

▼そういう店も、確かにあります

「お客様が入ってきた瞬間に値踏みする店は確かにあります。物の価値は人によって異なりますから、悪いことではないかも。うちではしませんが」(「寿司割烹 西麻布いしい」石井さん)。

「そういうことはしません。ただし、いいネタに限りがあるときは、一見さんより常連客にお出しすることはあります」(「鮨銀座 天川」星さん)。

■ギモン5:高いネタ、安いネタはあるの?

▼高いのは鮪、うに! お手頃は小肌、いか……

「鮪、ぼたん海老はやはり高いですね。うには最近、信じられない高騰ぶりで驚きます」(石井さん)。

「比較的安いネタは、小肌やいか、穴子、鯖など。ただ夏の新子(小肌)は高値を付けます。魚の知識が少しでもあれば、職人との会話も弾みますよ」(星さん)。

■ギモン6:手で食べるのか、箸で食べるのか

▼手で食べてほしい店は“手絞り”を用意します

「どちらでもかまいませんが、手で召し上がる方が増えました。うちでは3割くらい。個人的には箸をお薦めします。両端を細くした利休箸でお召し上がりください」(石井さん)。

「うちは箸を使う方がほとんど。手で食べることを板前が望んでいるなら、お絞りのほかに専用の“手絞り”が置かれるはずです」(星さん)。

■ギモン7:ドレスコードはある?

▼Tシャツでも悪くはないのですが……

「Tシャツでも店側はかまいませんが、ほとんどの方はかっちりとした格好をしていますので、お客様自身の居心地が悪くなるのでは? ジャケットは羽織ったほうがいいでしょう」(「鮨銀座 天川」星さん)。

では女性は? 「特別な日のおしゃれは大歓迎。ただ、香水は勘弁してほしい。どうしてもというのなら退店後にどうぞ」(「寿司割烹 西麻布いしい」石井さん)。

■ギモン8:なぜ予約が必要なの?

▼トラブルを起こす客を呼ばないためです

予約の電話なしに、当日飛び込みで訪れても大丈夫なのか。

「予約を前提にしているのは、会計時に高くて払えない、などというトラブルを避けるためです」(星さん)。予約をしている客なら、価格や内容を理解して来店していることが職人にも伝わり、安心して接客ができるという。

「昼でもぜひ予約を。よりリラックスして過ごせます」(星さん)。

(文・のかたあきこ)