関連画像

写真拡大

浮気、風俗遊び、性病……。夫が家庭に持ち込む数々の問題を乗り越えてきた妻でしたが、夫のある暴言により、結婚生活に終止符を打つことを決めました。そして、妻が選んだのは法律上の「離婚」ではなく、「家庭内離婚」。そんな決心をした女性(40代)が、弁護士ドットコムライフに体験談を投稿しました。

夫は、ギャンブルや借金は一切せず、仕事もしっかりこなす真面目な性格です。しかし、女性関係については別でした。妻の妊娠中に浮気をし、出会い系サイトにものめり込む。挙げ句の果てに、風俗通いをして妻に病気をうつしたことも…。それでも離婚しなかったのは、5人の子どもたちにとってはよきパパだったからです。

子どものことを第一に考え、17年間の結婚生活を続けてきました。しかしある日、戦争を生き抜いた投稿者の祖父について、夫が「ひと、殺したやろうなぁ」と言ったのです。ショックを受けた投稿者が抗議すると、夫は悪びれることなく「タブーやけどほんまちゃう?」。

この一件がきっかけで、投稿者は「顔も見たくないし、話もしたくない」と夫への気持ちが冷めてしまったそうです。

しかし離婚しようにも、投稿者には夫と別れて生活できるだけの経済力がなく、子どものことも考えると、なかなか決心がつきません。そこで、戸籍上は夫婦のまま、「家庭内離婚」をすることに決めたそうです。

一家が住む家は、3階まである一戸建てで、夫とは別の階にある部屋で寝起きすることを決めました。さらに「なるべく顔をあわせなくする様に、タイムテーブルの変更も模索中」です。が、家事をするのは義務だと考えているため、「キッチリしている」とのこと。そのため、妻が「家庭内離婚」したつもりでいるのに、夫は全く気づかず、ただの喧嘩が続いているだけと思っているようです。

この女性のケースに限らず、愛情はなくなっていても、経済的な理由や子どものことを考えて、離婚せずにいる夫婦は珍しくありません。そんな状況をさして「家庭内離婚」「家庭内別居」「仮面夫婦」ともいいますが、このような夫婦は法的には「夫婦」として認められるのでしょうか。

通常、夫婦には、配偶者以外と肉体関係を持ってはいけないという貞操義務などのルールがありますが、仮面夫婦の場合はどうなっているのでしょうか。もし、後で本当に離婚したいと思った場合にはどう影響するのでしょうか。能登豊和弁護士に聞きました。

 ●「婚姻関係が破綻している」のはどんなケース?

離婚原因として「婚姻関係の破綻があった」といえるのは、夫婦関係が破綻・形骸化したといえる程度の相当期間、別居が継続するか、これと同じようにみなせる程度の状況に達した場合などに限られています。

その場合の別居は、お互いが別の住居で生活することは必須ではありません。しかし、別の住居で生活しているのと変わらないくらいに夫婦の接点が減少し、しかもその期間が長期にわたる必要があります。

相談のケースでは、家事などを通じて、夫婦間の接点が少なからず存在していますから、別の住居で生活している場合と変わらないくらいに夫婦の接点が減少しているとはいえないようです。また、期間も、それほど長く続いているわけではないようですので、婚姻関係が破綻していると認められる可能性は低いと考えられます。

なお、夫の発言に関しては、投稿者が嫌がっているにも関わらず。何度も同じような発言が繰り返され、そのために夫婦の関係が改善不能なほどに悪化した場合であれば、婚姻関係が破綻したと認められる余地があります。

しかし、相談のケースでは、投稿者が嫌がっているのに繰り返し発言が行われたわけではなく、また、夫婦関係が改善不能なほどに悪化したとも言い切れません。

したがって、今回の場合は「婚姻関係が破綻している」とは言えないでしょう。

 ●一方が第三者と性的関係をもった場合は?

夫婦の一方が、夫婦以外の者と性的関係を結ぶことを「不貞行為」といいます。この「不貞行為」は、夫婦が相互に負う守操義務(貞操を守る義務)に反して、夫婦の他方に精神的苦痛を与えるものです。不貞行為を行った者は、夫婦の他方に対して慰謝料の支払義務を負うことになります。

ただ、夫婦間の守操義務は、婚姻関係が破綻した後は消滅します。

婚姻関係が破綻した後であれば、夫婦の一方が夫婦以外の者と性的関係を結んだとしても、そもそも「不貞行為」とならず、慰謝料の支払義務を負うこともありません。

相談のケースでは、先ほどお話ししたとおり、未だ婚姻関係が破綻しているとは言えませんので、もし夫婦以外の者と性的関係を結べば不貞行為となり、慰謝料の支払義務を負うことになるでしょう。

仮に、婚姻関係が破綻している可能性が高い場合でも、慰謝料を請求された側が証拠によって婚姻関係の破綻を証明しない限り、婚姻関係が継続している前提で不貞行為の存在が認定され、慰謝料の支払を命じられることになります。

これを避けるためには、あらかじめ、婚姻関係の破綻を証明する資料(別居の時期を証明するための賃貸借契約書など)を十分に確保しておく必要があります。

 ●一方が家事を放棄していた場合は?

夫婦双方の生活の状況などによるので、一概には言えません。たとえば、家庭内別居にともなって、夫に関わる家事を夫自身が行うよう妻が働きかけ、妻がその分の家事を放棄したとしましょう。

こうしたケースであれば、家事の「分担の仕方」を変更しただけですから、よほど夫に無理を強いていない限り、そのことによって法的な問題が生じることはないでしょう。

ただし、夫が妻の介護なしに生活できない状態にあるにもかかわらず、他の介護者の手当もしないまま家事を放棄したような場合、妻の行為は離婚原因の1つである「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)とされる可能性があります。

また、妻が夫に関わる家事以外も含めた家事全般を放棄し、このことが原因となって夫婦の関係が修復不可能な程度に悪化した場合には、離婚原因は妻が作り出したと判断される可能性があります。

これら2つのケースのように、妻が離婚原因を作り出した場合、妻は『有責配偶者』となり、裁判で離婚を求めるにあたって、相当長期の別居期間などの厳格な要件が課されることになってしまいます。

さらに、子どもに関わる家事までも一切放棄するとなれば、そのことが児童虐待と評価される危険性があり、そうでなくとも、お子さんの心が離れて親権をめぐる争いなどで不利を招く危険性も高まります。

したがって、将来的に確実かつ有利に離婚をしたいのであれば、夫が対応できる範囲の家事を除いて、むやみに放棄したりしないことが賢明でしょう。



【取材協力弁護士】
能登 豊和(のと・とよかず)弁護士
2010年12月弁護士登録。勤務弁護士を経て2013年7月に地元南千住で開業。トラブル解決は初動で決まるとの考えの下、休日夜間も対応の無料相談を行いつつ、家事事件・債務整理を中心とした活動をしている。
事務所名:南千住法律事務所
事務所URL:http://www.minamisenju-law.jp/