いやがる子への対応法は? 子どもだけのサマーキャンプ・野外教室の心配事をプロに聞いた

写真拡大

今、子どもだけで泊まりに行く野外体験教室が人気です。しかし、「興味はあるけれど、ちゃんとできるか心配」「行かせたいのに、子どもがいやがる」といったご家庭も多いのではないでしょうか。

【写真】笑顔も涙も…サマースクールの子どもたち

幼児期から野外体験をさせるメリットはあるのか、また親としては様々な心配事とどう向き合えばいいのか?

お伺いしたのは、サマースクールや雪国スクールなどで年間50以上の豊富なプログラムを提供している“花まる学習会”の箕浦健治さん。

野外体験部部長として長年に渡り野外教育の基盤を築いてきた箕浦さんは、年間を通じて行っている野外体験プログラムをまとめる責任者として、これまで5万人を超える子どもたちの命を預かってきました。

初めての野外体験、何歳からがおススメ? 宿泊は?

――著書『4歳〜9歳で生きる基礎力が決まる!花まる学習会式 1人でできる子の育て方』(箕浦健治著/高濱正伸監修)では、4歳から9歳までの間に育てたい子どもの生きる力が記されていますが、野外体験は何歳から参加させるのがよいですか? あまり小さいと不安ですが……。

箕浦: 年長からの参加がベストだと思います。

小学生に上がると環境が大きく変わるため、そのタイミングで初めての野外体験となるとさらに負荷がかかってしまいます。

小学校入学に向けて、年長の間に野外体験に参加したりおけいこを始めたりするのが一番効果的です。それより小さいときは無理に行かせなくてもいいと思います。

「行きたい」「やりたい」というタイミングがその子の一番伸びるときなので、そういうときはぜひ行かせてあげたいですね。

――初めて子どもだけで行く野外体験は、宿泊したほうが効果はありますか?

箕浦:年長以上なら、宿泊の体験をおすすめします。いつもは、手伝ってくれる、声をかけてくれる親がいない。でも「ちょっと頑張ってみよう」と思える環境で子どもは伸びるんです。最初は1泊でもいいですが、慣れてきたら3泊以上がおすすめです。

実は、3泊以上になるとケンカが増えるんです。2泊までならぎりぎりガマンできるけれど、3泊以上は本当の姿が出て言い合いを始めるのです。

本当の人間同士のぶつかりあいになる分、仲直りの経験も増え、すごく仲良くなるし自分の言いたいことが主張できるようになります。

また、年中や親子で行くなら、日帰りか一泊ぐらいがいいかなと思います。

親元を離れる“やせ我慢”で得られるもの

――野外体験の一番の意義は、やはり親元を離れることですか。

箕浦:そうですね。一番は、親元を離れてやせ我慢をすることです。そこでは、味方がいない中で頑張る、まず味方を作るというところから始まるんですよ。

野外体験の世界は、社会そのものだと思っています。会社に入ると、周りは誰も知らない、でも自分の居場所は自分で作っていかなければならない。その疑似体験が非日常の野外体験には凝縮されているのです。

ちなみに、花まる学習会では「お友達との参加を禁止」にしているので、初めてあった子どもたちでチームをつくり、3泊4日ないしは2泊3日を過ごします。

これはある人から教えてもらったのですが、「子どもひとりを育てるには、村ひとつが必要」という言葉があります。聞くと大げさな気もしますが、現場で見ているとその言葉はあながち嘘ではないと感じています。

田舎に行って子どもたちが探検をしていると、地元の方々が野菜をたくさんくれる。港町では、朝の散歩にいった子どもたちが、みんな大きな魚を抱えて戻ってきました(笑)。子どもが少ない町だから、何かしてあげたいという気持ちなのでしょう。

そういう愛情を受けた子どもたちは人のあたたかさを知り、「思いやりの心」を自然と持つことができるようになるのだと感じています。親以外のたくさんの大人と関われるということも、野外体験の醍醐味のひとつです。

そして、実際に体験してみなければ絶対に感覚として身につかないことは、自然の恐ろしさと雄大さ、美しさです。自然はときに人間に牙をむくことがあります。そのときは、人間の小ささを実感するしかありません。

でも怖さだけがすべてではない。真っ赤に燃えるような夕陽を眺めたり、山に向かって大声で叫んでみたり、夜風の音や小さな虫の鳴き声に耳を澄ませたり…。

そういう時間をつくることで、その美しさに気づいたり、雄大さを感じたりすることができる心を持った大人に成長してほしいと思います。

そうして感性は磨かれていきますし、実際に体験したからこそわかる豊かな表現力(“燃えるような夕陽”)が、その人の魅力の一つになっていくことでしょう。

花まる学習会では「生きる力」を育む野外体験を掲げています。野外体験は、あらゆる面で人間の大事なものを育てていくと思っています。

泣いていやがるわが子、やっぱりまだ早かった?

――親は行かせたいけれど、子どもが行きたくないと言っている場合はどうしたらよいのでしょうか。無理やり行かせたら、トラウマになりそうで心配なのですが。

箕浦:行きたくないという理由によくあるのが、「自由に遊べる時間が減るからいや」と言っているケースと、単純に不安なケースです。

前者の場合は、新しい世界を知るきっかけとして、ぜひ挑戦してほしいと思います。子どもたちは経験したことのない世界とそこで得られる感動を知らないだけ。その子の想像以上の体験ができるので、間違いなく大きくなって帰ってくるでしょう。

一方、後者は“お母さん大好きっ子”に多いのですが、「安心できる空間から出たくない」というのが理由です。

でも、そこから出さない限りは、外の世界を知ることができません。そして、その世界で生きていく意味を知るには、親以外の人から「ありがとう」と言われたり、頼りにされたりする経験が必要なのです。

だから単純に不安な場合は、ぜひ背中を押して野外体験に参加させてあげてください。

これまで様々な子を見てきましたが、頑張れない子はいません。泣いてかわいそうだからとキャンセルしたら、その子は今後も「泣けば言うことを聞いてもらえる」という基準を設定してしまうことになるのです。

トラウマになるかもというご心配も聞きますが、本当にトラウマになってしまった子は、そのときその子の想いを受け止めてあげられる大人がそばにいなかったのではないでしょうか。

預け先が「いやだ」と言う子どもの気持ちを分かってくれる団体であれば大丈夫だと思います。

――なるほど……。でも野外体験中もずっと泣いている子もいるのでは?

箕浦:ずっとではないですが、泣く子はたくさんいますよ(笑)。出発式の駅のホームで泣き叫んでいる子どもを3人抱えて電車に乗ったこともあります。ホームで「今ここでキャンセルして」と母親に訴えていた子もいました。

でも、子どもは出発すると、1分で涙が止まるのです。

私たちは、慰めるわけではなく、子どもの気持ちに寄り添いながら見守っています。すると子どもはもう帰れないとわかって、自分の中でモードを変えて、5分後には普通に話すようになるんです。

行ったら、絶対成長があります。

そんなわが子が帰ってきたら、親は「本当にうちの子がそんなことができたんですか?」などと言わないで、「お母さんがいないところでがんばったんだね。」と素直に認めてあげてほしいと思います。

成長につながらない体験はない

花まる学習会の野外体験では、行く直前まではいやがっていた子も、必ず笑顔で帰ってくるそうです。

スタッフの大人や、沢山の仲間たちとともに過ごし、顔つきまで変わってくるという子どもたち。

わが子を送り出すことに不安を感じるお父さん、お母さんも多いと思いますが、子どもの頑張る力を信じて、送り出す勇気をもってみることも必要かもしれません。