浦和L戦でもゴールを決め、今季の得点数は12に。2位に7点差をつけ、得点ランクトップを独走する。 (C)J.LEAGUE PHOTOS

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 AC長野パルセイロ・レディースは、11節の浦和レッドダイヤモンズレディース(浦和L)戦を1-0で制し、7勝1分3敗と王者・日テレベレーザに次ぐ2位でリーグ戦の中断期を迎えた。なでしこリーグ1部昇格1年目での見事な“快走劇”。「他のチームに比べてタレントはいない」(本田美登里監督)なか、チームを牽引するのがエースの横山久美だ。
 
 浦和L戦でも、さすがの決定力を見せた。19分、2トップを組む泊志穂とともに猛然とボールホルダーにプレッシャーをかけて相手のミスを誘発。パスカットしてそのままペナルティエリア内に侵入すると、飛び出してきたGKとの1対1でも冷静にゴール左隅に流し込み、貴重な先制点をもたらした。この日、最初にして唯一の決定機。映像で横山のスカウティングをしてきたという相手GKの平尾知佳が、「(駆け引きで)裏を欠かれてしまった。なでしこ(ジャパン)に入っている選手だけに本当に巧い」と舌を巻く一撃だった。
 
「得点シーンは、トマ(泊)が頑張ってディフェンスしてくれて、相手もタッチミスしていたので、そこで取れたらチャンスと思って狙いに行きました。これまでの試合では、1対1になった時にシュートが遅くてDFが間に合ってしまったんですけど、それを上手く修正できたと思います」(横山)
 
 絶対的なストライカーは、チームメイトからの信頼も厚い。“戦術・横山”と言うと少々大袈裟だが、周りの選手は「まずは横山へ」という共通理解がある。ボランチの國澤志乃は、横山の存在の大きさについてこう語る。
 
「横山はタメも作れるし、自分で点も取れる。長野のサッカーを象徴する選手だと思います。まずは横山を見て、(ボールを)預けて、パスを出すか、シュートに行くかは、横山の判断に任せる。ボールを奪った後に、『横山に預けたらなんとかなる』という思いはあります。厳しいマークをかい潜って点を取ってくれているので、本当に助かっています」
 
 浦和L戦のゴールで今季の得点数を12に伸ばし、2位に7点差をつけて得点ランクトップを独走。2014年(30点)、15年(35点)と2部リーグで得点王に輝いたのに続き、今季もタイトル獲得の期待がかかる。本人は「特に意識はしていません」としつつも、「毎試合ゴールを取ることによって、結果的に得点王が取れたらいいですね」と色気も示す。
 一方で、浦和L戦は横山の課題が顕著に出た試合でもあった。守備陣の踏ん張りで虎の子の1点を守り切ったが、横山は後半シュートを1本も打てずに終わった(チームも後半はシュート0本)。立ち上がりからプレスに奔走し、相手DFに囲まれても突破を仕掛ける分、スタミナの消費も激しい。時間が経過するにつれて“失速”する傾向がある現状を、本田監督も指摘する。
 
「横山本人も分かっていますけど、どうしても後半に足が止まって“戦力外”になってしまう。もちろん、ドリブルの回数を減らせば体力も持つとは思います。ただ、そうするのではなく、最後まで2人でも3人でも抜き切れる体力、感覚を身に付けていかないと」
 
 エースに対して複数人で囲んで封じに来る対戦相手も増えるなか、本田監督はあくまで横山に突破のチャレンジは継続させるつもりだ。そこには指揮官の「個なくして、チームはない」哲学とともに、横山に「日本で頼りになる選手になってほしい」という願いが込められている。
 
「横山が囲まれる時間が長いのは想定内。マークが3枚来ているんだったら、『その3枚を抜きに行け!』と言っています。私はそこでボールを捌けとは思いません。パスワークで崩すのも日本のサッカーなんですけど、個なくしてパスしても意味はないですから。個の力を強めていくのは、我々の立ち位置からすればやらなければいけないこと。今まで2枚、3枚を突破できる選手は日本にはいないので、チームの成長、そして日本女子サッカーの成長を考えれば、横山にはそうしてほしいと考えています」