街の隅の方へどんどん追いやられていく設置灰皿と同様に、嫌煙家から文字通り煙たがられて、肩身の狭い思いをしている愛煙家が増加している昨今。皇室にも禁煙の波が押し寄せている。約120年間にわたって皇室でたしなまれてきた恩賜(おんし)たばこが、2006年末をもって廃止されることになったのだ。

 恩賜たばこは純国産の葉のみを使用したタバコで、日本専売公社が宮内庁だけに卸している幻の逸品。JTの担当者に伺ったところ、「恩賜たばこにはニコチンが入っていないなどさまざまな噂をされますが、成分的に特別ということはありません」と言う。

 パッケージに〈賜〉のマークが入っていて、たばこの巻紙に菊の紋章が入っているだけということらしい。

 来賓用と賜り用と一般的に言われている2種類の恩賜たばこのうち、今回廃止が決定したのは賜り用の方。明治10年、西南戦争の傷病兵に天皇陛下が下賜されたと『明治天皇記』に記述があり、軍歌にもこの事実を歌った歌詞がある。

 その後は宮内庁の勤労奉仕団や、警備にあたった警察官、ボランティア団体などに配られてきたという。だが、始めから用途がこのように決まっていたというわけではないようだ。

 「最初は皇族の嗜好品だったようです。いつ頃から用途がそうなったのか、明確なことはわかりません。パッケージの〈賜〉の文字も最初はありませんでした」と、宮内庁の担当者。

 また、「以前から叙勲受章者や引き出物での支給を徐々に廃止してきましたが、もうたばこは誰もが喜ぶものではありません。陛下からの賜り物として適切ではないという判断から全面廃止となりました」とのこと。

 恩賜たばこは以前ネットオークションに5000円で出品された(宮内庁からのクレームで取り下げられた)こともある品物。たばこを嗜む人ならやっぱり興味が湧くもの。もうすぐ手に入らなくなるのなら、なおさら一度は味わってみたいものだ。(文/verb)