安倍晋三首相は15日、米国やオーストラリアなど11カ国が参加している環太平洋連携協定(TPP)について、交渉に参加することを発表した。

 TPPとは、太平洋周辺の国々の間で、人・製品・サービス・金の移動を、ほぼ完全に自由にしようという国際協定。参加すれば、鉱工業品などの関税がほぼ例外なくゼロになるため輸出産業にはプラスだが、農業など国内産業では市場を外資に奪われる可能性がある。

 首相は、「今がラストチャンスだ。このチャンスを逃すと世界のルール作りから取り残される」と国民に理解を求めるとともに、「あらゆる努力で日本の農を守り、食を守ることを誓う」と述べた。


 TPP交渉への参加で、わが国経済のいっそうの国際化を決断した首相だが、プロ野球の国際化を阻んでいる要素は2つ。外国人選手枠と、外資の球界参入の規制だ。
 詳しくは割愛するが、この2つがある限り、日本シリーズはいつまでたってもワールド・シリーズにはなれない。

 では、これらの要素を取っ払うとどうなるのか。いや、いっそ米メジャーリーグに合流したらどうなるのか。そんな事態を想定したシミュレーション小説が、本城雅人の「球界消滅」(文藝春秋)だ。

 かねてより深刻な経営難に直面していた12球団のオーナーは、国内だけでの事業展開を諦め、メジャーに参加することを決断。国内12球団を3球団に編成し、韓国、中国とともに、極東地区としてメジャーの傘下に入ろうとする。
 当初は互いの利害が対立していたが、読売ジャイアンツがモデルと思われる東都ジェッツの強いリーダーシップにより、メジャー参加に意見が集約される。

 選手の意見は二分するが、米国への遠征はあるものの、国内にいながらにしてメジャーでプレーできる魅力から逃れることができない。

 国内での対戦を見飽きたファンも、わが国プロ野球のメジャー参加を支持。世論は、球界大再編側に傾いていく。

 反対するのは、主人公で、横浜DeNAベイスターズがモデルの横浜ベイスの副GM、大野俊太郎と、一部の選手だけ。

 はたして戦後から脈々と続いていたプロ野球の伝統は途切れ、メジャーの軍門に下ってしまうのか。

 プロ野球ファンならずとも大いに考えさせられる一冊だが、ボクはメジャー参加には反対だ。

 たしかに、ビジネスとして成立しているメジャーに参加する旨味はある。選手は世界最高峰の舞台でプレーできるし、ファンも国内では見られない感動と興奮を味わえるだろう。

 だが、メジャーの軍門に下るということは、わが国プロ野球が自ら主権を放棄すること、文字通り植民地になることだ。
 植民地がどのような扱いを受けたかは、歴史が物語っている。主権を失ってからでは、遅いのだ。

 とは言え、メジャー参加を歓迎している選手もいることは事実。副GMとして選手に接している大野も、安易に彼らの夢を摘み取ることはできない。
 ジェッツに協力を求められた大野は、はたしてどのような決断を下すのか。

 著者の本城雅人は、サンケイスポーツ出身。プロ野球、競馬、メジャーリーグの取材などに携わり、退職後は「ノーバディノウズ」 (文藝春秋)、 「スカウト・デイズ」 (PHP研究所)、「嗤うエース」 (幻冬舎)、「オールマイティ」 (文藝春秋)、「ボールパークの魔法」 (東京創元社)と、プロ野球、メジャーを舞台にした小説を執筆している。
 本作品でも、プロ野球やメジャーのビジネスに関する書籍を参考にしている。ビジネスや、野球を統計学的に分析するセイバーメトリクスの用語が多少気になるが、お勧めの作品だ。