5試合ぶりの白星。後期が始まる段階ではインカレ出場を目標に戦ってきたチームも、今や残留争いの渦中に巻き込まれている。そんな中で2位の日体大から逆転で奪った勝ち点3の大きさは、想像に難くない。


 


 


この試合を明暗を分けた黄色の11番だったが、全てが上手く言っていた訳ではない。試合の序盤から、言うなれば、"運がなかった"。日体大を対策した慶大のロングボール中心の攻撃になかなか絡めず、ボールを受ければDFから激しいチェックを受ける。そこでのフィジカルコンタクトにはやや微妙な判定も多くあり、会場からも疑念の声が湧き出るほどであった。そういった状況が続けば苛々も募り、気持ちにブレが生じることは多々ある。しかしこの日の武藤は違った。


 


「今日は本当にチームのために最後まで走ろうということを決めていたし、自分が前で焦れてしまったいけないと思った。なので(審判の微妙な判定にも)文句も言わずに淡々とプレーすることが出来た。」これが、2年生の口から出る言葉であろうか。


 


そして"焦れず"に迎えた後半アディショナルタイム。ペナルティエリア外やや左から中へ切れ込み、低い弾道のミドルシュートを突き刺し、チームに逆転勝利をもたらした。


「あれ、得意な形なんですよね」はにかみながら言う。この時に見せた柔らかな表情から”ああ、やはり、まだ彼は2年生なのだな。”と実感した。そして同時に、ピッチであれほどまでに力強いプレーをしていたのは本当に彼なのか、という疑念も沸き上がってきた。


 


「まだ4,5点しかとっていなくて、それにはもちろん納得はしていない」と彼は言う。なので、"では、今季の目標は？"と聞いてみた。もちろん、個人のそれを聞いたつもりだった。


 


彼は開口一番、
「残留です」と答えた。
そして、「残留争いに置かれているので、チームが勝つことが一番。その中でチャンスがあれば自分が決められればいい」こう続ける。


 


個人よりもチームの勝利を第一に考える。その意識を徹底して切らせなかったからこそ、この日のゴールは生まれたと言えよう。チームのために戦えるこのストライカーにはまだあと2年が残されている。末恐ろしいこの11番に、今後も目が離せない。


 


 


・武藤嘉紀(むとう よしのり 2年・FC東京U-18)
1992年7月15日生まれ
キレのあるドリブルと自らが自信を持って"得意"というミドルシュートを武器にするストライカー。1年次から中心選手として活躍している実績の通り、慶応の最前戦は彼に託されているといっても過言ではない。


【writer】

Reona Takenaka


【プロフィール】

平成元年生まれのロンドン世代。2011年よりCSParkのサッカーライターとして本格的に活動を始め、今年度は引き続き関東大学リーグの取材をしつつ、『EL GOLAZO』にて湘南ベルマーレの担当記者を務める。twitterでは記事とのギャップが垣間見える。

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