佐藤 地域から人を探すという感じです。人に魅力がなければ、成立しないので。伊藤君に関しては、そもそものベースですから外せませんでしたが、酒井友之君に関して言うと、ある程度知名度があって、代表レベルだった人が、その年齢になってアジアで活路を見出したっていうのがすごくおもしろいなと思っていたので、彼も真っ先に頭に浮かびましたね。

刈部 インドネシアリーグには、酒井選手以外にも元Jリーガーの柴小屋雄一選手だったり、金子聖司選手だったり、複数人プレーしていますね。

佐藤 意外とみんな知らないだけで、実はインドネシアってサッカーの人気が非常に高く、経済もよくて、給料もそこそこいいわけです。プロ選手としてプレーする上での条件がすごくいい。1,000万円近い年俸で、税的にも優遇され、家も車もついてきますからね。サッカーを続けるという意味では、すごく経済的だし、やりがいもあると思いますね。

■先入観を捨てて、環境に飛び込んでみる

刈部 ところでこの本、売れてますか?

佐藤 いや、そんなに売れてないですよ。難しいと思うんですよね。例えば有名選手の本の場合って、もともとベースにインフォメーションがあって、そこに興味を惹きつけられて読む人だったり、あの選手の本売れてるからっていう話を聞いて読む人だったりがいると思うんです。でも、この本って最初が「誰? 何?」って感じじゃないですか。だから、まず手に取ってもらうハードルが非常に高い(笑)

刈部 ただ、僕がこうして取り上げたいなって思ったのは、Jリーグのこれから、日本人選手のこれからを考えるときに、必要な本だろうと思ったからなんですね。選手としてどうしようかなって迷ってる人たちにも読んでもらいたいなと思いますから。

佐藤 僕が一番もったいないと感じるのは、例えば高卒入団で3年後にクビになった選手、あるいはゼロ通告を受けた選手たちが、次どうするって考えるときに、いくら条件が悪くても、とにかく日本の中でプレーしたいっていう人が圧倒的に多いということなんです。でも、僕は、それぞれ事情があるにせよ行き場を失ってもなお条件が悪い日本にこだわる理由が分からない。J2で給料360万の1年契約、もしくはJFLでバイトをしながらサッカーをするという環境では、そこで1年間プレーしたとしてもその先に広がりが見えないと思うんです。それでも日本がいいっていうのは、アジアやその他の国についての啓蒙がまだまだなされていないということですね。

刈部 欧州以外はアジアの一部をのぞいて治安や環境が悪くて、給料も安いという先入観は持たれていますね。

佐藤 だけど、行ってみると全然違うわけです。本書に出てくる4人は皆、いかに先入観が邪魔していたかってことに気がつくわけです。だからサッカーが本当に好きなら選択肢を狭めて、自分から辞めちゃうようなことをしないでほしい。本当にサッカーが好きならグラウンドがあって、サッカーができれば、違う環境でもいいじゃないですか。人間としての幅を広げ、いろんな経験を積んで、そしてまた日本に帰ってきたっていい。それぞれが、それぞれのプロサッカー選手という生き方を模索していく。そういう人のためにもこういう本があってもいいかなと思います。

刈部 僕は香港とのつきあいが長くて友人もいますから、岡野雅行(現鳥取)が香港に渡ったときに友人を紹介したりしましたが、彼の話では、練習グラウンドも含めピッチが凸凹で、マメだらけになってしまい、しばらく得意の俊足が使えず、環境としては良くないと感じたらしいんです。でも、そこでプレーしていく中で、ネットワークが広がった、違うサッカーを知れたと感じ始め、すごくポジティブに捉えていました。誰もが点を取りたいから、岡野がコーナーキックのキッカー役ですからね?(笑)。そういうものもひっくるめて、かなり得たものはあったと。で、彼はその後日本に戻って、自分の故郷でもある鳥取で今年はキャプテンをやっているわけです。彼のやってきたことをいろんな形で生かすことができる、すごくいいポジションについた。岡野の例のように、選択肢の広げ方、考え方として、アジアやその他いわゆるマイナーと言われる国ももっと見てもいいと思いますね。