相変わらずJリーグは読めない。安定感に満ちたビッグクラブと呼ぶに相応しいクラブが育ってこないからだ。
首位を独走する鹿島は、18節からの5試合で1勝2敗2分けと失速した。ところが追いかけるチームも、一緒になってペースを落としてしまった。17節まで2位につけていた浦和は以後6連敗で急降下。3位だった新潟も、この間4連続引き分けで未勝利に終わった。さらに新潟と同勝ち点だった川崎も2勝2敗1分けだから、足踏みした鹿島との差を2ポイントしか詰めていない。上昇気運だったFC東京も連勝が途切れると、途端にペースダウンして足並みを揃え、序盤で出遅れたG大阪が無敗で切り抜け順位を上げたのが目立つ程度だった。

確かに鹿島はJリーグを代表する優良クラブである。だが少数精鋭が功を奏して伝統を築き上げてきたものの、クラブと街の規模を考えると、将来ビッグクラブに変貌するのは難しい。逆に鹿島が目標にするようなチームが出現しないようでは、Jリーグの水準や人気が心配になる。

欧州に目を転じると、92年にプレミアリーグが創設されたイングランドでは、マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、チェルシー以外の優勝チームが出たのは1度だけ(ブラックバーン)。またリーガ・エスパニョーラも、アスレティック・ビルバオが84年まで連覇したが、それ以降の25シーズンで、レアル・マドリーとバルセロナが揃って優勝を逃したのは4度しかない。そしてセリエAにしても、91〜92年以降でミラン、ユヴェントス、インテル以外でスクデットを獲得したのは、ローマの2つのクラブがそれぞれ1度だけである。

3大リーグを代表するビッグクラブは、ロンドン、マンチェスター、マドリード、バルセロナ、ミラノ、トリノなど比較的大都市を拠点とし、クラブ全体に勝者のメンタリティが染みついている。勝つことが宿命づけられた伝統があるから、そこにはその重みを知る選ばれたプレイヤーたちが集結してくる。一方でこれらのクラブは、互いに欧州の頂点を意識して競い合っている。だから1シーズンでも失敗すれば、改革が迫られる。昨シーズン、バルサに三冠を獲られたレアル・マドリーが逆襲に転じたのが典型例だ。

ところがJリーグでは、昨年大失敗をした浦和が目立った補強をしなかった。連覇を狙う鹿島も即戦力の大きな補強はなし。ACLの連覇を狙ったG大阪が移籍市場を賑わせた程度だった。
人気、規模、資金力から考えて、当然日本でリーダーになるべきなのは浦和である。従来の浦和は、いくらタレントを買い集めてきても、組織力として昇華する方法論を持たなかったので、フィンケ監督招聘という改革には一理ある。実際新監督は、クラブにコンセプトを植え付け、歴史を覆し下部組織で育てた若手を大胆に抜擢した。しかし浦和レッズは、ドイツでエレベーターチームだったフライブルグとは違う。目指すべきなのはバイエルンのようなビッグクラブ。勝ち続けることで壮大な歴史を築いていくためには、育てて引き上げることと並行してビッグネームを補強し、常に刺激に満ちた競争原理を維持しておく必要がある。むしろリーダーなら、育てた選手を海外に売り、その資金で有能な助っ人やライバルクラブの主力を買い、チーム力を高めていくサイクルの確立が求められる。

新スタジアム構想が実現すれば、下部組織に定評のあるG大阪にも可能性があるだろうし、名古屋やFC東京にもビッグクラブに育つ潜在力は感じられる。少なくともこうしたチームこそが斬新で積極的な強化プランを用意し、J改革を牽引していかないと未来は暗い。本来、鹿島、川崎、新潟などの好チームは、良き挑戦者としてクローズアップされる方が健全である。(了)


加部究(かべ きわむ)
スポーツライター。ワールドカップは1986年大会から6大会連続して取材。近著に「大和魂のモダンサッカー」(双葉社)「忠成〜生まれ育った日本のために」(ゴマブックス)など。