急激な円安は、アベノミクスの成果?「いいえ、主な理由はアメリカの事情」
8月後半から続く円安。輸出には有利な材料となるため景気向上の兆しとも受け取れるが、残念ながらアベノミクスの成果ではなく、アメリカの事情に過ぎない。
たった1ヶ月ほどで7%も上昇したのは、ゼロ金利政策の解除を見越してドル買いが進んでいるためで、日本の輸出増への期待からではない。期待どころか、低金利が続く「円」が見限られた結果でもあるので、ぱっとしない景気が当分続きそうだ。
■金利と人気は比例する?
ドル/円のバランスが急変したのは8月後半だ。8月〜現時点の毎週金曜日の終値をあげると、
・8/1 … 102.61円
・8/8 … 102.04円
・8/15 … 102.34円
・8/22 … 103.92円
・8/29 … 104.05円
・9/5 … 105.08円
・9/12 … 107.32円
・9/19 … 109.01円
と、8月中旬まではほぼ変化がなかったのに対し、後半になると毎週およそ1円、9月は週に約2円のペースで高騰している。第2次安倍改造内閣が発足したのが9月3日で、もとより円安=輸出強化を推進していたため、アベノミクスの成果と思われがちだが、残念ながら偶然でしかない。
おもな理由はアメリカの事情で、長らく続けられてきたゼロ金利政策が、ちかぢか解除される「だろう」という見通しからドル買いが進んだことにある。
ゼロ金利政策は、銀行間でお金を貸し借りする際の金利を下げることを意味し、これは市場が混乱した際に、お金が借りられずに倒産する企業を減らすのが目的だ。利息を下げればもうけが減るのは当然だが、倒産してしまえば元も子もない。
この非常手段の解除は景気の向上を意味し、金利が上がれば利息も増えるので、ドルの人気も当然上がる。一連の値動きは、円安よりも「ドル高」と表現するのが適切だろう。
■円安がまねいたコスト増加
急激な円安は、文字通り円の価値下落も意味している。低金利が続く「円」を持ち続けてもメリットがないため、ドルに乗り換えられているのだ。
アメリカと同様に、日本でも金利を引き下げる金融緩和がおこなわれ、世の中を流通するお金を増やす政策がとられている。上がると予測されるドルに対し、日本の金利は下がり続けているため、もし貯金するなら、どちらがお得かは言うまでもなくドルで、円の魅力は相対的にも絶対的にも下がっているのだ。
日本の1年もの国債の利率(平均)の推移をあげると、
・2010年 … 0.128%
・2011年 … 0.135%
・2012年 … 0.106%
・2013年 … 0.089%
・2014年1〜8月 … 0.071%
で、9月22日時点では0.048%まで下落している。対してアメリカ国債は0.100%なので、どちらが得かは一目瞭然だ。
円安を追い風にして、輸出でもうけることはできるのか? ドル建ての取引なら、この1ヶ月で7%もの値上げに等しいが、貿易収支は26ヶ月連続で赤字が続いている。結果的に、円安はプラスに作用していないのだ。
貿易赤字はおもに、
1. 海外での現地生産の強化
2. 燃料の輸入増加
が理由で、1.は輸出量自体が減っているに等しく、また円安の影響で輸入価格が上昇するため、2.がコスト増加をまねいている。円安が進めば輸出でもうかるのは「理論上」正しいが、現状に照らし合わせると、残念ながらマイナス要因と考えるべきだろう。
■まとめ
・アメリカのゼロ金利政策が、解除される「見通し」
・低金利が続く円よりも、金利が上がるドルのほうが魅力的
・ここ1ヶ月の円安は「ドル高」と呼ぶべき
(関口 寿/ガリレオワークス)