「人間ドック」年代別の病気リスクを専門医が解説

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 人間ドックは、生活習慣病の予防やがんの早期発見などを目的とした、総合的な健康診断のこと。会社から案内され、年に1度は受けているという人も多いのでは。毎年A判定だったのに、急に「要検査」という結果が出てびっくりなんて話も聞きます。注視しておくべき項目や最近人間ドックから発覚した病気など、知っておきたい人間ドックのポイントについて、八王子クリニックの井藤尚武先生に聞きました。

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■病気の早期発見に有効な「人間ドック」、“痛くない乳がん検査”など新しい検査方法の導入も

Q:人間ドックと健康診断の違いを教えてください。

【井藤尚武先生】人間ドックも健康診断も“病気の早期発見”という共通目的はありますが、検査の精密さに違いがあります。健康診断は採血や尿検査などで全体的な病気の兆候を確認するために、人間ドックは任意の部位を詳細に検査するために行います。

例えば、乳がんの家系の20代の女性が一般的な健康診断のみで乳がんの確認はできませんが、人間ドックではより詳細に乳房の検査を行うことができます。

また、健康診断と人間ドックでは法的義務の有無が違います。企業に勤めている方の場合、労働安全衛生法に基づいて年に一度の定期健康診断が義務付けられています。人間ドックには法的義務がないため、基本的にはすべて自費で受診しなければなりません。そのため、人間ドックのほうが高額な費用を要する点も大きな違いとして挙げられます。

Q:人間ドックならではのメリットとは?

【井藤尚武先生】人間ドックは健康診断と比べて検査項目が多く、ひとつの臓器を様々な視点で精密に検査することができます。これらの検査を組み合わせて全身を網羅的かつ詳細に調べることもできますし、ご自身が特に心配している部位を詳細に検査することもできます。

具体的に言えば、身体計測や血液検査、胸部X線、尿検査といった一般的な健康診断の検査に加えて、胃カメラ、大腸カメラ、CT、MRI検査を用いて、目的、部位、性別ごとのコースが選べることも人間ドックならではの特徴でありメリットと言えます。

現在も新しい検査方法が考案されており、当院でも導入している「痛くない乳がん検査」や長時間の下剤処理が不要でカメラも挿入しない「大腸3D-CT検査」なども受けることができます。

Q:最近、人間ドックで見つかることが多い病気はありますか? 生活習慣病や30〜50代に増えている病気があれば教えてください。

【井藤尚武先生】最近、人間ドックでよく見つかる病気の1つにIPMNとよばれる膵臓の腫瘤があります。画質が向上したことで小さなものでも見つかることが増えてきました。良性の病変なのですが、膵臓がんとの関係が指摘されています。そのため小さいうちから専門科での適切なフォローアップにつなげていくことが可能になりました。

Q:女性で増えている病気は?

【井藤尚武先生】30〜50代女性で増えているのは乳がんです。乳がんは日本人女性がもっともかかりやすいがんで、発症リスクは30代後半から急激に高まり、30歳から60歳までは乳がんが女性の死因第1位です。30代女性は乳腺の密度が高いため、マンモグラフィ検査は不向きとされています。特に乳がん検査は痛みを伴うため敬遠されやすく、海外の受診率と比較すると日本は半分以下というデータもあります。自覚症状が出た時にはすでに進行している場合が多いですが、早期発見では5年生存率が100%近いため年一回の定期検査が強く望まれます。

Q:乳がんや子宮頸がん検診は、企業から費用補助が行なわれることも多いですが、それ以外で女性がプラスしておくといい検査はありますか? また、婦人科系に限らず、一般的な健康診断に入っていることは少ないが、男女問わず調べておくといい項目があれば教えてください。

【井藤尚武先生】女性では、閉経と共に女性ホルモンが低下することで骨の量が急激に減少します。そのため「骨密度検査」で若いうちに自分の骨の状態を知っておくとよいでしょう。

男女共通の項目としては、血縁者が脳梗塞や心筋梗塞になった方や糖尿病、高血圧、脂質異常症で治療をしている方は若いうちから脳や心臓のドックを受けるのがおすすめです。遺伝性のあるがんが血縁者にいる場合は、乳がんであればマンモグラフィだけでなく乳房超音波検査やMRI検査を追加する、大腸がんであれば便潜血検査だけでなく大腸内視鏡検査や大腸3D-CT検査を選択するといった、自分に合わせた選び方がよいでしょう

■がん以外にもあった、結果で見ておくべき項目とは

Q:人間ドックの結果でチェックすべきポイント(項目)について教えてください。

【井藤尚武先生】がんに関する項目に目が行きがちですが、私は受診者の方々に「動脈硬化性疾患の項目を特に注意してください。」と伝えています。健康診断にもある血圧、コレステロール値などはもちろん重要ですがこれは間接的に動脈硬化を見ているだけです。より直接的に動脈硬化を見る、頸部エコー検査や脳MRI検査や冠動脈CT検査がチェックすべき項目となります。

動脈硬化は増悪すれば、心筋梗塞や脳梗塞などの致死的な疾患につながりますし、一命を取り留めても重篤な後遺症を残すことも少なくありません。“健康”寿命を伸ばすためには必須の項目と言えるでしょう。

Q:病気の早期発見につながる人間ドック。やはり年に1回の受診は必須ですか?

【井藤尚武先生】ドックの頻度は年齢によります。20代であれば一般的な健康診断でも十分です。心配な症状があれば病院を受診して検査を受ければ良いです。人間ドックは不安が強い方などが補助的に利用すると良いでしょう。

30代では仕事で役職についたり、結婚、育児など生活スタイルの変化と共に生活のストレスも上がり十分な睡眠が取れなくなったり、暴飲暴食につながったりすることも少なくありません。働き盛りで病院に行くこともできない年齢層ですから、知らず知らずに生活習慣病になっていきます。健康診断でもわかる病気の兆候はあるので蔑ろにせずによく確認して生活習慣の改善で病気は予防できます。個々人の体質や生活環境で健康に差がでてくる年齢層ですから、生活習慣病がある方は人間ドックでより詳細に確認することが良いでしょう。近年30代前後での子宮頸がん、乳がんの増加が指摘されており、女性は特にがん検診を受けることが重要です。

Q:40代以上になると、がんが増加していきます。40代以上の人間ドック、健康診断の受診の仕方とは?

【井藤尚武先生】がんはとにかく早期発見が一番の治療方法ですから、健康診断だけでなく定期的に人間ドックを受けることをおすすめします。1年に1回受けると多くのがんを早期発見する確率は上がりますが、市区町村の対策型がん検診も始まりますので人間ドックはさらなる精密検査として上手く利用すると良いでしょう。

60代以上の年齢では、がんだけでなく生活習慣病から心筋梗塞や脳梗塞などを発症する年齢になりますし、認知症、脊椎の変形、骨粗鬆症、筋力低下など、健康生活の質が落ちていきます。早めの対策をするためにも1年に1回の定期的な人間ドックは健康長寿を目指すための重要な健康戦略になると考えています。

記事監修/井藤尚武先生

医療法人社団斗南堂八王子クリニック新町院長。日本外科学会専門医。2013年、愛知医科大学医学部卒業。東京女子医科大学東医療センター、中通総合病院、流山中央病院、Weill Cornell Medicine(米国留学)を経て2021年から八王子クリニック新町の院長となる。消化器の外来診療、肛門病の日帰り手術、消化器内視鏡をはじめ、健診や人間ドックなどの予防医学、在宅医療に従事している。また、AIを得意としComputer visonによる転倒検知システム、院内の予約システム、人間ドックのコメント作成システムなどを現場の視点で自らが作成している。専門分野は一般外科、消化器全般、肛門病、AI関連業務。