飲み会の最中、いきなりアラサー女に詰め寄って…。その場を凍らせた、26歳港区女子の発言とは
今となっては昔のことですが、港区に沙羅という女が生息していました。
「今夜、食事会あるんだけどどう？」と言われれば飛び入り参加して、必死に“彼氏候補”を探したものでした。
ある日、ようやく彼氏ができて食事会に行かなくなりましたが、その彼にも…。
残念に思って2年半ぶりに港区へ近寄ってみると、そこには以前と全く別の世界が広がっていたのです。
▶︎前回：付き合う男を「金持ちかどうか」で選んでいた女。33歳独身になったとき、そのツケが回ってきて…
「うわ、みんな海外行ってる。いいなあ〜」
ソファに寝転んでInstagramを見ていた私は、大きなため息をついた。
3年ぶりに行動制限のない夏。普段港区に集っている男女もこぞって海外旅行をしているようで、それらの投稿がタイムラインにあふれ返っていたのだ。
中には「家族4人で合計300万以上です！」だとか、具体的な金額を書いている人もいる。
金額を書くのはさすがに品がないなと思ったけれど、それでもやっぱり海外に行っている人たちが羨ましい。
以前は、元カレが国内外問わずいろいろな場所へ、しかも最高級のホテルに連れて行ってくれた。でも今は、一緒に行ける人もいなければ、行く機会すらない。
「あ〜あ。ハワイ行きたいなあ」
そんなことをつぶやきながら、私は部屋着を脱ぎ捨てて出かける準備を始めた。
今宵は、先日再会した港区おじさん・藤堂さんのお誕生日会に参加するのだ。
でもこの日、私は「コロナのせいで、世の中の価値観が180度変わったんだ」ということを痛感したのだった。
港区民の海外旅行お決まり事項は、ラウンジでカレーを食す！？
藤堂さんの誕生日会は、六本木にある知人のお店を貸し切って行われていた。
しかし、さすがに1人で参加するのは心細い。そこで元戦友であり、今は一児のママをしている美穂に付いてきてもらった。
「外で飲むの久々だな〜。しかもあの藤堂さんでしょ？あの人、まだ港区で遊んでるんだね」
子どもは旦那さんが見ていてくれるそうで、夜の六本木に快く出てきてくれた美穂。久々の夜遊びに、心なしか彼女の頬は紅潮している。
「美穂、ありがとうね。本当に助かった」
「いいのいいの！私も久しぶりに遊びたかったし。しかし相変わらず、藤堂さんギラギラしてるね〜」
彼女にグイグイと引っ張られ、人をかきわけながら、本日の主役である藤堂さんに挨拶をする。
「藤堂さん、お久しぶりです」
「えっ、美穂ちゃん！？すごい久しぶりだね〜」
2人が昔話に花を咲かせている間に、私は華やかな誕生日会の様子を冷静に見ていた。男女半々ずつだけれど、男性の平均年齢は40歳くらいだろうか。
その一方で、女性の平均年齢は28歳くらいな気がする。
「沙羅ちゃんも、来てくれてありがとうね！美穂ちゃんも相変わらず綺麗だし、2人並ぶとやっぱり目立つね」
ようやく美穂と話し終わった藤堂さんが、私の方にやってきた。
「そんなそんな。それより、お誕生日おめでとうございます！…って、あれ？藤堂さん、日焼けしました？」
よく見ると、前回会ったときより肌がこんがりと焼けている。
「ゴルフ焼けですか？」
「ううん。ちょうど先週、ハワイに行っててさ」
「ハワイですか！？いいな〜♡」
「久しぶりに行ったけど、やっぱりいいよね。思わず『ただいま』って言いたくなるよね」
「わかります〜！ハワイは東京の24区目ですからね」
そんな“ハワイ談義”で盛り上がっていたときのことだった。背後から、聞き覚えのある声がしたのだ。
「あれ、沙羅さん？いらっしゃっていたんですね〜」
振り返ると、相変わらず可愛い萌ちゃんが立っていた。
「なんの話をしていたんですか〜？」
萌ちゃんのクネっとした仕草に、隣にいる美穂がすでに若干のイラだちを募らせているのがわかった。私の腕を、肘でツンツンしている。
「いや、この前久しぶりにハワイに行った話をしててさ」
藤堂さんの説明に、萌ちゃんは目を輝かせる。
「ハワイ、いいですよね」
すると横から、美穂が話に入ってきた。
「昔、よく沙羅と一緒に行ったよね。とりあえずラウンジでカレーを食べてさ…」
「そうそう！懐かしいよね」
すると萌ちゃんが突然クスクスと笑い出し、こんなことを言ったのだ。
コロナで変わった価値観と、港区海外事情
「『ラウンジでカレー食べました』ですか…。それってひと昔前の人たちがよく投稿してた『ビジネスクラスで飛行機乗ります』って、微妙にアピってるヤツですよね（笑）」
失笑する萌ちゃんに対し、私たち2人だけでなく、藤堂さんまで何も言えずに固まっている。
「ははは…。そうなのかな」
20代の人たちは、知らないかもしれない。
SNSが流行り出した頃。海外旅行へ出発する前には、皆同じような写真をアップしていた。それが「今、ラウンジでカレー食べてます！」という投稿だ。
萌ちゃんのおっしゃる通り、これは「さりげなくビジネスクラス、もしくはファーストクラスを利用しています」というマウンティングだった。
しかし彼女に言われて気がついたけれど、最近の20代の子たちでそんな投稿をしている人は少なくなったように思う。
ひと昔前の“ギラギラ系港区”の人たちは、こぞって自慢げにカレーの投稿をしていたのに…。
ガックリと肩を落としながら、その場を離れた私たち。しかし去り際に放たれた萌ちゃんの言葉に、思わず振り返ってしまった。
「それに今どき、海外旅行でマウントなんて取れない気がしますけどね」
「えっ…！？」
すると私たちの会話を聞いていた、萌ちゃんの取り巻きのような若い子たちも口を揃える。
「まぁね。このご時世、海外へ行くも自由、行かないも自由だし」
「うん。コロナで人それぞれって感じだよね。もちろんハワイは大好きだけど、それは自分たちが行きたいから行くだけで。SNSに投稿しないこともあるよね」
「うんうん。それか時差投稿とか」
稲妻が走ったような衝撃だった。
「ねぇ。最近の港区って、何なの？」
シャンパンを飲みながら、美穂がぐったりしている。私も同感だった。少し前まで、海外旅行は恰好のマウンティング材料だったのに。
「どこぞの高級ホテルへ行った」とか「予約の取れない海外のレストランで食事した」だとか。「ビジネスクラスやファーストクラスは当たり前で、プライベートジェットで海外へ行った」などなど。
でもコロナを経て、人々の価値観は変わった。
それぞれ行きたい場所へ、行きたいタイミングで移動する。
以前のように、旅行先でその人のランクが決まる時代は終わったのかもしれない。
「なんか…。こういう盛大なお誕生日会も、久しぶりで懐かしいよね」
「うん、そうだね」
こうして隅っこでちびちびとシャンパンを飲んでいると、主役の藤堂さんまでやってきた。
「今日は、来てくれてありがとうね」
「いえいえ。私はやっぱり、こういう華やかな会が好きですけどね」
「うん。俺も、シャンパン大好きだよ」
世代間ギャップを感じながら、私と美穂は早めに退散したのだった。
▶︎前回：付き合う男を「金持ちかどうか」で選んでいた女。33歳独身になったとき、そのツケが回ってきて…
▶1話目はこちら：同棲中の彼にフラれ、婚活市場へと舞い戻った33歳女。そこで直面した残酷な現実とは
▶NEXT：9月5日 月曜更新予定
“理想的なプロポーズ”の内容も、すっかり変わっていて…？
