裕福な暮らしから一転、激貧のアルバイト生活へ…。どん底を味わった男の、意外な40代の生活
年収8桁は当たり前。
予約のとれないレストランに頻繁に通って、
画面の向こう側の人たちとコネクションがあって、
美男美女で賢くて…。
「あの人みたいになりたい…」とみんなから羨ましがられるハイスぺたち―。
けれど…
そんな人間も、実は人知れず意外な闇を抱えていること。
あなたはご存じですか？
▶前回：「これだから東大生は使えない…」社長がついそう思ってしまった、東大出身女子の奇行
ケース7： 成功してしまった社長
「え〜、すごい！！そこって芸能人とかたくさん住んでるところですよね！？え〜行ってみた〜い」
薄暗い個室でも、彼女が発するオーラが只者ではないということがよくわかる。
ひと昔前なら、僕はこの状況に猛烈に興奮していただろう。
彼女に対してもそうだし、こんな美女から羨望の眼差しで見つめられる立場にまで上り詰めた、自分自身にも──。
「ねぇ…、聞いてる？」
「あぁ、ごめん…。今度おいで」
「え〜、やった〜嬉しい！！」
けれど、今の僕は別の感情に支配されている。
― どうしたら、この状況から抜け出せるのだろう…。
◆
僕は学生時代、金銭的にかなり苦労した。
元々はそれなりに裕福で、私立の中高一貫校に通っていたけれど、高校2年生の頃、父が営む町工場が倒産。
うちは多額の借金を抱えた。
私立の学費なんて払える余裕はなく、高校を退学し、地元の高校へと転校したのだ。
毎日大好きなサッカーに明け暮れていた日々から一転、素行の悪い学生たちに囲まれながら、アルバイトに明け暮れる毎日へと一変した。
「にいちゃん、若いのに大変だなぁ」
朝の新聞配達をするとき、ふとそんな言葉をかけられたことがあった。
「いや、別に…」
「でも、若いころの苦労は買ってでもしろっていうからな。きっと、いつか今の思いが糧になる日がくるさ…」
「…」
40歳くらいの男の人だったと思う。
彼は僕を慰めようとしてくれていたのはわかったけれど、当時の僕は素直にそれを受け取れなかった。
自分が慰められる立場の人間なんだという事実が、どうしようもなく悲しかった。
引っ越しやら工事現場やらの力仕事のアルバイトでは、もっとわかりやすく罵倒を浴びせられることもあった。
― お前だって、大したことないくせに…。
喉元まで出かけた言葉をのみ込みながら、僕の中に確かに“悔しい”という感情が蓄積していったように思う。
そんなふうに苦々しい思いに押しつぶされそうになった帰り道、前の高校の同級生たちが、楽しそうに歩いている姿を見かけることもあった。
― なんで、なんで、僕だけが…。
あの時の言い表しようのない感情を、僕は一生忘れることはないと思う。
彼らに気づかれないように、じっと下をうつむきながら歩いたあの時間は、間違いなく僕の人生のどん底だった。
誰が悪いっていうわけじゃない。
父親を責めるつもりもない。
ただただ、僕は不運だっただけだ。
けれど、その不運に飲み込まれたまま泣き寝入りするなんて…死んでも嫌だった。
その時の、喉につかえるような、言いようのない負の感情は、僕の野心を駆り立て…。
僕は、這い上がってやると心に決めた。
次の日から、僕は必死に本を読みあさった。
どうにかこの状況から脱したい。けれど、どうしたらよいのかわからない。まず、本を読もう。
呆れるほどに単純な思考回路だったけれど、今思い返すと、その手順は間違っていなかったなと思う。
僕は、ある手段を思い付いた。
僕は必死にアルバイトをしながら、お金をためた。
そして、高校を卒業すると同時に、一応関東といえる県内にあるボロ家をタダ同然で購入。そこで寝泊まりしながら、家の中を自分一人の手で必死にリフォームした。
本を読みあさるうちに、僕は気づいたのだ。
財を成す人の多くは、“不動産”というものに手を出しているということ。
そして、小さい物件からかもしれないけれど、それは僕にでも始められる、ということにも。
来る日も来る日も、ネット記事やアップされた動画を見本に、自分なりにリフォームを進めた。
配管から水が溢れだすこともあったし、見たこともない形状の虫を前にして背筋が凍ったこともあった。
けれど、愛情と時間をかけ、一生懸命にその家を再生していった。
そして、最初は今にも壊れそうなそのボロ家が、自分の手で徐々に息を吹き返していく様を見ると、僕の中でじわりじわりと何かが目を覚まし始めるような感覚がした。
― 僕だって、このままじゃ終わらないぞ…。
無事に客付けも完了し、利回り25%という破格の物件を自分の手でつくることに成功した。
でも、そんな収入じゃアルバイトに毛が生えた程度だ。僕はそれからも同じようなことを繰り返した。
少しずつ規模を拡大させ、25歳の頃には不動産収入だけで8桁を超えるまでに成長した。
けれど、それでも飽き足らなかった僕は、事業を始めた。時間はあったし、もっと、もっと成功したかったのだ。
次に僕が始めたことは、何を考えたか、飲食店経営だ。
一度自分の事業を失敗に終わらせている父親からは大反対されたが、それでも僕の野心…エネルギーみたいなものは、それを押し切った。
結果、事業は、全国でチェーン展開するに至るまでの大成功を収めた。
◆
傍から聞いたら、ありがちな話かもしれない。
よくあるサクセスストーリー。
なんなら、もっとどん底からもっと高みへとジャンプアップしたノンフィクションは、いくらでも存在する。
けれど、物語の主人公として、僕は自分の人生を誇らしく思っていた。恥ずかしながら、自分の身の上話をする時には、ついつい熱が入ってしまう。
けれど…。
40歳を超えたあたりからだろうか。僕は、想像もしてみなかった壁にぶち当たった。
一通りの成功を収めてから、何にも楽しみを見いだせなくなってしまったのだ。
金はある。名誉もある。正直、誰からも羨まれるレベルのものを持っている。美しい女性だって、一通り経験した。自分が思いつく限りの欲しいものはすべて手にした。
その結果、無気力になってしまったのだ。
十分な資産があれば、もうそれでいいじゃないか。そう言われるかもしれないけれど、どうしようもなく人生がつまらない。
ときおり、新しい事業を一緒にやらないかと声がかかる。最初は心躍るのだが、ちょっと真剣に考えると、何となく見通しが立ってしまうのだ。
それって、とてもつまらない。
勝つことが決まっているゲームなんて、誰がプレイするだろうか。子どもでさえ、そんなもの手に取らない。
この前、何かのネット記事で読んだ。人気絶頂のアイドルグループは、大きな賞を取ったときの感想が“無”だったという。仲間と我武者羅に練習していた時代が、もしかしたら1番楽しかったのかもしれない、と。
僕もそうなのかもしれない。
ボロ家をひとりでせっせと直していたあの時。何かにむかってひたむきに走っていたあの時が、僕の人生で一番輝いていたのかもしれない。
だからといって、成功しなければよかったとは思わない。
…でも、だったらどうなればよかったのか─。
もうすこし時間をかけて、晩年で成功を収めるのが、人生トータルで1番幸せなのだろうか──。
そんな考えに今更気づいても、もうどうしようもない…。
まだまだ体力も気力もありあまる40代で、一通りの成功を収めてしまった僕は、このエネルギーをどこに向けていけばいいのか。
誰か、本気で教えてほしい。
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すべてを手にしたハズだった女
