「夫がキモい！」お金目当てで13歳上の男と結婚した女が、結婚9年目に見た恐ろしい光景
「30過ぎてまで、何やってるの？」と、時に人は言う。
東京における平均初婚年齢30.5歳を境にして、身を落ち着かせる女性が多い一方で、どうしようもない恋愛から抜け出せない人がいるのも事実。
他人には言えない心の葛藤、男女の関係――。
30歳を過ぎた。でも私は、やめられない。
少し痛いけれど、これが東京で生きる女のリアルなのだから。
▶前回：「私、結婚願望ないから」と言い放ち、彼女持ちの男を狙う30歳女。やめられない“ある行為”と心の闇
Vol.4 茜、34歳。西麻布で遊ぶのを早々に切り上げたけれど…。
「茜さんどうしたんですか？今日は元気ないですね」
「ちょっと久しぶりに会った友達にあれこれ言いすぎちゃって…」
「そうなんですね。ケンカ…とかですか？」
「いや、友達が、彼女持ちの男性に色々アタックしているみたいで…。つい説教してしまいました。あはは」
「そうでしたか。でも、相手の方のためを思って言ったなら、きっとわかってくれてますよ」
涼太はそう言いながら、シャンプーを始めた。
表参道にある行きつけの美容室。
カットの担当はベテランの女性スタイリストなのだが、シャンプーはアシスタント。
トップスタイリストに洗ってもらうのは、なんだか恐縮するので、むしろありがたかった。
― あ〜。やっぱり上手だなぁ。
何回か他のアシスタントにやってもらったこともあるが、涼太のシャンプーが一番気持ちがいい。
「あの、シャンプーの指名ってできるんですかね。できれば、毎回涼太さんがいいな、って」
「えっ。本当ですか？嬉しいなぁ！じゃあ茜さんの時は、僕が担当しますね」
― やっぱり若い男の子ってかわいい…！
テンションを上げて答えた涼太のことが、なぜかとても愛おしく感じた。
私が結婚したのは、25歳。もう9年前のことだ。
それまでは、年上には全く興味がなく、歴代の彼氏は、全員、同年代か年下。
そもそも、男性を選ぶ基準はお金ではなく、見た目だった。
毎晩のように、西麻布や六本木で遊んでいた楽しくて刺激的な毎日。出会う男性も芸能人や会社経営者ばかり。
でも、そんな日々はいつまでも続かない。
私はあの街で男性たちに相手にされなくなるのが、何よりも嫌だった。そして、思いついたのだ。
「需要があるうちに、この世界から脱出すれば、この不安はなくなるはず」
だから、25歳という若さで結婚した。一緒に遊んでいた女の子たちの、誰よりも早く。
結婚したのは、13歳上の、当時38歳の男だった。
しかし今は…。
私が結婚相手に選んだ夫は、現在47歳になった。
結婚当時から体重は10キロも増加。白髪も目立つし、最近はおじさんっぽい臭いもしてきている。
正直言って、もう男として見られない。
いや、最初から好みではなかったという方が正しいのかもしれない。
アラサーになっても、まだふらふらと遊んでいる子たちをSNS上で見て、私は正しい決断をしたと確信していた。
でも…本当は、心のどこかで羨ましかった。
好きなときに、好きな男性と気ままに遊んでる彼女たちが。
◆
「ただいま」
「遅かったな。夕飯どうしよっか」
家に帰ると、夫がソファで寝転んだまま私に問いかける。
「今から作っていい？簡単なものになっちゃうけど」
「ほ〜い」
― ずっと家にいたなら用意してくれてもいいのに。
私はサラダとトマトのパスタを作り、ふたりで食卓を囲んだ。
野菜が食べたくて決めたメニューだが、夫はなんだか物足りなさそうだ。
その予想は当たり、夫はパスタの上に納豆を乗せて食べ始めた。
― まぁいいか。タンパク質不足だよね。
そう思ったのだが、夫はそれでも浮かない顔をしている。
「ねぇ、なんか肉買ってある…？あ、これ食っていい？」
夫は、焼肉用のラム肉のパックを持ち上げて、私に見せてくる。
― それ、平日のランチ用に買っておいたやつ…。
私が「いいよ」と言う前に、夫はフライパンでラムを焼き始めた。
しかも、なぜか換気扇を弱にしているので、独特の臭いが部屋に充満する。
― はぁ…。
私は無言で夫の横に行き、換気扇を強めた。
夫の仕事は、主に不動産会社の経営。そしてエンジェル投資家でもある。
しかも、昨年いくつかの会社を売却したため、数十億円もの資金が手元にあるのだ。
私が、彼と別れない理由はそれだ。
彼がいなければ、私は専業主婦なんかできないし、このラ・トゥール代官山での生活も、運転手付きのアルファードともお別れだから。
「茜も食べる？」
「ううん、大丈夫」
「あっそ」
食の好みと同じで、結局、男性の好みも変えられない。
私はやっぱり、涼太のように若くてかっこいい男性が好き。そうじゃない夫への態度は、日に日に雑になっていった。
そんな私の夫の態度に気づいているのか、夫の私に対する言動も変わってきたように思う。
― まぁ、別にいいや…。
私は、ラムの焦げがこびりついたフライパンを洗い、食器類を食洗機に入れ、一息つく。
ふと夫がいるソファに目をやると、スマホを握ったまま、うたた寝を始めていた。
iPhoneの画面は、Instagramのストーリーズが流れるように表示されている。
「もう、牛になるよ。ここで寝ないで」
そう嫌味ったらしく言っても、夫は起きない。
「……」
私は、数秒迷った後に夫のスマホを手に取り、LINEのトーク画面を開いた。
― やっぱりか…。
なんとなく他の女と遊んでいるような気がしていたが、あろうことか、大学生とやり取りをしていた。
しかも、予約困難な店に何度も行っている。
「ここ、私がずっと行きたがってたところじゃん」
見た感じ、その女子大生とは食事以上の関係はなさそうだ。というか、うまく転がされていて、相手にされていない感じがした。
しかし妻の私じゃなく、若い女と有名店に行ってお金を使っていることに無性に腹が立った。
ただ、今夫を起こしてケンカになるのもめんどうくさい。
私はスマホをソファに置いて、何事もなかったかのように、バスルームへ向かった。
それから1週間。
私にスマホを見られたことを知らない夫は、相変わらず女子大生と会っているようだった。
彼女と会う時は、夕方に必ずシャワーを浴びているし、服もちゃんとしたハイブランドのものやジャケットを選んでいる。
― おじさんがおめかししちゃって、バカみたい。
私は軽く軽蔑しながら、ピラティスやホテルのプールへ行って気分を紛らわせていた。
しかし、夫への不信感は消えるどころか、どんどん膨らんでいく。
「今日も遅くなるから」
「今夜は誰とどこで食べるの？」
「え？いつものメンツだけど」
― ふ〜ん。
夫は今日も小洒落た服装で、買ったばかりのトムフォードの香水を振りまいている。
ということは、また若い女の子と食事に行くのだ。それも、予約の取れない高い店に。
「私も今日遅くなるかも。だから気にしないで楽しんで」
「あっそう。りょーかい」
素っ気ない夫婦のやり取りを終わらせ、私は、タクシーを呼び表参道へ向かった。わざわざシャンプーとブローをしてもらうためだけに。
それでもいいから、とにかく他の男性と話したかった。
美容室に着くと、私のほかに女性客がひとりだけで閑散としていた。
出迎えてくれたのは、アシスタントの涼太だ。
「こんなに空いてるの、珍しいですね」
「今日は、店長も他のスタイリストも何人か本社に呼ばれてて、いないんですよ」
人が少ないのは、むしろありがたい。私は涼太のシャンプーを、目を閉じてじっくりと味わった。
それが、あまりにも気持ちよくて、席に戻り肩のマッサージが始まるタイミングで、つい口を滑らせてしまった。
「涼太くん、もしよかったら飲みに行きませんか？あ。今日じゃなくても後日でいいので」
涼太の手が止まる。
店内が静かなせいで、私たちの会話が丸聞こえなのも、かなり恥ずかしい。
私は、ドギマギしながら涼太の回答を待った。
「でも、茜さん結婚されてるんじゃ…」
「うん！してる。だから、そういうんじゃなくて、えっと…軽く飲みに行かないかなって。ごめんなさい。迷惑ですね」
私は手を顔の前でブンブンさせながら、早口で言う。鏡に映ったその様子がかなりダサくて消えたくなる。
「いやいやいや！全然！すみません。なんか、嬉しくてびっくりしちゃって」
涼太はドライヤーのコードの絡まりをほどきながら、言ってくれた。
「よかったら、このあと行きませんか？閉店まで30分くらい待ってもらっちゃうかもですが」
「…！はい。待ってます」
胸の奥を、ぎゅっとつかまれたような感覚。結婚してから初めての感情に戸惑った。ただ間違いなく、心は嬉しがっていた。
― ただ、一緒にお酒を飲むだけ。それだけ、それだけ。
私は自分自身に念を押して、髪を乾かされながら鏡を見つめ、バレないよう涼太を観察した。
オーバーサイズの黒いTシャツも、センター分けの前髪も、綺麗な肌も、すべてが私のタイプ。
「もしよければ、仕上げに巻いていいですか？」
「あ、うん。お任せします」
「OK！じゃあ、めちゃくちゃ可愛いのにしますね」
そう言うと、涼太は時間をかけて丁寧に外巻きをしてくれる。
「…ありがとう」
優しく微笑む涼太と、鏡越しに目が合った。
結婚しているのに、若い男にときめいたりして、自分でも結構ヤバイと思う。
― 夫や友達がしていることと、大して変わらないじゃない。
私は、自嘲しながら待合室のソファで涼太が仕事を終えるのを待ったのだった。
▶前回：「私、結婚願望ないから」と言い放ち、彼女持ちの男を狙う30歳女。やめられない“ある行為”と心の闇
▶1話目はこちら：「生活水準は下げられない」港区にしがみつく32歳女が、副業先のバーで流した涙
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「半径5m以内の男」しか、愛せないの…
