付き合う前に、体の関係を持ってしまった…。焦る女が男の部屋で見つけた、とんでもないモノとは？
「彼って…私のこと、どう思っているんだろう」
連絡は取り合うし、ときにはデートだってする。
自分が、相手にとっての特別な存在だと感じることさえあるのに、“付き合おう”のひと言が出てこないのはどうして？
これは、片想い中の女性にとっては、少し残酷な物語。
イマイチ煮え切らない男性の実態を、暴いていこう。
▶前回：社内の年下イケメンに恋した、美人秘書。自己肯定感がだだ下がりになった理由とは…
体の関係から始まる恋だって、あるはず…なのに（志緒・27歳の場合）
「…今日、凌くんの家に行ってもいい？」
学芸大学にある一軒家フレンチレストラン『ビストロ11』で、食事と自然派ワインを堪能したあと、私はささやいた。
凌が顔を寄せてくるように、わざと声のボリュームを落として―。
髪には、前に彼が好きだと言った『シャネル』のチャンス オー タンドゥルのヘアミスト。料理の邪魔にならないように、会社を出る前にほんの少しだけ吹きかけてきた。
それに気づいたのだろう。凌は、私の髪にグッと顔を近づける。そして、こう答えた。
「志緒ちゃん、甘いもの好きだよね？昨日もらったケーキが丸々残ってるから、一緒に食べようか」
― “もらったケーキ”って、何？誰から？
「ケーキ？食べたいかも。…もしかして、昨日お誕生日だったとか？」
「そうなんだよー。28歳になりました！」
どうやら彼は、誕生日という特別な日に、私ではないほかの誰かと会っていたらしい。
これには少しモヤッとしたけれど、何でもないふうを装う。なぜなら、私たちは、まだ恋人同士ではないからだ。
― まぁ、ほかの“女の人”からもらったケーキとは限らないし。それに、彼と私は、ただの知り合いってわけでもないんだから…。
マッチングアプリで出会った凌とは、定期的に食事をする…だけでなく、体の関係もある。しかも、“相性”だっていい。
連絡も普段からマメに取り合うし、2人でいるときの甘い空気感なんて、まるで恋人そのものだ。
それなのに、凌は、正式に付き合おうとは言ってこない。さらには、核心に触れられそうになると、話をたくみにスルーする。
…何か理由があるのだろうか。
私がマッチングアプリを始めたのは、4ヶ月前。
同僚が、マッチングアプリをやってみたら『信じられないくらいモテた』と、鼻息を荒くして言ったのがきっかけだった。
― 確かに、彼女は美人だけど。私が登録したら、もっとモテると思うんだよね。
大手家電メーカーのショールームで働く私は、更衣室の鏡に制服姿の自分を映す。
クラシカルなのだけれど、バストからウエスト、ヒップのラインが強調されたアイスグレーのワンピース。その首元にふんわりとスカーフを巻き、メイクにも力を入れる。控えめに言って、20代前半にしか見えない。
「私もやってみようかな。前の彼氏と別れてから、もう3ヶ月だし」
同僚が勧めてくれたマッチングアプリに登録してみた。すると、その日のうちに“いいね”が70件もつき、早くも手応えを感じる。
スクロールしながら“いいね“してくれた男性のプロフィールを見ていたとき、ある男性が気になって手を止めた。
― この凌さんって人、タイプかも！ 年齢は1つ上で、仕事は…パラリーガル？法律関係ね。
白いシャツに、ボストンタイプの丸い黒縁眼鏡。黒髪にはふんわりとパーマがかかっていて、セクシーな印象のプロフィール写真。
一目見て、彼のことを気に入った私は、すかさず“いいね”を返す。するとマッチングが成立して、凌からメッセージが送られてきたのだった。
凌：はじめまして！素敵な方と出会えて嬉しいです。よろしくお願いします。
志緒：はじめまして！実は私、今日登録したばかりなんです。これから、どうやってやり取りをしていったらいいんですか？
― なんて答えてくるかな？これで、彼がマッチングアプリに慣れているか、わかっちゃうかも。
私の初々しさのアピールにもなるし、彼がマッチングアプリに慣れているかわかるいい質問をした、と自分でも思う。
凌：それが、僕もよくわからなくて。これまで、メッセージを送り合っていた女性が何人かいたんですが、気づいたら連絡が途絶えている…っていうパターンばかりでした（笑）。
思いのほか正直な答えが返ってきたので、単純な私は、早くも心を許してしまいそうになる。
志緒：えーそうなんですか？凌さんって、絶対モテると思うんですけど。
こんなふうに、テンポのいいやり取りが2週間続き、LINEを交換。
その翌週には、私の職場の近くにあるタイ料理店で1回目のデートをした。
タレ目で、声がよく通る人気のミュージカル俳優に似ている彼は、色気がだだモレ。気がつくとつい、うっとり見つめてしまっていたほどだ。
― これはもう、好きになるに決まってるよ。
そして、3回目のデートのあと。彼の家に行くと、あっさりと体の関係を持ってしまったのだった。
翌朝。
「おはよう。朝ご飯食べる？作っておいたから、よかったら」
私が9時頃目を覚ますと、凌は先に起きていて、テーブルには厚切りの食パンを使ったフレンチトーストとフルーツが用意されていた。
― うそ…海外ドラマみたいじゃない！？
「ありがとうー！」
感動した私が凌に抱きつくと、彼も背中にギュッと腕をまわしてきた。
付き合う前に体の関係を持ってしまったけれど、この感じなら、そのうち恋人になれるだろう。私は、そう確信していた。
ところが、2回目、3回目のお泊まりのあとも、同じように満たされた朝を迎えるものの、“付き合おう”という言葉を聞くことができない。
― ちょっと待って。このままだと、私ってただの…体目的？
体目的だなんて冗談じゃない。そう思ったらつい、朝からヘビーな質問が口をついてでた。
「凌くんって、今彼女とかいないんだよね？」
「ん？いないよ。もしいたら、こうやって志緒ちゃんと会ったりしないでしょ」
返ってきたのは、核心に触れない答えだ。「聞きたいのはそこじゃない」と思った私は、一気にたたみかけることにした。
「じゃあ、私のこと…どう思ってる？」
「…素敵な人だなって。かわいいし、一緒にいて楽しいよ」
それでもまだ、彼の口からは、望む言葉が出てこない。そうこうしているあいだにも、出勤する時間になってしまった。
この際、自分からのアプローチでもいいから、凌と恋人同士になりたい。
そう思ってなんとか約束を取りつけたのが、金曜日の夜だった。
「ケーキが丸々残ってるから」と凌も積極的に応じてくれた。
しかし彼の部屋で私は、気持ちをスッと冷ややかにする“あるモノ”を見つけてしまうことになる―。
「お邪魔します」
「どうぞー！あ、スリッパはこれね」
― はぁ、よかった。これまでと変わった様子はなさそう。
誕生日に一体誰が来ていたのかと不安だった私は、気づかれないように室内を見渡し、安堵のため息をもらす。
「志緒ちゃん、もうケーキ食べる？」
「う、うん！いただこうかな。あっ、なにか手伝うことある？」
ソファから立ち上がって、キッチンへと向かう。
― これって昨日の洗いもの？…なんか、多くない？
ふと、シンクの横に置かれた水切りラックを見ると、そこには明らかに2人で食事をしたことがわかる食器とカトラリーが並んでいたのだった。
「あ、志緒ちゃん。ちょっと待って」
凌は、テーブルにケーキの箱を運んできたかと思ったら、不自然にキッチンのほうを振り返った。
私もキッチンの方を見た瞬間、凌が、箱の側面に貼られていた小さなメッセージカードらしきものをはがして、隠す姿が視界の端に入ってきた。
それに気づいた私はわざと尋ねる。
「凌、それ何？お店のカードだったら、どこのケーキか知りたいから、見せてよ」
「ああ、これは領収書かな…」
突然慌て始めた彼のことを、どこか冷静に見ている自分がいる。
― しどろもどろって感じ。昨日この部屋で女と会ってたんだろうなぁ。
他の女の痕跡を見せられた私は、すっかり気持ちが冷めていた。
「じゃあ、食べようか」
やっと出てきたケーキは、これもまた2人で食べ切るのにちょうどいい4号サイズ。
「…“Happy Birthday！Ryo♡♡♡”だって？」
どうして、ケーキだけ手つかずなのかはわからない。けれど、メッセージプレートを見る限り、女性からの贈り物だということは疑う余地もない。
「ごめん、やっぱり帰る。そういう相手がいるなら、私はもう会わないからっ」
― 彼女はいないって…言ってたのに！
彼の部屋をでたあと、弁解や謝罪の連絡はなかった。残ったのは、メッセージプレートに3つ並んだハートの後味の悪さだけだ。
残念ながら、都合のいい関係止まり（凌・28歳の場合）
仕事の休憩時間。
なんの気なしにマッチングアプリを開いてみると、わりとタイプの女性を見つけた。
― 志緒さんか…“いいね”、してみよう。
すると、その日のうちに、彼女とのマッチングが成立。
メッセージのやり取りが始まり、しばらくすると食事をすることになった。
美人というよりは、男ウケするかわいいタイプ。自分に自信があるけれど、意外と押しに弱い。志緒は、僕が思った第一印象のとおりだった。
軽く押したくらいなのに、早い段階で体の関係にもなった。
― うーん、いい子なんだけど…付き合うのはないかな。そういえば、はじめのメッセージもしたたかだったよなぁ。
僕のマッチングアプリの使用感をさぐりつつ、自分は純粋さをアピール。かと思えば、交際前に体の関係を持つことには、抵抗はないようだった。しかも、自分は単なる都合の良い関係ではなく、彼女候補なのだと根拠のない自信で満ちている。
しかし、こちらにその気がないことが薄々わかってくると、途端に不安定になるのだ。
そもそも、体の関係を持ってから交際に発展することもあるにはあるが、それは相手を人として尊敬できたり、体以上に魅力的ななにかがあったりするレアケース。
志緒とは、体の相性は悪くない。だが、彼女が僕に、人としての魅力を感じているようにも思えない。もちろん、僕もそうだからお互いさま。付き合うとなると、決め手に欠ける。
ちなみに、僕が誕生日を一緒に過ごしたのは、同じ法律事務所で働く後輩だ。自分の意見がしっかりとあって、簡単ではないところが少し前から気になっている。
彼女は、僕の部屋にはあがったが、ただ食事をしただけで終電前には帰宅した。
メインのバースデーケーキには、手もつけずに…。
そんな余韻を残された日には、男はますます追いかけたくなってしまうのだ。
▶前回：社内の年下イケメンに恋した、美人秘書。自己肯定感がだだ下がりになった理由とは…
▶1話目はこちら：既読スルーばかりのカレ。「熱がでた」と送ってみると、予想外の反応で…
▶NEXT：8月31日 水曜更新予定
付き合っているのに、まるでキープ扱い…女が復讐のためにしたこととは？
