付き合う男を「金持ちかどうか」で選んでいた女。33歳独身になったとき、そのツケが回ってきて…
今となっては昔のことですが、港区に沙羅という女が生息していました。
「今夜、食事会あるんだけどどう？」と言われれば飛び入り参加して、必死に“彼氏候補”を探したものでした。
ある日、ようやく彼氏ができて食事会に行かなくなりましたが、その彼にも…。
残念に思って2年半ぶりに港区へ近寄ってみると、そこには以前と全く別の世界が広がっていたのです。
▶︎前回：出会いを求めて参加した、経営者との食事会。相手はなんと既婚者だったのに「彼女が欲しい」と言われ…
港区で開催されるお食事会へ舞い戻って、早3週間。これまでたった2回しか参加していないはずなのに、すっかり疲弊している自分がいる。
そして何より私を焦らせるのが「以前よりモテない」という、厳しい現実だ。
「何かが、おかしいわ…」
前はどこへ行ってもチヤホヤされたし、蝶よ花よと扱われていたほうだと思う。
けれどもここ最近、自信を失っている。そんなことを考えながら、広尾の商店街入り口にあるカフェでお茶をしていると、LINEが入った。
萌：沙羅さん！今週金曜の夜、空いてませんか？経営者の方々とお食事会があって♡
この前から、萌ちゃんの謎の人脈に驚いている。…彼女は手配師なのかもしれない。
でも出会いを求めている今、こうやって食事会に誘ってくれるだけでありがたかった。
港区女子の年齢制限とは
そして食事会当日。西麻布交差点から星条旗通りを上がったところにある、完全個室の高級店『しゃぶしゃぶ 九』に私はいた。
「わぁ♡このお店、嬉しい！！」
西麻布の個室でこういった有名店というのは、いつ来てもテンションが上がるもの。萌ちゃんも、先ほどから嬉しそうにはしゃいでいる。
「沙羅さん、こちら木村さんです。ちなみに、あとの1人は遅れて来られるそうです」
萌ちゃんの紹介に、私と木村さんはお互い頭を下げた。見るからに優しそうな男性。けれどもバリバリ稼いでいて、少し前に自分の会社を上場させたらしい。
Tシャツにハーフパンツというゆるっとした服装だけれども、時計はROLEXのデイトナ。Tシャツもよく見れば、ハイブランドのロゴが小さく描かれている。
― この人、きっとお金持ちなんだろうな。
そう推測するには、充分すぎる見た目だった。
とりあえず先に3人で乾杯し、しゃぶしゃぶを楽しむ。すると、もう1人の男性が遅れてやって来た。
「お待たせしました！…って、あれ？」
「えー！藤堂さんじゃないですか！」
遅れてやって来たのは、IT系企業を経営している藤堂さんだった。実は彼とは、20代のときによく飲みの場で会っていたのだ。
「沙羅ちゃん、久しぶりだね〜。元気だった？」
「はい、おかげさまで。藤堂さんもお元気でしたか？」
2人で話していると、隣の萌ちゃんが目を輝かせている。
「お2人、繋がっていたんですね♡」
「そうなんだよ〜。沙羅ちゃんに会うの、何年ぶりだろう？昔よく飲んだよね」
「5年ぶりくらいですかね…。しかしみんな、繋がっていますね」
この界隈は、本当に狭い。
港区の夜間人口は、実は300人くらいしかいないのではないかと思うくらい、基本的に誰かと誰かが繋がっている。だから「二度目まして」の人もたくさんいるのだ。
偶然の再会に、思わず笑顔になったそのとき。藤堂さんが放ったセリフに、私は一瞬背筋が凍りついた。
「でも沙羅ちゃんさ。“まだ”いたんだね〜」
「…えっ？」
藤堂さんのセリフに、ワイングラスを持っていた手が止まる。
「いや。当時遊んでいた子たちって、もう30過ぎたでしょ？結婚したり地元に帰ったりして、自然と減っていくからさ」
「ははは。そうですよね〜」
笑顔を作ってみるものの、ここで彼氏にフラれたとは言いにくい。なぜなら遠回しに「港区を引退できずに、まだ居座っているんだ」と言っているようなものだったから。
「あのときの子たち、何してるの？ほら、香奈ちゃんとか」
「あぁ、香奈は…」
彼女は結婚して、地元の九州に帰ってしまった。毎晩派手に飲み歩いていた香奈。それなのに30歳で、高校時代の同級生と結婚したのだ。
風の噂では、もう子どももいると聞いた。
「あの子、誰だっけ？芸能やってた綺麗な子」
「舞子ですかね？」
「そうそう、舞子ちゃん！」
藤堂さんのような男性陣は知らないだろうけど、実は彼女にはずっとスポンサーがいた。港区女子の間では有名な話だ。
けれど舞子も、31歳のときに10個上の経営者にロックオンし、芸能界仕込みの演技力で結婚まで漕ぎつけた。そして今や、華麗なるセレブマダムだ。
「…みんな、結婚したりしちゃいました」
そう言うのが精一杯だった。
もちろん卒業できずに、まだ港区で遊んでいる子もいる。私のように舞い戻って来た子もいる。
でもその数は年齢とともに確実に減っていき、もうすぐ絶滅危惧種になるのではないかと思う。
「じゃあ沙羅ちゃんも“そろそろ”だね」
藤堂さんの、悪意なきセリフが痛い。
遊んでいる男性陣は、変わらない。けれど女性陣だけは、強制的に定期的に、新陳代謝を促されるのだ。
「沙羅ちゃんは今、何歳なの？」
「…33です」
「そっか、33かぁ」
何か言いたげな藤堂さん。すると隣から、木村さんが横槍を入れてきた。
「藤堂さん、今の彼女24歳なんだよ」
「え！？に、ニジュウヨン…！？」
藤堂さんはたしかバツイチで、現在は独身。なので彼女がいようがいまいが本人の自由だけれど、年齢は50近いはずだ。
それでも24歳の彼女ができるらしい。
釈然としない悔しさと、複雑な気持ちが交錯する。それと同時に、小さな怒りも湧いてきた。
― この人たち、人を年齢で判断しすぎじゃない？
年齢を言った途端に、バッサリ切られたような気もする。でもそう思うと同時に、私は気づいてしまった。
自分だって木村さんのことを、時計や洋服、肩書で判断したことに。そして彼のような、地位やお金のある男性に気に入られようとしてきたことにも。
これでは完全に、お互いさまである。
「藤堂さん…。33歳になった今、私はどうすればいいですか？」
すると藤堂さんは、豪快にニカっと笑った。
「そんなの知らないよ。でも年齢が武器にならなくなった今、沙羅ちゃんの武器はなんだと思う？明るさなのか、気遣い力なのか。それとも自分でちゃんと稼げる自立力なのか」
私の武器は、なんだろうか。今のままじゃすべてが中途半端だ。
「その答えが見つかったときに、沙羅ちゃんは幸せになれるんじゃないかな」
港区で遊んでいる人たちは優しい。甘い言葉もかけてくれるし、女の子をお姫さまのように大切に扱ってくれる。けれどもその魔法は、32歳で解ける。
豪華絢爛なドレスも、白馬も。気がつけば、普通の洋服やカボチャに戻るときがくるのだ。
私は帰路につきながら、自分ができることを考えてみた。
元々、勉強は好きなほうだ。人と話すのも好き。
― 自分の好きなことと、得意なことを掛け合わせると何ができるのかな。
この日から1週間。大学受験のとき以来、私は真剣に将来のことを考えた。
▶︎前回：出会いを求めて参加した、経営者との食事会。相手はなんと既婚者だったのに「彼女が欲しい」と言われ…
▶1話目はこちら：同棲中の彼にフラれ、婚活市場へと舞い戻った33歳女。そこで直面した残酷な現実とは
▶NEXT：8月29日 月曜更新予定
消失した“海外旅行マウンティング”とは
