「あえて人妻を狙ってる」。人妻好きを公言する男の、身勝手な本音
やりがいのある仕事でキャリアを重ね、華やかな独身ライフを満喫する女。
早々に結婚し専業主婦となったものの、ひたすら子どもの世話に追われている女。
女として本当に幸せなのは、どっちだと思う−?
独身キャリア・工藤千明と、専業主婦・沢田美緒。対照的な選択をした二人が、同窓会で再会。
洗練された美女へと変貌した千明は複数の男性から言い寄られているが、最も気になる男・宇野から「結婚する気はない」と宣言され落ち込む。
千明に妙な対抗心を抱く美緒は、同窓会で再会した立場逆転男・村尾からデートに誘われる。浮かれる美緒だが、実は村尾には裏があった?
千明:私もいつかは“あっち側”に行きたい
“千明ちゃん、今週金曜空いてる?”
“また食事、一緒にどうかな?”
地下鉄の扉にもたれ、私は今しがた届いたLINEにため息を吐いた。
差出人は、宇野だ。
初デートで私に「結婚する気はないんだよね」と宣言してきた男。
こちらとしては相当なダメージを食らったのだが…こんな風に誘ってくるところを見ると、彼の方はむしろ好意を持ってくれているらしい。
私が「ああ…まあ、そうですよね」なんて物分かりの良い女を気取ったから真に受けているのだろうか。
−会い続ける意味、ないよなぁ。
延々と暗闇が続く窓の外を見つめながら、私は美緒を思い出す。
先日、彼女の自宅に招かれた際。私は改めて現実を認識したのだ。
…別に、美緒が羨ましいわけじゃない。むしろ彼女の痛々しい発言には、思わず軽蔑の眼差しを送ってしまった。
ただ、この8年間の間に、彼女は結婚し、子どもを産み、マイホームも手に入れている。しかし私は…何一つ代り映えのしない日々。
すぐじゃなくていい。でもいつかは私も“あっち側”に行きたい。
私は自分を戒めるように目を閉じると、いったん宇野のLINEを既読無視した。
宇野の誘いは断るべき。しかしそんな千明の決意を揺るがすほどの幸運が舞い降りる
突然の吉報
いつもと変わらない1日に、急に吉報が舞い込んだのは、ランチをしに行こうとオフィスを出た時だった。
「もしもし、ご無沙汰しています。ブリランテ編集部の野々村と申します」
見知らぬ固定電話からの着信に訝しみながら応答した私だったが、野々村という懐かしい名を聞いて「ああ!」と声をあげた。
「野々村さん!お久しぶりです」
もうかれこれ10年近く前、社会人になりたての頃の話だが、アラウンド25歳をターゲットにした某女性ファッション誌の撮影にたびたび呼ばれ、参加していた時期があった。
野々村さんは、その際に随分と目をかけてくださった方だ。
今は異動をし、30代の働く女性をターゲットにした雑誌・ブリランテ編集部にいるという話は、私も風の噂で聞き知っていた。
「実は今度、ブリランテで“美しいキャリア女性”を特集することが決まりまして。それでぜひとも工藤さんに出ていただきたいということでお電話させていただきました」
「え!私…?」
思いもよらぬ提案に驚きすぐに返事ができずにいると、電話の向こうから遠慮がちな声が届いた。
「すみません、突然。実は今、いろいろと候補者を探している中で、工藤さんを推薦する声が多数あったんですよ」
「そんな…ありがたいです」
ブリランテは、私もヘアサロンに行くと必ず手に取る雑誌だ。
“いつまでも可愛いママ”を推すような雑誌とは一線を画す、自立した大人の女性を礼賛する特集が多く、読んでいると刺激をもらうことができる。
そんな素敵な雑誌の、しかも“美しいキャリア女性” の特集に、まさか私が選ばれるなんて...。
ファッションや美容の紹介で今さら誌面に出る気はもうなかったが、そういう取り上げられ方なら悪くない。いや、むしろ身に余る光栄だ。
「あの…私でよければぜひ受けさせてください!」
慌ててそう答えると、野々村さんは「ほんとですか!」と大げさなまでに喜んでくれた。
「実はこの企画、全部で50P以上の巻頭特集になる予定なんです。まだちょっと未定ではあるんですけど、工藤さんにはキャリア形成のインタビューも含めて1P取り上げさせていただきたいと思っています」
−嬉しい…!
早口で語る野々村さんの説明を聞きながら、私は胸がドキドキと高鳴り、高揚していくのを感じた。
…何の代り映えもしない、なんて思っていた私の8年間は、決して無駄じゃなかった。
無我夢中で仕事してキャリアを築き、その一方で自分を磨くことも忘れなかった。そういう努力を、しっかり見てくれる人がいたのだ。
単純と言われてしまうかもしれない。
しかしこの一本の電話で私は、宇野に「結婚する気はない」と宣言されたことも美緒の自宅で感じた焦りも、すべてが帳消しになったような気がした。
雑誌への出演依頼で、モヤモヤした感情が吹き飛んだ千明。しかし意外な人から、聞き流せない噂を耳にする
ある男の噂
「じゃあ…今夜は、千明の巻頭デビューを祝って」
ボブヘアーの似合う美女が、そんなことを言って悪戯な笑みを浮かべる。
同じ外資系消費財メーカーで働く同期の真由子。彼女とは月1で美味しいものを食べに行く“ご褒美会”を開催している。
この日は一緒に兜町まで出向き、まるで芸術作品のような美しいフレンチをいただきに『アサヒナガストローム』を訪れていた。
「あはは(笑)巻頭デビューじゃないから。巻頭特集に呼ばれたってだけ」
笑いながら否定すると、真由子も楽しそうに肩を揺らした。
彼女が自分の事のように喜んでくれているのが伝わり、なんだか熱いものが込み上げる。
結婚や出産で次々に辞めていく同期を横目に、私たちは手を取り合ってハードワークを乗り越えてきた。
いちいち言葉にすることはなくても、学生時代の友人とはまた違う絆がある。
私たちはいつも以上に盛り上がり、あっという間にボトルが一本空いた。
その噂を耳にしたのは、本当に偶然だった。
“ご褒美会”では定番の流れだが、この夜もいつも通り、最終的に話題はお互いに最近の男関係へと移る。
私が「結婚しない」宣言された宇野の誘いを既読スルーしていることを話すと、真由子がこんなことを言い出したのだ。
「でもほんと、最近多いよね。結婚しない主義だって宣言する男。この前私もさ、ある食事会に参加して、同い年でパーソナルトレーニングジムを経営してるって人に会ったんだけど…」
−同い年?パーソナルトレーニング…?
どこかで聞いたことのあるフレーズだなと思い、私はハタと思いついた。
「ねぇ!その人ってまさか村尾、じゃないよね?」
思わず真由子の話を中断してしまうと、彼女は驚きで目を丸くする。そしてこう続けたのだ。
「え、知り合いなの?ほんと世間って狭いな」
まさか、真由子と村尾が食事会で会うとは…。
「高校時代の同級生なの」と話すと、さすがの真由子も「それはすごい偶然ね!」と、さらに大きく目を見開いた。
しかし彼女の言う通り、世間は狭い。まあそんなこともあるか、と自分を納得させて、私は真由子に話の続きを促した。
すると…彼女はチラと私の顔色を伺った後で、聞き流せない話を語り出したのだ。
「千明の同級生を悪く言うつもりはないんだけど。その村尾って男がまたゲスな話をしてたのよね…俺は結婚する気ないし、結婚迫られるのも絶対に勘弁だから、あえて人妻を狙ってるんだ、とかって。
私、顔色変えずにいるのが大変だったわ」
▶NEXT 9月16日 更新予定
村尾はわざわざ人妻を狙っていた。それを知った千明がとった、ある行動とは
▶明日9月10日(火)は、人気連載『夫の反乱』
夫から溺愛され、好き放題にやってきた美人妻・めぐみ。最近夫の様子がおかしいことに気づき…。夫を大切にすることを忘れた妻の行く末は?続きは、明日の連載をお楽しみに!