PoolB韓国vs台湾の世紀の決戦に隠れて消化試合のように見られていたが、PoolA中国vsブラジルは本当に素晴らしい試合だった。
PoolA B-C

中国の先発は卜壽、ブラジルは2回に松元の死球を足がかりに走者をすすめ、フランサの打球を三塁安旭が失策して先取点。安旭は本当に守備が下手だ。

中国はAAA選手のレイ・チャンが当たっていたが、左腕オスカル中尾次が他の打者をうまく料理。本塁は遠いように思えた。

3回以降、ブラジルも卜濤の前に走者が出ない。バットには当たるのだが、タイミングを外されて凡打の山を築く。
オスカル中尾次は4回、卜濤は5回を投げる。

しばらく試合は動かなかったが7回、ブラジルはマガリ―ヤス、佐藤が連打。さらにムニスの当たりも内野安打となって無死満塁、二番手孟慶遠から三番手呂建剛に交替。内野安打の間に1点を失ったが、何とか希望をつないだ。

8回。これまで無難に投げてきたブラジル二番手ゴウベアが突如制球を乱して3連続四球、レイ・チャンがここで左前打。
ブラジルはたまらず抑えのエース、ビエラにスイッチするが、あまりに急だったためか、これも乱調。あっという間に5点を失った。
ブラジルは今大会最年少のダニエル・ミサキを出して後続を断った。

最後の攻撃。
キャプテン松元が目を泣き腫らしている。ブラジルにとっては、本戦初勝利が目の前で逃げて行った。ブラジル代表からの引退を表明している松元にとっては、これが最初で最後のWBCだ。意気消沈するベンチ。

しかし、バリー・ラーキン監督の表情は全く変わらない。魁偉な容貌で、ぐっと前を見据えて微動だにしない。さすがに大選手。ほれぼれするような名将ぶりだ。

対照的に中国のマクラーレン監督は小躍りするようにベンチ前に出て、手招きをして中国の守備陣を右寄りに動かした。佐藤は安打で出塁したが、ムニスが併殺。そして最後の打者ファニョリは三振。

中国の選手たちも泣いている。日本のプロ野球と違い、中国の選手たちは帰るべきリーグはない。オリンピック競技から外れて以来、野球は冷遇され、ペナントレースもないのだ。
マクラーレン監督以下スタッフも今日が最後だ。4年先のことはわからない。
精いっぱい戦った満足感と、寂しさがないまぜになっているのだろう。

ブラジルもチームはばらばらになる。日本に残ってプロやアマのチームに戻るもの。マイナーリーガーとしてアメリカで競争に加わるもの。そしてブラジルに帰るもの。ナインには何千キロもの別離が待っている。

彼らの多くは、こんなすごい球場で戦うのは初めてだったはずだ。日本戦の大観衆も初体験だったはずだ。さらに殿堂入りの大選手だったバリー・ラーキンと親しく口をきくのも当然初めてだった。
夢のような時間が過ぎ去ったのだ。松元や佐藤、平田などにとって、それは野球人生のピークが終わったことを意味するだろう。高校生のミサキは、必ずまた、この舞台に立つと心に誓ったことだろう。

大変残念だったのは、このいい試合を見た日本人がほとんどいなかった事。侍ジャパン以外の試合など知ったことではないのは、やむを得ないところだが、遠くから野球をしに来た客人に対して、情が無かったことだと思う。

前回大会は、日本以外の試合でも1万人以上は入っていた。東京と福岡の違いがあったのかもしれないが、今回の運営は何かが間違っているように思う。

この試合のためだけにでも、駆けつけるべきだった。野球好きのマインドを通わせるべきだったと後悔している。