米メジャーリーグで９・10日の両日、オーナー会議が行われ、監督やコーチが、選手とマウンドで話をする際に通訳を同行できるとのルール改定がなされた。
　スポーツ専門局ＥＳＰＮの14日付の電子版では、「マウンドでダルビッシュ有と話すとき、テキサス・レンジャーズの監督や投手コーチが１人で行かなくてもよくなる」と伝えている。

　プロ野球の通訳は、ただ語学に堪能であればいいというわけではない。その地域の野球文化にも、長けていなければならない。
　実際、わが国でも、通訳と外国人選手との間で、誤訳を巡る、ちょっとしたトラブルがあった。


　ヒット・エンド・ランは、投球と同時に走者が次の塁にスタートし、打者はその投球を打ち進塁を狙う戦術だが、野球に暗い通訳は「交通事故」「ひき逃げ」と誤訳するところだった。
　「スチール（盗塁）は、自由にやってもいいのか」と訪ねる外国人選手を、通訳が「こいつは、泥棒なのか」と勘違いしたこともあった。
　監督が「打席で待て」「見送れ」の意で行った「Take」を、全く反対に「打て」と伝えたこともあったし、打撃練習の際に「ティーを持ってきてくれ」という外国人選手に、「レモンと砂糖はどうするか」と尋ねた通訳もいた。（外国人選手が、ボールを乗せる「Tee」を要求したのに対し、通訳がお茶の「Tea」と間違ったことは、言うまでも無い）
　ヤクルトスワローズなどで活躍したチャーリー・マニエルは、顎への死球から復帰した際、「I wasn't mad anymore.」（「ぶつけた相手投手には、もう何も思っていない」）とマスコミに答えたが、通訳は「マニエルさんは、もう狂っていない」と訳した。

　また、デッドボール、ランニング・ホームラン、ナイターなど、日米で表現が異なる用語、和製英語もある。
　死球を意味するデッドボールは英語でヒット・バイ・ピッチだし、ランニング・ホームランはインサイド・ザ・パーク・ホームラン、もしくはランニング・ホーマーと呼ばれている。
　ナイターはナイト・ゲーム。かつてロッテ・オリオンズ（現在の千葉ロッテマリーンズ）で通訳として勤めた国光豊晴氏は、「来日したばかりの外国人選手に『明日はナイター』と言っても、彼は球場に来ないでしょう。ナイターをナイト・ゲームのこととはとらず、夜のパーティか何かだと思うでしょう」と述べている。

　米国野球ならではのスラングもある。米国人ジャーナリストのロバート・ホワイティング氏によると、アンクル・チャーリーは変化球のカーヴ、クロウ・ホップは守備で小走りに素早く走り、打球を処理すること、バザーズ・ラックはツキが無いことを意味しているそうだ。

　良かれと思って伝えたことが、相手の逆鱗に触れることもしばしば。大洋ホエールズ（横浜ＤｅＮＡベイスターズ）で通訳をしていた牛込惟浩氏が、親会社の幹部からの「がんばって」の激励を「Do your best.（全力を尽くせ）」と訳し外国人選手に伝えたところ、その選手は「俺はいつだってベストを尽くしている」と不機嫌になった。この場合の正解は、「Do your best.」ではなく、「Good luck.」だった。

　前出のホワイティング氏は、わが国の英語教育は、読み書きばかりに力を入れすぎて、会話を蔑ろにしていると言う。また、英語にはｖ、th、ＲとＬの区別など、日本語には存在しない発音がある。
　プロ野球の通訳を志すのなら、それらの英語教育の問題に対応するだけではなく、異国の野球文化の知識と理解も求められる。