権田、徳永、森重、そして今野。J2に転落したFC東京だが、代表レベルにある彼らはチームに残った。サポーターにとっては喜ばしい話。J1復帰の目は膨らむわけで、ありがたい話に違いない。だが少なくとも、第三者である僕の目にはおかしな話に聞こえる。

外国だったら、まずあり得ない話だ。中でも不自然に感じるのは今野。彼はバリバリの日本代表スタメンだ。先のアジアカップでは最終ラインの要として存在感を発揮。影のMVP級の活躍を示した。彼がいなかったら日本の優勝はなかったと断言できる。闘莉王が復帰しても、簡単にポジションを渡しそうもない活躍と言うべきだろう。少なくとも日本代表において、彼がこれほど脚光を浴びたことはない。

今野はいま28歳。選手としての絶頂期を迎えている。次回ブラジルW杯が開かれる2014年には31歳になる。この3年間は、彼にとってまさに1年も無駄にできない貴重な時期だ。J2でいいのか。そこはプレイする環境として適切なのか。イエスであるはずがない。

さらに問題なのは、そのことを騒ぐ人、話題にする人があまりにも少ないこと。メディアはなぜザックジャパンの中心メンバーがJ2送りになることを問題視しないのか。お節介を焼いてやらないのか。移籍しなければならないムードを演出しようとしないのか。移籍市場にプレッシャーを掛けようとしないのか。

外国のメディアにあって、日本のメディアにないものはこれ。サッカーメディアとしての立ち振る舞いができずにいる。ヨイショはするけれど、愛は感じない。FC東京に忠誠を誓うとか、クラブへの愛とか、そうした浪花節な義理人情話を美談化する傾向も強い。

サッカー選手は社員ではない。個人事業主だ。クラブに愛や忠誠を誓っても、切られる時はあっさり切られる。「派遣切り」より鮮やかに切って捨てられる。ファンもそれについてはどうすることもできない。プロ選手とはそういうものなのだ。

移籍先の選択肢が少ないことは確かだ。Jリーグかヨーロッパか。それ以外に選択肢がないところに問題性がある。プロ野球か大リーグか。日本のプロ野球のありように慣れている人には、伝わりにくいかもしれないが、例えばヨーロッパにはもっと数多くの選択肢がある。「市場」は複数の国(リーグ)で形成されている。各国リーグのレベルもUEFAリーグランキング(カントリーランキング)で順位化されているので、昇る階段、下がる階段が道筋として明確に用意されている。

韓国リーグ、中国リーグ、香港リーグ。日本の周りにも選択肢はないわけではない。中でも中国リーグの躍進ぶりはめざましく、実際、外国人選手の顔ぶれはJリーグより豪華だ。ACLの成績も日本を凌ぐまでになっている。だが、中国リーグと人的交流を深めた過去はない。

韓国リーグは客の入りがいまいちだし、香港はレベル的に少し問題がある。昇る階段、下がる階段どころか、横滑りもできない状態にある。

韓国人系の選手とは対照的だ。彼らはヨーロッパの前に、Jリーグという選択肢がある。パク・チソンではないけれど、日本経由ヨーロッパ行きというフライトが用意されている。大宮のイ・チョンスのような逆のパターンもある。Jリーグは、彼らにとっていいクッション役になっている。今野と同じような境遇の選手が韓国リーグに現れたら、2部リーグで1年間、ジッと我慢することはないと思う。

移籍金の安さも手伝い、日本人選手がヨーロッパでプレイする環境は整いつつある。それはそれでよい話かも知れないが、韓国人選手にとってのJリーグのような場所が欲しいことも事実。

女子ゴルフ界でも似たような現象が起きている。韓国人の女子選手は、アメリカツアーでも日本ツアーでも活躍する。彼女たちに選択肢は2つある。アメリカツアーと日本ツアーを行ったり来たりする選手もいる。選手の開幕戦を制した朴仁妃もその一人だという。半分地元にあたる日本と、アメリカを往復しながら、それぞれのツアーに出場する韓国人女子選手。そのプレイ環境は良好だ。とてもプロっぽく見える。代表の中心選手が、J2でプレイしなければならない日本サッカー界の姿より断然、だ。

アジアにおける日本の立ち位置と、世界における日本の立ち位置。その間隙というかギャップを、韓国人選手は上手く突いている。彼らが世界で日本人以上に活躍する理由の一つだと僕は思う。


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