9月7日、JFLに所属するFC町田ゼルビアはJリーグ入会予備審査結果についての記者会見を行い、Jリーグ側から「不合格」通知を受け取った経緯を露わにしました。町田のJ入会は、半ば既定路線かのような印象があり、この数日前に町田のオフィシャルサイトで発表された「不合格」通達の発表には、驚きを覚えました。また、町田側の会見で、「この通達が晴天の霹靂であり、納得がいかない」という言葉があり、どの様な経緯でJリーグ側は判断を下したのか、調査することにしました。

今回新連載として始める「Jリーグのカタチ」は、町田のJ入会問題について調査を進めながら、今後のJリーグがどのようなリーグ構成を目指しているのかを、出来る限り俯瞰できるような内容にしていきたいと考えています。第1回目は、FC町田ゼルビアの記者会見と関係者取材に基づき、佐藤拓也氏にまとめて頂きました。以下、全文をJマガ携帯サイトより転載します。


町田に何が起きたのか？【佐藤拓也】
■町田にとって“青天の霹靂”だった不合格通知

9月7日に行われたFC町田ゼルビアのJリーグ入会予備審査結果についての記者説明会において、今回のJリーグ側からの“不合格”通知がいかに町田にとって晴天の霹靂（へきれき）だったかがよく分かった。「納得いかないけど、現実を受け止めるしかない」という真木茂専務取締役の言葉がクラブの総意と考えてよさそうだ。記者会見で語られたのは、予備審査が通過しなかった経緯にとどまり、今後の正式な取り組みやビジョンは発表されなかった。というよりも、発表できなかったと言った方が正しい。経緯についても「（具体的にどこが足りないかは）分からない」（守屋実代表）状況であり、あまりにも唐突かつ予想と反する返答が来たことに対して「心の整理ができていない。クラブとしても総括はできていない」（守屋代表）というのが現状という。

■2009年基準よりハードルが上がった「2010年基準」
昨年も予備審査においてスタジアムの不備が指摘され、“不合格”となった町田。その後、市と協議し、ホームスタジアムとして使用する予定の町田市立陸上競技場をJリーグ基準に満たすスタジアムに改修する動きに入り、図面を完成させた。それが議会で通り、8月から正式に改修を行い、来年の2月に完成することとなっていた。そこで問題となったのが「基準」である。昨年末に図面を作った段階で町田が参照としていたのは当時Jリーグが提示していた「2009年基準」。

だが、今春に新たにJリーグは「2010年基準」を発表。更衣室や審判室、記者室、運営本部、ドーピングルームなどの広さや収容人数など細かく示されるようになり、「09年基準」よりもさらにハードルが上がることとなった。その結果、「新基準」に町田側の改修予定が「満たさない」と判断され、"不合格"通知をつきつけられることとなったという。それにより、町田の来季のJ2参入は事実上消滅することとなったのだ。

■基準をクリアしているのは埼玉スタジアム2002のみ
町田側としても「10年基準」が発表されてから手をこまねいていたわけではないらしい。「『10年基準』にできるだけ近づけようと最大限の努力はしたが、適応できなかった」（真木専務）。だが、それでも町田側は「大丈夫だという感触を持っていた」（真木専務）。それは現在、Jリーグで使用しているスタジアムで「10年基準」をすべてクリアしているのは埼玉スタジアム2002だけで、それ以外のスタジアムはなんらかが足りていないからである。「基準を全部クリアされなければ、昇格できないというわけではない。ギリギリ大丈夫だと思っていた」と真木専務は説明し、さらにニッパツ三ツ沢球技場や正田醤油スタジアム群馬の名前を挙げながら、「それらJ2のスタジアムと比べて足りないということはない」と語った。

過去にJリーグに昇格してから改修をした例があるだけに、町田が「大丈夫」と思うのも無理はない。実際、町田はJリーグが提示するJリーグ昇格のための4大課題《（１）JFLで4位以内、（２）1試合の平均観客数3000人以上、（３）債務超過がないこと、（４）Jリーグ基準を満たすホームスタジアムを擁すること》のうち3つを現段階ではクリアしており、それだけにこれだけ厳しい通知が来ることは予想していなかったという。

■Jリーグ側が現地調査に来ていない事実
そして、町田側にとって最も「納得できない」ことは、Jリーグ側が現地調査に来ていないことである。7月23日に現地調査の予定が入っていたが、1週間前に断りの連絡が入ったという。何度もJリーグ側には要請したというが、結局、書類だけで審査され、そしてメールと1通の書面で"不合格"を通知してきたのであった。そうした対応について「こっちは何億というお金をかけて、それに多くの人に支えてもらっているのに、あまりにもひどい対応」とクラブ関係者は憤りを見せていた。


■町田側に手落ちは無かったのか？
ただし、今回の件について町田側の手落ちも指摘しないわけにはいかない。何の確約もないのに「大丈夫」とタカをくくりすぎていたことは怠慢と見ることができる。さらにJリーグ側は「改修計画は『09年基準』でも満たしていないところが多い」と言っているというが、それだと町田側の見解と齟齬（そご）をきたすこととなる。果たして来季の昇格に向けてJリーグ側と十分なコミュニケーションを取ってきたのだろうか。そう疑問を抱かざるを得ない。

来季のJ2参入を諦めず、そして最悪でも再来年のJ2参入を目指して、「奇跡を信じる」と守屋代表は力を振り絞った。だが、そのためには「市民の力が必要」（真木専務）。J参入するためにも来年2月に改修が終わるスタジアムを新たに改修しなくてはならず、そこにはまた相当な税金が注ぎ込まれることとなる。行政がそれを認めるためにも市民の承認がなければできない。「クラブ、行政、スポンサー、市民が一丸となれるかに命運がかかっている」と真木専務は力を込める。

しかし、そのためには「絶対にこうすれば、J参入が認められる」というものを提示しなければならないだろう。今のように「（具体的に何が足りないのか）分からない」（守屋代表）状況では、再び多くの人を裏切る可能性があり、手を差し伸べにくい。この日の会見では、Jリーグ側からの通知が来てから1週間が経っていたにも関わらず、その間にJリーグ側に問い合わせすることもなく、何も具体的なものを提示することができなかった。そうした"緩い"考えが、今回の状況を招いたのではないだろうか。行政、スポンサー、そして市民に再び振り向いてもらうためにも現状をしっかり理解し、具体的な策を提示する必要がある。市民に助けを求めるのはそれからだ。

■寛容だったJリーグが、何故いきなり厳しくなったのか
まだJリーグ側からの公式な見解が発表されていないだけにはっきりしたことは言えないが、今回の件について双方の言い分があることは間違いない。ただ、これまでいくつものクラブのJ参入の取材をしてきた筆者にとって、あれだけJ入りに寛容だったJリーグがなぜいきなり厳しくなったのかが分からない。そこには単純な「基準」だけで済まされない何かがあるような気がする。実際、「事務レベルではJ参入に向けて粛々と動いていた」（クラブ関係者）とのことで、Jリーグから通知が来た翌日の9月1日には行政側とJリーグ側の事務レベルでの打ち合わせが予定されていたという。「あくまで憶測の域ですが、我々にはどうすることもない"上"の判断があったのかもしれない」とクラブ関係者は肩を落としながら語った。

今回の件は、今後の“Jリーグのカタチ”が変わる第一歩なのかもしれない。まだはっきりしたものは見えないが、今後も引き続き、町田の取り組みを中心に取材し、今後Jリーグがどんなカタチになろうとしているのかを追っていきたい。

第1回原稿の末尾にもあるように、Jマガでは、今後の「Jリーグのカタチ」を引き続き追いかけて行きたいと考えています。

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