9日、日本サッカー協会の常務理事会が開かれ、Jリーグ将来構想委員会の鬼武健二委員長(Jリーグチェアマン)は、「秋春シーズン制」への移行見送りを報告した。Jリーグ将来構想委員会では賛否がまっぷたつに割れたものの、降雪地域のクラブから強い反対があったため、早期決着は無理になったということだ。シーズン変更に寒冷地のサポーターを中心とした反対署名が集められていたことを知っている人もいるだろう。

 だが、このシーズン移行の問題は根が深い。まず、推進派が少なくないことは犬飼会長がトップに就任した当初から取り上げたことでも明らかだ。

 知ってのとおり、ヨーロッパのシーズンは秋にスタートし、春に終了する。そのシーズンに合わせることで日本人は海外に移籍しやすくなるし、シーズン途中で海外移籍するリスクもなくなる。メディアへの露出を考えても、野球とシーズンを変えることでよりクローズアップされるチャンスが増える。降雪地帯での開催には障害が増えるとはいえ、日本より寒いヨーロッパで開催されていることを考えると対応が不可能とは考えにくい。厳冬期のみ開催を避けるという方法もある。タイミングとして、2010年、夏のワールドカップ終了後にシーズンを始めれば、スムーズな秋春制移行は十分可能に思える。

 多くのメリットがあり、デメリットに対するカバー案もある。にもかかかわらず、なぜ見送られたのか。一見すると、降雪地帯の守旧派が、リーグの改革派を押さえ込んだように見える。ところが、それだけでは済まない点に、この問題の奥深さがある。

 ここに2000年7月4日付けの資料がある。『Jリーグ ネクスト10プロジェクト』が作成した中間報告書だ。じつは約10年前にもプロジェクトチームがあって、Jリーグの将来が論じられていた。その中の7番目の項目として秋春制へのシーズン移行の問題があった。

 その中間報告で述べられているのは、

1. 厳冬期の開催を避けると、春秋制でも秋春制でも試合の実施時期は3月半ばから12月になってしまう

2. そのため観戦しやすいとか競技の質が向上するという議論が成り立たない

 という問題だ。さらに重要なのは、秋春制ではシーズンオフになる8月上旬が日本の夏休みで、そこで試合を開催しないと来場者減になりそうだ、というそろばん勘定の話も入っている点だ。今回の報告で鬼武チェアマンが強く指摘したのも、「収益上のリスク」だった。

 当時のメンバーはほぼJ1クラブだけで構成され、J2は湘南のみけ。最北のクラブは鹿島だった。つまり、札幌、仙台、山形、新潟といった降雪地域のメンバーが抜けても、「移行のメリットは少ない」という報告になっていたのだ。その裏側に見え隠れするのは、経営的なリスクを嫌う各クラブの思惑である。

 結局のところ、10年前と同じ議論が交わされ、同じ結論に落ち着いた。掲げられたメリットも、指摘されたデメリットも、おおむね変わっていない。

 10年の経過によって、Jリーグや各クラブを取り巻く条件は変わってきている。だから、議案が蒸し返されるのは構わない。しかしそれにしても10年前の議論がまるで忘れ去られたかのような、今回の報告を見る限り、「秋春制」が大きく前進することは当分なさそうである。

 ところで、この報告書の中には、そのほかにも興味深い話題が盛り込まれている。「スター選手がいない」「チーム数が多くて覚えられない」という現状分析や、「新たなファンの獲得が進まないため、ファン年齢層の上昇が感じられる」という危機感が記載されている。この報告書が提出されて9年、はたしてJリーグの構造改革は進んだと言えるだろうか。むしろ問題は深刻化しつづけているようにも見えるのだが。

[文=森雅史]