NHKより

現在放送中のNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)『まれ』の大きなテーマは、夢を追ってばかりの父親のせいで、夢を見ることに反発していたヒロイン希(まれ)が、パティシエになる夢に向かうというものです。しかし、このテーマだけに期待していると、どうしても脱落する人も出てくるかもしれません。でも、実は『まれ』には、いろんなドラマの要素が入っています。今回は、そんな『まれ』の見どころをいくつかご紹介します。

ダメ父を見守る物語として

『まれ』には、ダメな人が一人ではなくたくさん出てきます。もっとも主要なダメ男は、ヒロイン希(土屋太鳳)の父親の徹さん(大泉洋)でしょう。徹さんは、自己破産をしてなんの所縁もない能登に越してきます。ところがほどなく東京に出稼ぎに行ってしまい、連絡もないまま6年も家に帰ってこないという人物です。ちなみに、現時点でも、東京でIT会社に就職し、妻とは離婚中(厳密には離婚はしていないのだがそう思い込まされています)。

徹さんを見ていて救いなのは、ビジネスに対しての目論見は甘いけれど、性根は心底良い人だというところ。なんとなく現時点ではIT会社も立ち上げ、順風満帆のように見えますが、これがいつまで続くのか……。ときどき不穏な空気を感じさせるところもあり、徹さんがどうなっていくのか目が離せません。

意識しあう女子同士の物語として

希と一子(清水富美加)は、希が転校でやってきたときからの幼馴染み。ところが、高校時代に希が同級生の圭太を振り、圭太がヤケになっている間に、さくっと告白して、一子は希に内緒で圭太とつきあうことに……。でも、一子は本当に圭太が好きだったというよりも、希を通して圭太を見ていたのではないのかと思えてくるのです。その後、圭太は一子と別れ、希とつきあい始めます。一子は圭太にさほどの未練はなさそうですが、やっぱり意識しているのは希のことのよう。

その頃、一子はモデルを目指して上京しますが、実はキャバクラで働いています。希と圭太が結婚したことを知って、希の元にお祝いを言いに来た一子は、希がパティシエとして腕を上げていることにはっとします。一子は希を意識しすぎて、自分の価値観が見えなくなっているようにも見えます。一子が自分自身の尺度で幸せを見つけられるのか、この部分も気になるところです。

希と圭太のラブコメディとして

そもそも、希と圭太は幼馴染みでしたが、転校で離ればなれになります。圭太は高校で再会した希に告白するも振られてしまい、前出の一子に告白されてつきあいます。少女漫画やラブコメでは、好きあっているふたりが、好きな気持ちを持ちながらも、なかなかつきあわないという“王道”がありますが、希と圭太はまさに“王道”です。

希は、横浜でパティシエ修行する中で出会った池畑大輔(柳楽優弥)と良い雰囲気になるも、やはり圭太のことが忘れられません。ちなみに、同世代の男の子という感じの圭太と、年上で危険な自由人という雰囲気の大輔という対照的なキャラクターが出てくるのも少女漫画っぽい。希は大輔に揺れつつも、圭太への気持ちに目覚め、つきあうことになったのに2年も会わなかったり、結婚しても一緒に暮らさないばかりか、喧嘩ばかりしているのも、少女漫画のひっぱるだけひっぱるというセオリーにのっとっています。結婚してもなお、“くっついてはいない”空気の2人は、まだまだ何かありそうです。

朝ドラのセルフパロディとして

以前、吉本所属の「アロハ」という女性コンビが(現在は解散)、朝ドラのヒロインをテーマにした「朝ドラ風女子」というコントをやっていました。ヒロイン・海空花子は関西出身で、ちょっと呼ばれただけで、駆け足で走るし、夢は日本を元気にすることです。バイト先のケーキ工場で思わず売り物のケーキをほおばってしまい、勝手に転んで、つらいことがあると東京の洗礼を受けたと納得します。そして、決まり文句は「転んでも起き上がる、海空花子です」というものです。

当時、このコントを見たときは、「ああ確かにこんな朝ドラヒロインっていそうだな」と思ったのですが、『まれ』を見たときに、これは「海空花子」という朝ドラのパロディのパロディをやろうとしているのかとも思えました。この朝ドラのセルフパロディ感が、この先どうなっていくのかも、気になるところです。

こうして、『まれ』の気になる要素を挙げていて気づくのは、『まれ』のキャラクターひとりひとりには安定感があんまり感じられず、心配なところばかり出てくるということです。でも、その心配する気持ちがクセになり、見続けてしまうということもあるのかもしれません。

(西森路代)