石洋ハウス内部のごたごたなど、地面師被害に通じる企業側の落ち度もいやらしく描かれ、下手をしたら当該企業から信用失墜するとして抗議が来かねない内容となっています、

 その可能性も作り手は織り込み済みでしょう。前述のとおり、大手テレビ局や映画会社が、実写化を避けたのはそこにあるのですから。つまり、この事件に絡んだ関係各社からの抗議を恐れぬ表現こそ、『攻めてる』と評される所以なのです。

 リアルな名前を出し、事実に即した展開にする――たったこれだけのことですが、実際の名前、あるいはイメージさせる名前を出すことによって、リアリティがより深まっています。そして、今私たちが生きる現実と地続きであることを浮かび上がらせ、よりいっそうドラマの中への没入を手助けしているのです。

◆怪しげ、そして実力派ぞろいのキャストたち

 また、この作品が『攻めてる』と業界内で言われるもう一つの所以は、キャスティングにあるでしょう。ピエール瀧さんはじめ、綾野剛さん、アントニーさん、リリー・フランキーさんなど、夜の街が似合うどこかアウトローな面々が揃っているのも事実です。

 彼らの醸し出す独特の危うい匂いは、この作品に漂うギリギリの世界観をより強固にしています。少しでも悪いうわさや疑惑があると起用を敬遠しがちな地上波では、これだけの面子が揃うのはまずないことでしょう。こちらも、スポンサー頼みの地上波民放の姿勢では到底できないことだと思います。

 つまり、Netflixだからこそこの『地面師たち』は成立した作品。内容やキャスティングについて縛られることのないNetflixの姿勢が、自由な表現を可能にし、多くの人が興味を持ち、大ヒットにつながったこの『地面師たち』なのです。

 ◆Netflixに拍手を送りたい

 作品としての内容もさることながら、バブル崩壊からはじまった平成の事件史の中で、時代を表す“地面師”という存在を、事件を、名作ドラマに代えて記録した功績は大きいです。後世に残る歴史的価値の高い作品になっているのではないでしょうか。

 この作品を実現させた大根仁監督、キャスト、そしてNetflixに、筆者は改めて拍手を送りたいと思います。

<文/小政りょう>

【小政りょう】
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦