秘密の扉の先に広がるのは、セピアに煌めく船室空間〈ぎおん石 喫茶室〉|寺社につき喫茶。絵になる京都ご多幸散歩 Vol.5 喫茶編

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独特の吸引力に惹きつけられ何度でも足を運びたくなる。そんな街といえば、やっぱり京都。飽きない点も魅力だけど、知られざる美しい心の保養地がこの街にはまだまだあるんです。知っているとちょっと“粋”な神社仏閣、そしてその道すがらに出合った“秘密にしたい”素敵な喫茶店、教えちゃいます。案内人は寺社を愛する京都在住のモデル・本山順子さん。今回訪れたのは、学問、厄除けの神様・菅原道真と所縁ある繁華街唯一の鎮守社〈錦天満宮〉と、天然石やモダンな美術工芸品を取りそろえる〈ぎおん石〉の2階にひっそり佇む喫茶室。後編では〈ぎおん石 喫茶室〉で過ごすひとときをお届けします。

寺社編〈錦天満宮〉はこちら本山順子 モデル、クリエイター

京都在住。日本仏教検定1級、神社検定3級を取得。日本の伝統文化をこよなく愛し、神社仏閣に関する情報を発信するYouTubeチャンネル「じゅんことまいる!」を運営する。ハナコラボ パートナー。Instagram:@junkomotoyama

海面のプリズムを思わせる、喫茶室の“船内”

今も昔も京都を代表する繁華街、祇園花見小路八坂神社へ向かう人々の荒波に浮かぶのは船をモチーフにしたビル〈ぎおん石〉。石という名のとおりの宝石屋さんです。宝石のみならず原石から掘り出された細やかで可愛いらしい動物の彫刻や化石までずらり。まばゆい宝石の先には「石」が四つ並んだカッコいいロゴのエレベーターが秘密の隠し扉のように現れます。

2階へ上がって訪れたのは〈ぎおん石 喫茶室〉。セピアに煌めく空間は船室をイメージして作られており、洗練された高級感で満ちています。漂うように灯されたガラス玉のランプは、太陽の日差しに照らされた波の気泡のよう。

ヒノキの無垢材に覆われた壁は、天井にかけてゆったりとカーブ。店内奥の天井は海底から見上げる水面のような名栗加工がされており、海面のプリズムを思わせるようなこだわったつくりです。空間を支える小石が散りばめられたコンクリートの柱は、職人さんが手作業で彫り出されたものなのだとか。

お店のシグネチャーは、上品な佇まいのレモンゼリー。

訪れたら一度はいただきたい、レモンゼリーホットコーヒーのセット。その見た目の上品さとは裏腹にレモン1.5〜2個分の果汁を贅沢に使用した、しっかりとパンチのあるゼリーです。街歩きでくたびれた身体もシャッキリ。すかさず生クリームの甘さが、酸味を優しく包んでちょうど良いバランス。苦味の深いコーヒーは「ぎおん石 喫茶室特別ブレンド」のものです。

サイドがステンレスになっている特注品のソファーは何度も革を張り替えて大切に使われているのだそう。手触りの良いスウェードの滑らかな座面に、ゆっくりと身体が沈みます。フチがまるくなった銅板のしっとりと光るテーブルとしっくりきます。

そしてこの空間が昭和の時代から歳月を重ねたからこそのやわらかな風合いで、その優雅な美しさはなにものにも代えられない、あの頃の記憶すら宿っているように思えてならないのです。

突然の雨に降られて妹たちとここを訪れた、とある夏の日。その日も店内でかかっていたポール・モーリアの『恋は水色』。「2人が幼い頃、父の車の中でよく聞いていたんですよ」と懐かしむと、接客して下さった奥様がにこやかに応えてくださり、心の奥深くに沈んでいた記憶が蜃気楼のように眩しく揺らめいたのでした。奇しくもここ〈ぎおん石 喫茶室〉は私が生まれた年が創業なのだそう。喫茶室の船内で記憶の海を漂いながら、この日もまた、いつかの思い出の中をゆらゆらと旅するのでした。

〈ぎおん石 喫茶室〉

住所:京都府京都市東山区祇園町南側555 地図HP: https://www.gionishi.com/gion/営業時間:11:30〜19:00(18:30LO)定休日:水曜、隔週木曜

text_Junko Motoyama photo_Haruka Kuwana