毎月、映画とワインのマリアージュを提案していく連載・ほろ酔いシネマ。

今月は、イギリス植民地時代のインドを舞台にした、ミュージカルアクション映画『RRR』。

映画のテーマにちなんで、“男同士の友情”から生まれたモロッコワインを片手に、おうちシネマを満喫しよう!

▶前回:Vol.9「『カーライル ニューヨークが恋したホテル』×フランスのザ ペール」


昨年から人気が止まないインド映画の大ヒット作


:クラリ〜ン(編集の嵩倉)、ナートゥをご存知か?ナートゥ、ナトゥ、ナトゥ……。

嵩倉:ひゃっ!いきなりキレッキレの踊り!柳さん、いったいどうしたんですか?

:今月の新谷さんオススメ映画はインド映画の大ヒット作『RRR』。その中でインド総督公邸に赴いた主人公ふたりが、彼らを侮辱する英国人男性に見せつけるのがこのナートゥダンスなんだ。

なんと、この楽曲は第80回ゴールデングローブ賞で最優秀主題歌賞、第95回アカデミー賞で歌曲賞をそれぞれ受賞したほど。

映画のシーンをそのまま切り出したミュージックビデオも人気で、ユーチューブには一般人のカバーまで上がるほど。すごい盛り上がりっぷりだよ。


今月のワインシネマ『RRR』


『バーフバリ』シリーズの監督によるアクションエンターテインメント。

一体どうやって撮っているの!?という驚きのアクション、インド映画ならではのダンス、そしてCGも取り入れた圧倒的映像などエンタメが盛りだくさん。

1920年、英国植民地時代のインドを舞台にふたりの男たちの友情と使命を描く。




圧倒的なスケール!友情と使命の間で揺れ動く男たちのドラマが胸を打つ


映画の見どころのひとつは、ダンスバトルシーン。その楽曲『ナートゥ・ナートゥ』は、アカデミー賞でインド映画史上初の歌曲賞を受賞。

主演のふたりはインド映画界屈指のダンサーで、約12日間かけて撮影を行った。



新谷:柳さんお気に召しました?

インド映画といえば95年制作の『ムトゥ 踊るマハラジャ』が日本では有名で、歌って踊る伝統ミュージカルがインド映画のイメージだと思いますけど、この『RRR』はミュージカルのほかにド派手なアクションシーンあり、ラブロマンスありのてんこ盛り。

すでにアマプラ等での配信も始まってますが、上映時間3時間におよぶ超大作ながら、今でも劇場公開が続く大ヒット作なんです。

:勧善懲悪の娯楽映画には違いないけど、英国統治下の抑圧されたインドの状況など、20世紀初頭のインド史も学べて、3時間があっという間でした。

新谷:主人公のラーマとビームはそれぞれ英領インド帝国、ニザーム藩王国に抵抗する革命指導者がモチーフですが、さらにヒンドゥーの叙事詩もモデルになっています。

ラーマは『ラーマヤナ』のラーマ、ビームは『マハーバーラタ』のビーマが由来のよう。

ラーマとビーム、同じ目的を持って同時代を生きながら、現実にはふたりが出会うことはなかったそうで、ラージャマウリ監督は「ふたりのヒーローがもし出会ってたら」という空想のもと、この物語を作ったと語っています。

:全体に通底するのは“男同士の友情”ですよね。じつは追う者、追われる者でありながら、列車事故に巻き込まれた少年をふたりで助けたことから友情が芽生える。そしてあのナートゥ(笑)。


男同士の友情から生まれた、北アフリカ産のシラー


嵩倉:おふたりの話を聞いていたら、私もすごく興味が湧いてきました。そうすると、今回はやっぱりインドワイン?

:最初は僕もそうしようかと思ったのね。日本に輸入されているインドワインというと、「スーラ」が有名で、シュナン・ブランから造られる白ワインもいいし、シラーの赤ワインもなかなか美味しい。

それから、無名ワインに脚光を当てる腕利きの醸造コンサルタント、ミシェル・ロランがかかわっている「グローヴァー・ザンパ・ヴィンヤーズ」のワインも、以前、近所のインド料理店で飲んだらかなり美味しかった。

でも、この映画を鑑賞するワインとしては、いまひとつ役不足な気がしたんだよね。

嵩倉:ほぉ。それで柳さん。ワインは決まりました?

:うん、やはりここは友情をテーマにしてみようと思う。

男同士の友情から生まれたワインは少なくないけど、フランス、イタリア、カリフォルニアといった著名産地じゃつまらないから、今回はモロッコワインの「タンデム」だ。


「Tandem Syrah du Maroc 2019(タンデム シラー・デュ・マロック2019)」


アラン・グライヨとジャック・プーラン、ふたりの醸造家のコラボプロジェクトが始まったのは2005年で、6ヶ月間かけて理想的なシラーのブドウ畑を発掘。

40%はステンレスタンク熟成。60%はフレンチオークの樽で熟成。

スミレやプラムのアロマを持ち、口当たりは柔らかく、テクスチャーも滑らかだが、骨太さも十分。アフターフレーバーにスパイシーなニュアンスが残る。

4,400円/ヴィノラム TEL:03-6228-1414



新谷:モロッコ?あの北アフリカの?

:インド同様、エスニックな感じがしていいでしょ?

昨年惜しくも亡くなったけど、フランスのローヌ地方にアラン・グライヨという名醸造家がおりました。彼と自転車を通じて親交があったのが、ボルドー出身の醸造家、ジャック・プーラン。

彼はモロッコのワイナリーで仕事をしていて、アラン・グライヨとのコラボワインを2006年ヴィンテージから醸造。タンデムとは前後ふたり乗りという意味で、ラベルにもふたり乗りの自転車が描かれてます。

嵩倉:品種はシラーなんですね?

:うん、アラン・グライヨがお得意の品種で、飲んでみると北アフリカの野暮ったさがなく洗練された味わいで驚いた。スパイシーなトーンもあり、正統派インドカレーとも合いそうだよ。

嵩倉:では嵩倉、このシラーを片手に早速『RRR』を鑑賞します。

:ちょっと待った。その前に僕とナートゥの特訓だ!

嵩倉:ひぃ〜(涙)。


マリアージュをお届けするのはこの3人!


幅広い分野の雑誌で執筆を手掛け、切れ味あるコメントに定評があるワインジャーナリスト。未訪のインドへ行ってみたいと思いながらも、今月もまたヨーロッパへ出張の嵐……。




映画を中心に書いたり取材したり喋ったり。チャールストンダンスを習った時にダンスセンス皆無だと判明。この映画のダンスも真似てみたけど挫折。応援専門でいきます。




本連載の担当になって6年目に。ワインの知識は少しずつでも積みあがっていると信じ、柳氏にしがみつく日々。本作鑑賞後は、お気に入りのカレー店『トーキョー バワン』へ走りました。


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