自分らしい仕事って、なんだろ? 女性起業家に聞いた”好きをとことん追求する働き方”

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取材・文:ミクニシオリ
撮影:大嶋千尋
編集:マイナビウーマン編集部

そんな風にへこんでいたら、とある会社を立ち上げた女性起業家さんに「何を言っているの??」と一喝されました。11月1日に21周年目になったデザイン会社「S. P. ビームス」を起業し、40歳で代表を退任し現在は会長という肩書でデザインを行っている永尾(遠藤)久美子さん。現在は大学で教鞭を握りながら、新しい事業にも取り組んでいるという、バイタリティあふれる女性起業家です。

若くして起業した会社の社長を退任し、今も昔も「好きなもの」に囲まれて働いているという永尾さん。そんな彼女に話を聞いてみたら「好きだらけで働いているから、仕事が回る」と目からウロコな意見が返ってきて……?

■起業したのはたまたま。「縁」で会社と仕事が回り続けている

――永尾さんはどのような経緯で、起業しようと考えられたのですか?

会社を作ったのは、一言で言っちゃえばたまたまなんですよね。アーティストになりたい! というよりも、デザインに興味を持って美大に行って、最初に入ったのは小さなディスプレイ会社だったの。有名企業に行くよりも、自分の裁量権が大きい中小企業に行った方が、仕事を覚えるのが早いんじゃないか、と思って丸5年で退社するってきめていたの。27歳の3月31日付で退社したわ。

――就職のタイミングから色々考えていてすごいなとも思うのですが、そこからどうして起業という選択肢が?

最初は独立する気なんてなかったの。27歳の時に転職を決意して、辞めた後に社長に挨拶しに行ったのね。そしたら、許さないって言われてね。その時すでに同業他社に内定が決まってたんだけど、悩んでしまって……。その会社では企画営業をやってたから、仕事で関わった人たちには幸せなことに会社の社長も多くてね。挨拶まわりで社長に言われたことを相談したら、みんな口を揃えて「じゃあ独立しなよ」っていうからね、やるだけやってみよう! って思って……背中を押してくれたのよ。それでね。

――ええ〜っ、そんな感じだったんですね。起業ってもっと、すごく真剣に考えてされる方が多いのかと思っていました。

まあまあ、最初は個人事業主みたいな感じだったからね。でも、相談を持ちかけたのが社長たちじゃなかったら、独立したらなんて勧められなかったのかもね。もしかしたら、普通にずっと働いていた未来もあったかもしれない。

――でも、フレッシュな新卒がクライアントの社長に仕事の相談ができるというのは、ある意味なかなかすごいですよね。

小さな会社だから、飛び込み営業から現場まで、全部企画営業が1人で持ってたのよ。どんな相談も私が担当窓口だったしね。もちろん泣くほど怒られたこともあったけど、今振り返ると、周りもいい人ばっかりだったのよ。私も当時は早く仕事を覚えたくて、がむしゃらにがんばっていたから、みんなも応援してくれて。当時、仕事とプライベートの時間のバランスなんて考えてもいなかった。それで「じゃあ、失敗したらアルバイトでもして食いつなぎます!」とか言って、それまでと同じディスプレイ関係で、事務所を立ち上げたの。他の人と同じことをしていたら今の私はいなかったと思う。人にとう思われるかよりも自分がどうしたいかの方が大事だと思ったから。

――こう聞くと、バイタリティはすごいですよね。

好きなことを仕事にしていたからじゃない? デザイナーなんて、みんなそうだと思うよ。だからこそ、利益中心ではなくデザインに力を入れたくて、転職を決意したのもあるんだけどね。

――じゃあもう、30年くらい同じ仕事を続けられているんですね。

デザインの仕事って幅広いから、飽きるってことは全然ないんです。それに、あの時背中を押してくれた社長たちの中には、いまだにうちとの取引を続けてくれている会社もある。そういうクライアントがまた別のクライアントを紹介してくれてって感じで、つながりのある中で仕事をし続けているから、役に立ちたい、気に入って欲しいっていう気持ちも大きいしね。クライアントも今の社員も、私にとっては家族みたいなものかな。デザインを通してモチベーションがあがるブースを作ったり、空間を提案したり、商品がよく見えたり……ゼロをイチにする仕事って本当に楽しい。

――点と点がつながって、それで仕事が回っているんですね……一つの理想的な働き方であるように感じます。

だから失敗はできない。空間はチームで作り上げるからたまにはミスをすることはあるの。その時はすぐにミーティングをして、次の失敗をふせぐように徹底的に話し合う。同じチームで動くことって信用と信頼の積み重ねで選んで今までやってきていて、今のS. P. ビームスがあるのだから、そこは本当に大切にしていること。

■人生のテーマは、愛。お金より大切な「好き」という感情

――すごく素敵ですね。社員のみなさんにもクライアントさんにも、愛があるというか。

私は人生において、愛情をすごく大切にしているんですよ。周りの人間関係にも、もちろん仕事にもね。だから私は、好きなことを仕事にしてるの。お金がたくさんあることが豊かだとは全然思っていなくて。みんなにそれなりのお金を払った後は、次の楽しいことにみんなでお金を使えたらいいのかなと思ってる。

――そういう意味では、お金以上に、好きだとか、楽しいと思える感情に価値があるというか。

そのとおり! 心の豊かさは私にとって、お金以上の財産。大切な仲間や、昔から好きだった人たちと一緒に仕事ができているからこそ、この仕事好きだなって思えると思わない? 日本人って人生の3分の1働くわけだから、お金より何より、好きっていう気持ちを譲っちゃダメだと思うのね。

――たしかに……お金だけあっても、誰かとシェアできる楽しい時間がなかったら、人生つまらないかも。

そうそう。今って、シェアって言葉がブームじゃない。SNSがこれだけ普及してさ、いいねって言われたい人が増えてるでしょ。それはそれでいいと思うんだけど、私はSNSでの繋がりよりも、やっぱりリアルタイムを一緒に過ごす人との時間を大事にしたいのね。若い皆さんは自分の心の豊かさって何で満たされるのかって考えてみると、自分らしさってやつがちょっと分かるんじゃないかな。

――自分らしさを知るためには、考えることが大切ってことですか?

というか、考えて自分を知らないと、人生の計画も立てられないじゃない。仕事とプライベートのバランスとか、女性はやっぱり、子どもを持つのかどうかとか。行き当たりばったりしてるとやっぱり、後悔する選択に繋がりやすくなっちゃうよ。1日24時間の使い方と、一生のバランスは違うからね!

――永尾さんも若い頃から、人生計画を立てていましたか?

手帳に年表を作ってた。何歳までに社長を辞めるぞとか、子どもを持つぞ、とか。でも、計画どおりに人生が進むかはまた別の話なんだよね。人生、全部計画どおりってわけにはいかない。だから、私は今50歳。結婚して優しい夫と二人の子どもがいる幸せな家庭。でも自分が産んだ子どもはいないの。計画があった上で違う道を歩いてきたわけだから、子どもができる年齢に作らなかったのは自分の選択なわけ。私は考えて仕事を優先してきたわけだから、そうすると後悔しないし、悩みこむこともなくなるの。

――なるほど……計画があれば、行き当たりばったりもなあなあな選択もなくなりますね。悩みこまない人って、そういう選択ができてるんだ。

そう。だから大きい決断ができるわけ。例えば私は40歳には、社長を引退したいって計画もしてたの。だから今の社長は7年くらい熱烈に、後継になってほしいって勧誘したのよ。自分の会社を人に渡すのってすごく勇気がいるって思うかもしれないけど、私にとってはそんなことないの。肩書にこだわってないし、ずっと決めてたことだからね。

――どうしてそんなにも前から、自分で立てた会社の社長を辞めようと決めていたんですか?

まあ、今でも取締役ではあるから、関わってはいるんだけどね。大きい理由は、自分の好きなことをし続けたいからかな。これまで通り、空間デザインの仕事は続けているし、大学で教授もしてるし、もう一つ小さな会社を作って、紅茶やジュエリーを売ってるの。今の代表が会社を守ってくれているから、そうやって新しいことにチャレンジできてるんですよ。

■仕事を充実させるために、プライベートを充実させる

――新しいことにチャレンジできる人って、自分のキャパがすごく大きい人だと思っていました。

そんなこと全然ないよ! 私はただ、周りの人にうんと助けられてるだけ。私の生き様はもはや、こんな人でも起業ってできるんだな、みたいな。そんな風に思ってもらえればうれしい!

――でも、永尾さんが「好き」の愛情パワーにあふれているのは、すごく伝わりましたよ。

それは間違いない(笑)。……で、唐突だけどあなた子どもは欲しい?

――(え、急に!?)うーん……でも、いつかはとは思います。

そうなの。じゃあ、そこはちゃんと考えていかなきゃね。私はね、あなたくらいの頃から子どもが好きだった、結婚がしたくないわけじゃないんだけど、愛がある結婚がしたいとは思っていたの。一生青春一生恋愛なんて言いながら。で仕事と恋愛で仕事を選択しながら独身が長くてずっと自由だったからね、これまでたっくさん恋愛してきたのよ。でも、選択の結果、私は40歳を過ぎてから結婚したから。自分の子は諦めたの。

――そうですよね……ちゃんと考えないとなって思います。

でもね、深く考えなくていいのよ。ただ、恋はたっくさんした方がいいよ。私はこの歳になってもね、自分は輝いていると思ってるの。だって、女性には年齢によって違う輝きがあるから。でも美しくあり続けるためには、ファッションや恋、セックスだって大切なんですよ。で、そういう話をたくさん、人と話すといいよ。

――経験を人とシェアする……仕事でも、永尾さんが大切にされていることですね。

そうそう。私は仕事だけじゃなくて、プライベートも全部あけすけなの。自分の人生の恥みたいな話を人に言っていると、周りも心を開いてくれてるようになって、いろんな相談を受けるようになるのよ。そうすると自分以外のいろんな人の経験や意見を聞ける。それって私にとっても、プラスなことなわけ。

――自分がオープンだからこそ、相手もオープンになってくれる。そこからできた人間関係って、信頼感がありそうですね。

そうだよ〜。仕事の相手にだって、プライベートな話をしてもいいよねって私は思うの。プライベートがカサカサな人ってさ、仕事も頑張れないじゃない。あなたが面白いなと思う人もさ、仕事とプライベート、どっちも充実してる人でしょ? そう思ってもらえたらさ、仕事ももっと充実するんだよ。だからね、私にとってのワークライフバランスって、仕事もプライベートも、同じくらい充実することなんだよね。

――それが一番理想的! とは思いながら、時間がないなという人も多いのかなとも思ったり……。

だから、どっちも一緒に楽しんじゃえばいいのよ。仕事はがむしゃらにやればいいだけだからさ、私は今の若い人たちに、もっと恋愛や自分のケアを頑張って欲しいなと思います。

――お仕事をしながら、常に女性らしく輝くコツってなんだと思いますか?

自分が常に面白いことをしてるってことを、意識することかな。自分にとって興味があるものを、なるべく仕事でもプライベートでも絶やさないでみて。まあ、なんにもなかったら私に連絡ちょうだいって感じ。面白い人、周りにいっぱいいるから(笑)。

――永尾さんが愛情を持って常に面白くい続けているから、周りにも楽しい人が集まってくるんですね……ありがとうございます。私も永尾さんのような輝きのある未来を目指します!

え〜なにそれ嬉しい! 暇になっちゃったら、いつでも一緒に女子会しましょうね。

『自由を手にした女たちの生き方図鑑 〜 振り回される人生を手放した21人のストーリー 〜』

自由を手に入れた21人の女性が登場し、自由を手に入れるまでの物語を赤裸々に綴った同書。誰にも振り回されずに自分の意志と責任を持って、人生を選択できる「本当の自由」をテーマに、21人の多彩な人生ストーリーを垣間見ることができます。今回の取材にご協力してくださった永尾さんも著者の一人としてご執筆されています。

発売日:2022年6月29日
刊行:Rashisa出版
仕様:四六判/356ページ
定価:1,650円