「可愛いのに、どうして結婚できないんだろうね?」

そんなふうにささやかれる女性が、東京の婚活市場にはあふれている。

彼女たちは若さにおごらず、日々ダイエットや美容に勤しみ、もちろん仕事にも手を抜かない。

男性からのウケはいいはずなのに、なぜか結婚にはたどりつかないのだ。

でも男性が最終的に“NG”を出すのには、必ず理由があるはず―。その理由を探っていこう。

▶前回:夜も従順すぎる女はツマラナイ…赤坂23時、シャワーを浴びたあとに男が向かった先とは




Vol.6 奈緒、26歳。お酒が入ると楽しくなっちゃう


「これ、飲みきれないから一緒に飲んでいただけませんか?」

私は、隣の席の男性ふたり組に声をかけた。

ここは、代官山の『falo』。彼氏の聡(さとし)と食事中、注文した赤ワインが半分以上残ってしまったのだ。

せっかくの美味しいワインなのに、このままだと飲みきれない。

「おいおい、迷惑だって」
「え〜、だってもったいないよ?」

聡は、不満げな顔をした。きっと、私が他の男性に笑顔を向けるのが嫌なのだろう。

「いや!そんなことないです、ぜひ。それより…彼女さんめちゃくちゃ美人っすね。まさか、芸能人ですか?」

しかし、男の子たちは笑顔で応じてくれた。

「本当?ありがとう〜!一応、モデルしてます」

そう答えた通り、私はフリーランスでモデルをしている。

だから、褒められることには慣れているが、その場を盛り上げるために、あえて明るく答える。

4人で乾杯すると、男性のひとりが遠慮がちに尋ねてきた。

「さっき、おふたりの話が聞こえちゃったんすけど、彼氏さん、有名なIT企業の役員なんですね。すごすぎです」
「いやいや、別にたいしたことないよ。来年には35歳になるおじさんですから」

そう言いながら、まんざらでもない様子の聡は、ようやく彼らと会話を始めた。


ほろ酔い上機嫌の奈緒が彼氏に提案した、結婚を意識させる食事会って?


私は聡以外の異性と話すことが久しぶりだったから、自然とテンションがあがる。

「ふたりとも若いしかっこいいね。彼女はいないの〜?」

私は、隣の男性の肩を軽くポンと叩いた。

「それがいないんですよ〜。誰か紹介してください。お姉さんくらい美人じゃなくていいんで」
「あはは。いいよ!じゃあ皆でグループLINE作ろうか。いい子いたら連絡するよ」
「マジすか?あざっす!!」

会話が弾み、お酒も美味しい。私は楽しくて仕方なかった。






「ちょっと飲みすぎちゃったね、ごめん〜」

恵比寿にある聡の家に着くと、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しながら謝った。

何か悪いことをした記憶はないが、私はお酒が好きでつい飲みすぎてしまう。

今までも何度かお酒が原因で聡とケンカをしている。だから、こうして先に謝っておくことにしているのだ。

「ちょっとどころじゃないけどな。奈緒の社交的なところはいいと思うけど、程々にしろよ。はい、それ貸して」

― は?可愛く謝ってるのに、何よ。

文句を言おうと思ったのに、ペットボトルを開けてくれたので、怒りは鎮まってしまった。

「なんだか、こういうの久しぶりで楽しかったね〜」
「まぁ、そうだな」

聡と付き合い始めたのは、2年前。あの頃は今のように気軽に外食するのが難しかった。

営業時間や、酒類の提供が制限されていたのもあるが、今よりも人の目をかなり気にしていた。

外食の風景をSNSに載せるのはためらったし、非難されるくらいなら家にいようと思った。




その時に比べたら、世の中の雰囲気が多少は明るくなった感じがする。

お酒が大好きな私にとって、外で飲めることは本当に嬉しいことなのだ。

「そうだ!今度、聡の友達に会わせてよ!一番仲がいいフミヤくんだっけ?その人の彼女も呼んでさ」
「あ〜。フミヤね。そういや、彼ら婚約したって言ってたな。お祝いも兼ねて飲み行くか」

― 婚約!?それはナイスタイミング!聡にも結婚を意識させるチャンスだわ。

「でも奈緒、くれぐれも飲みすぎるなよ。それだけは約束してくれ」
「は〜い!」

私は、子どものように手をあげて元気よく返事をした。


奈緒の酒癖の悪さは、彼氏の前でもしてしまう“あること”だった




それから数日後―。

「私、ワインが大好きなんです。だから本当はフレンチでもよかったけど、男性ってカジュアルなイタリアンの方が好きでしょ?」
「さすが、奈緒さん。わかってるね!」

私と聡、そしてフミヤと彼女のレナの4人での食事会は約束通り開催された。

客層もよく、料理もお酒も美味しくて、お店の雰囲気も明るい。『ラ・ビスボッチャ』にしたのは正解だったようだ。




フミヤに褒められたこともあり、私のお酒のペースも進む。

「レナも本当にフレンチが好きで。先週、『ロオジエ』に連れてったばかりなのに、来月『レフェルヴェソンス』行くんだよな」
「だって普通に美味しいじゃん。フミも本当は好きなくせに」

フミヤとレナがふたりで会話を始めた。

レナは背が低く155cmもないように見える。そのせいでマーメイドラインのスカートが全く似合っていないし、Lady Diorのバッグもニセモノに見える。

― ふぅん。

どこをどうみても、高級料理が似合わなそうな彼女なのに、お金持ちの婚約者がいると、何かを勘違いしてしまうのだろうか。

彼らは、誰がどう見ても釣り合っていないカップルだ。

なぜなら、フミヤは文句のつけようがないくらい、完璧だから。会社をいくつも経営していると、自然と男としての余裕が出るのだろう。話し方も知性的で色気を感じる。

― なんで、こんな子と結婚するの?意味不明。

その心の声が態度に出てしまい、ついついレナではなくフミヤにばかり話しかけてしまった。

「ねぇねぇ、もっと話聞きたいからフミヤくんの隣行っていい?」

先日も聡に注意をされていたのに、お酒をだいぶ飲んでしまった私は、かなり酔っていた。

「あ…そうだね。せっかくだから席替えしようか」
「しなくていいよ。4人なんだから、このままでも話聞こえるだろ」

フミヤが了承してくれたのに、聡はあきれた声で制した。レナは黙っている。

「いいじゃん。せっかくだし!ほら、男子が場所代わればいいだけ」

私が言うと、聡が渋々立ち上がりフミヤと席を交換した。

そのあとの記憶はほとんどない。ただ、聡と付き合って以来初めて、他の男性に少し、ときめいてしまった。大丈夫。聡にはバレてはいない。

それに、フミヤとレナの婚約を私は散々羨ましがったから、きっと聡も結婚については前向きに検討してくれるはずだ。

お酒は人との距離を縮めてくれる、私の人生において欠かせない相棒だ。


奈緒との結婚を考えられなかった理由〜聡の場合〜


「聡がなかなか結婚に踏み出せない理由、わかった気がするわ」
「だろ。奈緒、普段いい子だし見た目もタイプなんだけどさ…」

食事会の後、家に来たがる奈緒をなんとかタクシーに押し込み、俺はフミヤを誘い『Bar TRENCH』に来ていた。

普段こういうバーでは、ウイスキー以外飲まないが、ここでは逆にそれを頼まない。そのくらい好みなカクテルを作ってくれる。

今日もドンピシャの一杯を味わいながら、俺はさっきの奈緒の言動を思い返していた。




「人との距離感が近いっていうか…男好きなのか?とにかくスキンシップもすごかったし、俺もレナがいる手前焦ったわ」

アブサンの苦味の効いたカクテルを飲みながら、フミヤがポツリと呟いた。

「だよな。すまん」

奈緒は、とにかく酒癖が悪い。そして、酔っ払うと、異性にベタベタしてしまう癖がある。

それは、誘惑しているわけではないし、決して飲みの場でキスをするようなことはしない。それは付き合う前に自分で体験済みだ。

むしろ、貞操観念はその辺の女性よりもある気がする。実際に、付き合ってから1ヶ月は体の関係はなかった。

それをわかっているから、奈緒が飲み歩いていても心配じゃないし、何よりもお酒を好きなことを知っているから、好きにさせてあげたい気持ちはある。

彼女はまだ26歳だし、俺も若い頃はお酒の失敗はよくしていた。

しかし、この前の隣に座っていた男性ふたり組に話しかけた日や、今日のように目の前で他の男性に触っているのを見るのはいい気持ちはしない。

特に今回は相手の婚約者もいたし、フミヤと奈緒は初対面だ。それにしては距離の詰め方が急で、度が過ぎていたように思う。

『私たちも近いうちに結婚したいね!』

そんなふうに無邪気に甘えてきた奈緒を可愛いとは思ったし、結婚を全く考えていないわけではない。

しかし、今のままでは結婚はないと俺は確信してしまった。

「まぁ、若いし可愛いから、本気で結婚を迫られるまでは付き合っておけば?」

フミヤは悪戯っぽく言ったが、奈緒のためを思えば結婚の可能性がないなら、早く別れてあげるべきなのかもしれない。

カクテルのおかわりを注文しながら、俺は静かに決意したのだった―。

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