日本の法律では、結婚した夫婦が同じ姓を持つことを定めています。そして多くの場合、結婚後に名字を変えるのは大半が女性側。姓が変われば仕事での不都合や名義変更などの面倒も生じるし、自分が使い続けて来た姓を変えなければいけないというのはプライバシーの侵害だと思う人もいるでしょう。

80%の人が選択的夫婦別姓に賛成

実際、法務省が平成24年に実施した「家族の法制に関する世論調査」では35.5%の人が「選択的夫婦別姓制度を導入しても構わない」と回答。「夫婦は同じ姓を名乗るべきだが、通称的に婚前の姓を名乗れるように法律を変えても構わない」という回答を合わせると約80%の人が選択的夫婦別姓に賛成しています。

賛成派からは具体的に以下のような声も聞こえます。

「自分の慣れ親しんだ名前が突然なくなることによる違和感や喪失感を感じる」(Yさん、33歳)
「今までの自分を否定されたような感じがして嫌だ」(Tさん、34歳)
「夫婦は平等のはずなのに、どちらか一方の姓を選択しなければならないのは差別ではないのか?」(Sさん、36歳)
「仕事用の名刺を変えたり、銀行やカード,パスポートなどの氏名変更の手続きなど面倒なことが増える」(Uさん、32歳)

ではなぜ選択的夫婦別姓は認められないのか? 行政書士であり、実際に夫婦別姓でご結婚された行政書士の水口尚亮さんと橘昭子さんご夫妻にお話をお聞きしました。

真っ向で対立している「夫婦別姓」賛成派と反対派

――選択的夫婦別姓容認派が半数以上というデータがあるのに、なぜ認められないのでしょうか?

水口尚亮さん(以下、水口):夫婦別姓を巡っては長い間賛成派と反対派が真っ向で対立しています。「別姓だと夫婦や家族の絆が希薄になる」「子供に影響がある」「別姓だと家系図が崩れる」などなど。賛成派の同様、反対派の意見も様々ですが、お互いがそれぞれ自分の価値観に基づいて主張しているので、そう簡単に交わることは難しいのです。

――先生方が夫婦別姓の結婚生活を選んだのはなぜですか?

橘昭子さん(以下、橘):自分の慣れ親しんだ苗字に愛着があり、「橘」じゃなくなるということに抵抗がありました。私はひとりっ子だったので、その思いも大きかったのかもしれません。両親は水口姓になることに反対はありませんでしたが、私は氏がなくなる寂しさを消せませんでした。

水口:その想いには私も同感でした。だから、自分がイヤなことを相手に強制するのはおかしいなと思い、何か方法はないかと考えました。そこで出した結論が婚姻届を出さずに各自の姓を維持すること。俗にいう「事実婚」という形ですね。

婚姻届を出していないと、法律上の夫婦と100%同じにすることは無理

――婚姻届を出さずとも夫婦になれるのであれば、夫婦別姓を望む人はみんなそうすればいいと思うのですが?

水口:それがそんなに簡単ではないのです。「第739条 婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。」とあるように、婚姻届出が受理されて初めて法的に夫婦として認められます。夫婦や配偶者といった表現もこの法的婚姻を前提にした基礎用語であり、法的婚姻が前提。つまり婚姻届を出していないと法律的には「赤の他人」なので、民法で定められた義務や権利が認められないということになります。

――それは具体的にはどんなことが挙げられますか?

水口:まずは相続問題。相手が亡くなっても自分には相続権がありませんし、厚生年金などで配偶者としての扱いが受けられません。また生命保険でも肉親以外の受け取りを制限している場合、受け取れないこともあります。それに婚姻届を出していないわけですから、相手が勝手に別の人と婚姻届を提出してしまえば、そちらに婚姻関係が成立してしまうし、仮に相手が浮気をしても、法律的には結婚していないので損害賠償を請求できない。法的な問題は数え上げれば切りがありません。

:婚姻届を提出しない夫婦の法的地位はとても不安定なんです。ですから私たちは基本的なルールを決め契約書を作成しました。2人の財産はどうする、子供ができたらどうする、相手が浮気した場合はどうする……など。

幸いなことに私たちは行政書士だったので、仕事を通じて得た知識や経験を生かし、事前に手続きを行うことで起こりえるトラブルを回避しました。また相続に関してはすでに遺言書を書くことで手続きを可能にしてあります。残念ながら法律上の夫婦と100%同じにすることは無理なのですが、こうすることでほぼ同等レベルにできたと思います。

(根本聡子)