本格的なビールシーズン到来目前。だが今年はビールを始めとするアルコール飲料のCMがやけに地味だ。アルコール飲料CMに一体何があったのか? アルコール飲料を媒介に見る現代の男女の関係とは?

    男同士で肩を組もうぜ! 会社組織ラブの男たち

キリン「澄みきり」の豊川悦司とサッカー日本代表の香川真司、サッポロ「麦とホップThe Gold」の浅野忠信と岡田准一など、男性二人組のCMが増加している。会社の上司と部下に設定したキリン「チューハイ ビターズ」の濱田岳と遠藤憲一、アサヒ商品開発部長に扮する唐沢寿明、テレビ局報道ディレクター役の柳葉敏郎によるアサヒ「辛口焼酎ハイボール」など、会社組織、仕事相手を想起しているドラマ『半沢直樹』を彷彿とさせる設定が目立つ。すなわち「酒=仕事の打ち上げ」という図式だ。

全体的に演技に定評のある実力派俳優陣が名を連ねており、お笑い芸人はキリン「ラガービール」の木村祐一とサッポロ「極ZERO」の三村マサカズぐらいだ。庶民的な芸人より、熱い演技論を語りそうな俳優に、サラリーマンたちが自身の理想を見るのだ。仕事の話を肴に上司や同僚と酒を酌み交わす男臭い世界に、お酌する女性は必要ない。今やジョッキ片手に砂浜で寝そべるグラビアアイドルは絶滅も同然だ。

    女は家で一人飲み。 男女の飲みニケーションの断絶?

一方、女性を主役にしたCMは? サントリー「金麦クリアラベル」では、会社の会議室をバーンと飛び出した北川景子が自宅マンションに帰宅し、冷蔵庫にぎっしり詰まった「金麦クリアラベル」をグビグビ。重役会議を飛び出すとは一体何があったのか。ビールのみという冷蔵庫も心配だが、働く女性なら会議室を飛び出したくなるような経験は身に覚えがあるはず。部屋で一人、ノドを鳴らして金麦クリアラベルを飲む姿は爽快だ。

また、一人飲みといえば、「貴方のこと、ずうっと好きで、いますことよ」と和服姿の笛木優子が囁く黄桜「生酛山廃生貯蔵酒」。重ねるナレーションが「ひとり呑みにわけあり、うまさにわけあり」。色々あったんだろうなぁと苦労を偲ばせるワケあり女が一人、しっとりと酒を呑むという古典的なお酒のCMである。

堀北真希、佐藤健、トリンドル玲奈のサントリー「ほろよい」もマンションのベランダでそれぞれ缶を開け、雰囲気だけでみんな繋がっているよというネット社会を象徴するかのようなCMだ。

男たちがつるみまくっている一方で、女性は家で一人飲み。女同士で飲むというシチュエーションは描かれることは少ない。女子会はCMにしにくい世界観なのだろうか。

    ナニコレ? 謎が多い「金麦」と「ふんわり鏡月」

ローソンの新浪会長が社長就任と何かと話題のサントリーだが、6月から放映されている「金麦」の新作「冷えてますの夏篇」もかなりの問題作だ。2013年「夏散歩」篇にてすでに街中を小走りしていた檀れいだが、今年は海まで全力疾走。そして最後に肩甲骨の柔らかさを誇示するかのように「冷えてるって!」と真後ろの看板を指差す。アラフォーとは思えない檀れいの動きのキレが際立ち、無邪気を越えてもはやシュール。小走りから全力疾走ときて、来年の夏は一体どうなってるのか?

そして物議を醸すといえば「ふんわり鏡月」の新作「夏・うなじ篇」。縁側で「ふんわり鏡月」を飲む浴衣姿の石原さとみが「今うなじ見てたでしょ〜」「一杯飲んで落ち着きたまえ」とグラスを差し出すという萌えCMだ。甘いお酒といえば女性がメインターゲットの場合が多いが、このCMは完全に男性向け。甘党男性向けなのだろうか?

W杯イヤーのせいか、半沢直樹ブームの影響か、今年前半はやたら男同士、仕事仲間で盛り上がるCMが増加した。「お酒」は昔から男女の大事なコミュニケーションツールであり、現在は女性が自ら酒を購入する機会もじわじわと増えている。にもかかわらず、アルコール飲料のCMに女性の起用が少ないのは寂しい限り。お酒を片手に、夏本番これから放映されるCMに期待したい。

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(松田美保)