パパはママ?カタツムリは不思議なオネェ生物

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あじさいの花が似合う季節になった。梅雨の風物詩ともいえるカタツムリは雌雄(しゆう)同体で、オス/メス両方を兼ね備えて生きている。童謡の歌詞に登場する謎の槍(やり)も持ち合わせた不思議なオネェ生物なのだ。

■パパはママ?ママは男の子だった?

デンデンムシとも呼ばれるカタツムリは殻を持った軟体動物で、腹足(ふくそく)と呼ばれる部分ではうように歩く。似たような風ぼうのナメクジとは別種の生物で、違いは殻の有無だけではない。子供のころ、殻を取ったらナメクジになるのでは?と思った人が多いと思うが、カタツムリの殻には肺や肝臓があり、大変なことになるので止めておこう。

動物や昆虫にはオス/メスの見分けがつかない種類が多いが、とりわけカタツムリは性別を判断する特徴が見当たらない。それもそのはずで、オスとメスを兼ね備えた雌雄同体だからだ。カタツムリは精子と卵子を持ち、別のカタツムリと精子を与えあって受精する。しかも双方が同時に生殖器を差し込み合う、人間では考えられない愛の営みをおこなうのだ。

ここで一つの疑問がわく。カタツムリは自分だけで受精できるのか?答えはYesだ。これを自家受精と呼び、植物ではソラマメもこの方法だ。自演乙。

それならなぜ別の相手を探すか?これはほかの遺伝情報を取り込み、強い子孫を残すためだ。自家受精は可能だが、ふ化率が大幅にダウンするとのデータがあり、失敗するリスクが高いことを意味する。強くて丈夫な子孫を残すためには、自分の持っていない情報をほかからもらうのが得策なのだ。

性別にまつわる不思議な生き物は、カタツムリに限った話ではない。カラフルなボディと愛嬌(あいきょう)ある顔立ちの魚・クマノミは、なんと性転換するのだ。

クマノミは生まれた時は全員オスで、数匹の群れを作って生活する。やがて適齢期になると、その中の一匹がメスへと変化する。母性が条件かと思ったらその逆で、一番からだが大きいものがメスになるのだ。しかもこのルールは残りのメンバーにも引き継がれ、万が一メスが天敵に襲われると、次にからだが大きいものがメスへと変わる。

魚の父と子のきずなをテーマにした映画があったが、クマノミならタフな父さんはママになってしまうのでキャストがそろわない。いゃーん、どんだけぇ?

■ホルモン剤入りの「恋の矢」

童謡「かたつむり」の歌詞では、飛び出す物が4つある。つの、やり、あたま、めだまだ。

つのは特徴的に飛び出した大触角(だいしょっかく)、めだまは大触角の先端にあるので、これは同じ意味と受け止めて良さそうだ。あたまは文字通りで、殻の中に避難した状態を見て「出て来てね」の意味だろう。問題はやりだ。軟体動物のカタツムリに槍(やり)を連想させるパーツなどない。単なる語呂合わせかもしれないが、そんないい加減では文部省唱歌失格だ。

やりの正体は恋矢(れんし)と呼ばれる全長15mmほどの針のような器官だ。普段は生殖器内に隠し持ち、求愛や交尾の際に相手をつついて刺激する。例えるなら槍を持った女王様同士が突き合うようなものだから、DVすれすれの愛情表現だ。

ボルネオ島では恋矢を持つナメクジが発見され、突く際に相手にホルモンを注入し受精率をアップさせるという。柔軟なからだに槍を忍ばせホルモンまで注射する。鍛冶屋の政も仰天の仕事人ぶりだ。

■まとめ

統計局の昨年のデータをみると2%ほど女性が多い。しかも男性は急速に減少しているので、女性は出会いのチャンスがますます少なくなる。

雌雄同体ならそんな心配も不要だが、自分の知らない神秘がなくなるようで、少々寂しい気がする。

(関口 寿/ガリレオワークス)