私たち女性をよくも悪くも悩ます「結婚」。

そんな「結婚」をテーマに、江戸末期、明治大正、昭和と不思議な縁でつながる3人の女性たちを描いた歴史エンターテインメントが高殿円さんによる小説『政略結婚』(角川書店)です。

「結婚」をテーマに小説を執筆した経緯や3人のヒロインを描くことで伝えたかったことなど、高殿さんに3回にわたって話を聞きました。

【1回目】「誰も耕してない畑を耕してみる」自分の“得意”を仕事にするヒント
【2回目】「これが女子の生きる道」なんてありません

必要なのはインフルエンザの時におかゆを持ってきてくれる人

--『政略結婚』は、江戸末期、明治大正、昭和と不思議な縁でつながる3人の女性たちを描いていますが、この3人のヒロインは血でつながっているわけではないんですよね。

高殿円(以下、高殿):そうなんです。激動の時代を生きる複数のヒロインというと祖母、母、娘の三世代ものというのが定番かもしれませんが、単なる家族の絆の話ににはしたくなかった。日本にはどうしても「家族の絆」賞賛の風潮がありますから。

--って言われるとホッとします。個人的な話なんですが私は母親と仲が悪いので、「母と娘の絆」とか「家族の絆」と言われてしまうと「そんなにいいもんじゃないよ」「げっ、怖い…」って思っちゃうんです。

高殿:もし、自分一人でこの先も生きていくとして、最低限何が必要かなと思ったら「インフルエンザで寝込んだ時にコンビニでおかゆを買ってきてくれる人」。相手が男性でも女性でも、友達でも恋人でも、肩書きや呼び方はどうでもよくて。極論を言えば、好きになってくれなくてもいいんです。ただ、倒れた時に互いをサポートしてくれるつながりがあれば、ずっと楽になるのにって思いませんか?

--本当にそう思います。また自分の話で恐縮ですが、私、大型のシェアハウスに住んでいるんですが、すごく居心地がいいんです。それこそ風邪をひいたときにご飯をつくってくれる人がいるだけですごく助かる。そういう友達でも家族でも恋人でもない、ゆるいつながりっていいなって思います。

高殿:そうなんですよね。「一生支えあえる相手を探さなければ!」「年収は500万ないと!」「バツイチは嫌だ!」なんて条件を唱えている人もいると思いますが、「あなたは本当にそう思っているの?」って聞きたい。「そう思い込まされているだけじゃないの?」って。

いい人が発する“呪い”に注意!

--すごく救われます。前回も“呪い”というお話がありましたが、呪いとか「こうあらねば!」という思い込みって、どう解いていけばいいんでしょうか?

高殿:こういうタイプの呪いって、実のところみんなが作っているものなんじゃないかな、って感じています。「呪い」って言うと、何か「強大な悪」が作っているって思っちゃうんですが、全然そんなことないんですよ。

私も息子がいるんですが、お友達と話しているとき、何の気なしに「将来お嫁さんが来たら?」っていう仮定の話をしちゃうことがあるんです。でも、それって「お嫁さんがくる前提」。息子が自分の好きな人生を歩んでくれれば、それこそ相手が同性でも異性でもいい。

別に結婚してもしなくても、個人の自由のはずなんです。でもふわっと言葉として出てしまう。そういうのが「呪い」ですよね。だから、なるべく私の段階で止めないとなって思います。

--なるほど。

高殿:息子を産んだ直後から、お姑さんから「2人目はいつ?」って聞かれるのがとても辛かったんです。この前も2歳くらいの子どもを指して「あの頃が一番可愛かったでしょ」なんて言われました。そこで、私はやっと「いや、息子はいつでも可愛いです!!」って言えたんですよ。やっと。嫁になって15年も経つのに(笑)

でもね、こういう話をすると「嫌なお姑さんなんだろうな」って思うかもしれないけれど、すごくいいお姑さんなんです。いいお姑さんですら呪いをかけてくるという、そこが「呪い」がなかなか解けない要因なんじゃないかなと思います。

--どういうことですか?

高殿:絶対的な悪だったらいっそ憎めるんだけれど、いい人だからこそ、まさかそれが呪いだとは思わない……

--あ……!

高殿:いい人がかけてくる呪いって「呪い」って思えないんですよ。悪人だったら「これは呪いだ」ってわかるけれど、いい人だからこそ、まさか呪いとは思わないので呪いにかかっちゃう。

例えば、すごく性格いい人で仕事もできる人から「シェアハウスなんて住んでないでそろそろ自立したら?」って言われると「うーん、確かにそうかも」って思っちゃうでしょ?

--思っちゃいます。すぐに荷物をまとめちゃいます。

高殿:でしょ?(笑)そういう呪いに要注意ですよ! 育児だって、私たちの時代と今ではずいぶん違いますよね。私たちの時はスマホなんてなかったけれど、今のお母さんはiPadでアニメを見せていたりする。たった二、三年でここまでかわるんです。

「歴史」とか「伝統」とか簡単にいいますけど、その伝統だってたいして昔のことじゃないですから。

--はっ、確かに。「伝統、伝統」ってあまりにも言うから調べてみたらたった100年の「伝統」しかなかったってこと、ザラにありますね。

--とすれば、小説に話を戻すと「第三章 華族女優」で描かれた、華族の血を引きながらも、昭和恐慌によってすべてを失ってしまうヒロイン・花音子は「伝統」をぶっ壊したわけですよね。結婚もせず子どもも生まないでそれまで連綿と続いてきた由緒正しき「家」の血を絶やしたわけですから。

高殿:花音子はそれまで先祖が必死につないできたのを止めたんです。「血筋を絶やしてもなんの罪にもならない時代がやってきた」「それが何か?」って。その精神でいいんだ、って感じてもらえたらうれしい。

仲良し親子でも親と自分は「違う」存在

--そういえば、花音子はお家の再興を願う母と二人三脚で女優の道を歩むんですが、よく考えれば花音子の母って毒親ですよね。

高殿:一見、「女優になる」っていう目標に向かって手を取り合う、結束力が強い親子ですよね。でも、花音子は女優として、舞台の上で拍手喝采を浴びたいと一途に願っている。一方、母は花音子を売れっ子女優にして、昔住んでいた家を取り戻したい。花音子と母の目指すところはまったく異なるわけです。

最終的に、花音子はたったひとりで舞台の上でどうするかを決める。それは、今まで同じ道を歩んできた二人の行き先が、決定的に分かれた瞬間だった。双子親子だったふたりは、ひとりになる瞬間が舞台の上しかなかったんですよね。そしてその瞬間に花音子は毒親から自由になった。

--なるほど。

高殿:毒親と子どもって、ちゃんとそれぞれに理由があって、うまい具合に一つの人生を分け合ってしまっているんですよ。でも花音子のように経済的に自立すれば、不自然な依存関係からも脱却できるんじゃないか、と思います。

--自分で自分の人生を決めることが大事で、それには経済的な自立が欠かせないということですね。

高殿:たいていの問題はお金があればなんとかなります。もし毒親に悩んでいる人がいたとしたら、まずは経済的に自立して、親と自分は違うと言うことに気づいてほしいですね。あなたは親より少なくとも十数年以上は若い。その十数年は、本来はあなたが一人で受け取るべきギフトなんです。無理に分け与えなくていい。

どんな人も、幸福になるために生きてほしい。たった一冊の本ですけれど、読んだ方のいろいろな問題にひっかかるように作ってあります。もし、なにかがひっかかったら、一人でお茶でものみながら、なにがひっかかったのかゆっくり考える時間をもってみてください。この本が、あなたの人生の肥やし、足しになればいいなあと祈っています。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)