釈由美子が10月13日付けの公式ブログで結婚を発表した。相手は同年代のレストラン経営者だという。このニュース、本人がブログで「芸能界の結婚ラッシュのなか、私も便乗したかのようなまさかのタイミングで今回の発表になってしまうとは思いませんでしたが(汗)」と書いているように、他の結婚ニュースにまぎれてかすんでしまった。

目立たないことはタレントにとってマイナスかもしれない。だが、釈の場合はむしろプラスだったと思う。人気が下火になってきた女性タレントが、主婦タレ・ママタレ転身を狙い虎視眈々としている状況に、世間はいいかげん飽きているからだ。結婚→料理本出版→妊娠・出産→育児本出版→子ども服プロデュース→情報番組で育児を語る……この流れ! 言い換えれば、結婚→商機→妊娠・出産→商機!商機!商機!ということである。どうしたって物欲しそうに見えてしまう。それが釈にはない。あるのかもしれないが、見えない。

これまでは恋愛破局でお騒がせ

実は、釈の過去はとても物欲しそうに見えていた。グラビアアイドルとして売っていた20代のころは、「小さいおじさんを見た」という不思議ちゃん発言を連発。「こりん星」発言の小倉優子しかり、不思議発言で盛り上がるのは、世間の空気が読めないテレビ番組と芸能レポーターだけで、ふつうの視聴者は「名前を売るのはたいへんですね」としか思えない。

不思議ちゃんキャラが飽きられてくると、今度は恋愛報道でよく名前が上がるようになった。GACKT、芸能プロ社長、ブライダル関連企業社長、イケメン獣医……ほかにもいろいろとあるらしい。獣医とは式場まで予約していたが、直前に婚約解消したことが報じられた。本業ではなく恋愛報道ばかりで話題になるタレントは、批判の対象になりやすい。たとえば藤原紀香。独身時代から陣内智則と離婚後も、証券アナリストにテレビプロデューサー、そして片岡愛之助。騒がれるたびに「代表作はレオパレス」と嘲笑される。

あやうく「破局キャラ」「代表作は釈お酌」となりかけた釈由美子を救ったのは、山である。「実践!にっぽん百名山」(NHK BS1)のMCを務め始めたことがきっかけで、2013年8月にプライベートでも登山を始めた。これまた、番組がきっかけというだけで登り出したら、「山ガールブームに乗っかったんでしょ」と物欲しそうに見えてしまうのだが、釈は山に登らなければならない特別な理由があった。登山は父親の趣味であり、やがて父娘をつなぐ絆となったからだ。その父は、今年1月、66歳で他界した。

山が“人間・釈由美子”をあらわにした

釈は公式ブログで、父親と確執があったことを繰り返し綴っている。「あんなに昔からケンカが絶えなかった、父」(2013年10月12日)、「もともと、犬猿の仲で顔を合わせると、罵りあっていた親子」(2013年12月18日)、「あんなに怖くて、仲が悪かった父親とこんな時間が持ててるなんて今でも不思議ですよね」(2014年1月18日)、「あんなに仲が悪かった親子が山を通じて、心を通わせられるようになりました」(2014年9月26日)。ここまで繰り返すからには、単なる親子ケンカを超えて本当に仲が悪かったのだろう。8月11日放送の「徹子の部屋」(テレビ朝日系)にゲスト出演した際も、芸能界入りを反対されたこと、父の実家が抱えた多額の負債を釈が負担したことを告白していた。

父親の死後、がん宣告から亡くなるまでを振り返ったブログ(2015年1月17日)は涙なくしては読めない。釈由美子にとって登山は、趣味の範疇を超えている。もはや「釈由美子の代表作は、山」といっても過言ではない。山をもって恋愛お騒がせ芸能人から脱し、山をもって人間・釈由美子があらわになった。釈由美子はサイボーグではないのだ!

若いというだけでチヤホヤされていた20代を過ぎ、30代に入ると、女性タレントはキャラ探しの旅に出る。篠原ともえは最近は宙ガールの先駆者として活躍中。小倉優子は群を抜いた料理の腕でレシピ本を出版。小阪由佳は保育事業に進出。不思議な言動で名前を売って、30代になったら趣味・実業売り、というのもひとつの手。独り身やさぐれキャラに行くかに見えた眞鍋かをりは、吉井和哉とのデキ婚で、ママタレ転身を図っているようだが、飽和状態のママタレ業界では“ただ出産しただけ”では埋もれてしまう。どうするつもりだろうか。

これは芸能人に限った話ではない。ブームに乗っかったり、恋愛・結婚・出産に一発逆転を求めたりしても、結局救われない。自分にとっての“山”はなんだろう。そんなことを考えさせられる。
(亀井百合子)