「今ならLINEでこっそり連絡するのでしょうけれど、当時の携帯電話は通話ができるのみ。先生は私が寝ているすきに、帰りが遅くなると奥さんに連絡していたみたいです。夕飯に何か買って帰ろうか? なんて優しいトーンで話していて、ベッドでひっそり涙を流したことを覚えています」

先生と一緒にいるときは好きな人と過ごす幸せに満たされるものの、一人になると、妻との関係が良好なのになぜ私と不倫しているのか、送り届ける順番が違ったらほかの女子生徒と付き合っていたのではないかといった思いが巡り、気分が落ち込む日々。

友人たちと恋愛トークで盛り上がっているときも、自校の先生と不倫中とは言えず、相談はおろか、恋バナすらできずに一人で抱え込んでいたと言います。

◆友達と恋バナもできず……感情が不安定に

「友達と、彼氏とこんなことがあってとか、こういう時どうしてる? みたいな話もできないし、学校で先生がほかの女子生徒と楽しそうに話していても感情を抑えないといけない。夜は今ごろ奥さんとどう過ごしているんだろうなんて考えたりもしちゃって、一緒にいるとき以外はつらいことしかありませんでした」と加奈子さん。

そのうち先生と一緒にいても、家庭での様子を執拗に聞き出そうとしたり、学校でのつらさを先生に泣きながらぶつけたりと、感情のコントロールができなくなっていったとのこと。

耐え切れずに何度か別れ話を切り出したそうですが、結局は互いに好きな気持ちに嘘をつけず、不倫関係を続けたまま高校の卒業を迎えます。

◆「大人の魅力」は勘違いだったと気づいた

高校卒業後、加奈子さんは希望通り都内の大学に進学。しばらくは遠距離恋愛をしていたそうですが、大学でさまざまな男性と知り合う中で、先生への想いは急速に薄れていったとのこと。

「恋愛経験も少ない田舎の高校生だった当時の私には、先生がすごく大人の男性に見えたのですが、都会に出て、勘違いだったことに気付いたって感じです(笑)。先生とは、最後に電話で別れ話をしてそれっきり」

「ただ、今になって振り返ると、背伸びした恋愛に酔いしれていただけで、不倫の罪悪感もなく、自分のことばかり考えていたと恥ずかしく思います。

若気の至りという言葉で片づけるには奥様に申し訳が立たな過ぎて、どうかバレていませんように、先生と奥様が幸せに暮らしていますようにと、ただただ願うばかりです」

大人になり、結婚して妻となった今、当時は気付けなかった不倫の重みに懺悔するとともに、夫が若い女性になびかないよう、目を光らせているそうです。

<文/はつ>

【はつ】
各々が遭遇した小説より奇なる日常にスポットをあてるフリーライター。趣味は心理学的観点からの人間観察と全国の赤提灯巡り