現代劇の女方・篠井英介、『天守物語』は「泉鏡花独特の日本語の美しさを感じられる作品」
女方、と言っても歌舞伎の世界の話ではなく、自ら“現代劇の女方”を標榜し活動する篠井英介さん。出演する舞台『天守物語』について話していただきました。
富姫のそのカッコよさを多くの方に観ていただけたら。
「現代演劇の中で女性役をやっていこうと思っても、素晴らしい女優さんが大勢いる中ではなかなか役が回ってきませんので、つねに自分から『こういう女方がいますよ』とプレゼンテーションしていかないといけないんです。正直、この歳になってくるとやっぱりしんどいところもありますが、若く新しい才能を持った方が熱心に泉鏡花作品に取り組んでいらっしゃるのを見ていたら、僕も一緒にやりたいって気持ちがムラムラと湧いてしまったんです」
その“若く新しい才能”とは、老舗の劇団新派に所属しながらPRAYという劇団を主宰する桂佑輔さん。PRAYの泉鏡花作品に感激した篠井さんが桂さんに声をかけ、このたび泉鏡花の傑作といわれる『天守物語』の上演が決まった。
「僕が拝見したのは2作品でしたが、小劇場の限られた空間で、とても現代的に鏡花作品をやっているんです。それでいて、世界観を壊すことなく、斬新なのにとても品がいいと思ったんですね。鏡花や日本の古典に敬意を払ったうえで新しいものを作ろうとされている姿勢にとても共鳴して。以前に演じたことがある『天守物語』ならば、桂くんと一緒に新しいものを作れるかなと思いました」
本作は、異界の主・富姫と人間の鷹匠・図書之助(ずしょのすけ)が恋に落ちる物語。
「妖怪と人間のラブロマンスの中に社会風刺的な視線があるんですよね。そして、日本人の持っている精神性…正義とか清らかさといったものが貫かれていて、出てくる女性がみな一本気でカッコいい。そのカッコよさを多くの方に観ていただきたいという思いがすごくあります。そして何より、鏡花独特の日本語の美しさを感じられる作品なんです。その言葉が言語化されて俳優の体を通して聞こえてくると、また違った趣や味わいがあるんです」
日本の伝統的な笛や鼓などの生演奏もありながら、ヒップホップやEDMなども取り入れられるそう。
「ただ、アングラだったりアバンギャルドな方向にいきすぎないように。カッコよくて品がいい美しいものにしたいよねと話しています」
演劇においてリアルは大事な要素だ。しかしこれまでも、ジェンダーを超えて篠井さんが演じることで、女性が背負う業や悲しみがより際立って見える作品がいくつもあった。
「男が演じることで、女性への先入観のようなものが削ぎ落とされて、役に普遍性が生まれるのかもしれません。それでより役の生き様が浮き彫りになるのであれば嬉しいです」
PRAY vol.4×篠井英介 超攻撃型“新派劇”『天守物語』 藩主の鷹を逃がしてしまった鷹匠の図書之助(安里)は、切腹の代わりに鷹を追って白鷺城に向かうよう命令される。最上階まで来た彼の前に異界の主・富姫(篠井)が現れ…。8月22日(木)〜27日(火) 池袋・東京芸術劇場 シアターウエスト 作/泉鏡花 構成・演出/桂佑輔(PRAY/劇団新派) 出演/篠井英介、安里勇哉、林佑樹、木許恵介、マメ山田、石原舞子、喜多村次郎、長谷川稀世ほか 前売り・当日6500円 25歳以下3500円 pray.theatrecompany@gmail.com
ささい・えいすけ 1958年12月15日生まれ、石川県出身。最近の主な出演作に、舞台『インヘリタンス―継承―』、映画『レディ加賀』などがある。
※『anan』2024年8月14日‐21日合併号より。写真・内山めぐみ インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)