――あらいさん自身も、そういうことがあったのでしょうか。

あらい:治療に来ているはずなのに、お医者さんが求めていそうな返答をしてしまったり、話したいことがあったはずなのに、いつもの癖で「大丈夫っす!」と元気なふりをしてしまったり……。病院に行くときは気合が入っているので、つい大丈夫だと思ってしまうんですよね。

患者側としては、ハナみたいに最初から心を裸にしてカウンセリングを受けられたらいいなと思います。そこに少し付け足すとしたら、話したくても体が固まったり涙が溢れたりで声を出せなくなることがあるので、話したいことをメモしておいたり、先生に手紙を書いていって「これだけ読んでください」と渡してもいいと思います。

また、希望の治療法があれば積極的に伝えることが大切です。自分の体・心に合うものを探す旅のような気持ちでいられればベストですね。

◆「ハナ頑張ってるやん!」

――特に共感した場面はありましたか?

あらい:ハナが「解離性フラッシュバック(※)はおさまってきたけど、今度は人との関係について考え込むようになった」と話す場面で、「私もこういうことあったわ〜!」と思いました。「フラッシュバックが減った」という良いところに目を向ければいいのに、なぜか当事者は悪いところに目を向けてしまいがちなんですよね。

もっと、ハナを褒めるように自分を褒めていいんです。「フラッシュバック減ってるやん! ハナ頑張ってるやん! 私も頑張ってるやん!」と(笑)。

また、治療を受けることで今まで気づいていなかった問題が出てきて、苦しくなってしまうところも共感しました。私自身、過敏になっていたことがおさまってくることによって、新たな問題が顔を出すことがありました。

何十年も抑え続けてきたものだから、ゆっくり時間をかけてほぐしていくんだよ、そうすればきっと自分を信じられるようになっていくし、生きるための力を取り戻すことができるようになるよ、同じように感じて苦しんでいる人にそう伝えたいです。

※解離性フラッシュバック…過去に受けたトラウマ体験をあたかも今その瞬間体験しているかのように感じること。トラウマ体験そのものを忘れていたとしても起こりうる

◆治療をとおして「私って結構いいヤツだったんだ」と思えるように

――あらいさんは、治療を受けたことで変化はありましたか?

あらい:なんというか、落ち着いていられるようになりました。今まではいろいろなことにとにかく過敏で、すぐに不安になって、どうでも良いことで泣いたり怒ったり、忙しかったです。その上で育児や仕事をしていたので無意識に頑張り過ぎて、いつもヘトヘトでした。

でも治療を受けたことで、「生まれつきの性格なんだ」「発達障害の特性があるのかな」と思っていたことが、トラウマによる症状だと分かったことがたくさんあって。症状を治療していくことで、感情の起伏や見返りを求めてしまう癖がやはり「症状」だとわかったり、少しずつおさまっていったりして、「私って、結構いいヤツだったんだな」と思えるようになりました(笑)。

――治療を受けるまで、当事者が症状だと自覚できないこともあるんですね。

あらい:私の場合は、慢性的な鬱の症状があることも分かりました。自分では「私が鬱なんて、まさか!」と思ったのですが、投薬を受けたら回復したんです。体調や寝つきが悪いことや、いつもなぜかしんどいと確かに感じてはいましたが、「そういうものだ」と思って生きてきたので……。それらが解消されるとは夢にも思っていませんでした。「症状」と知り生きるのがめちゃくちゃラクになりましたわ。

◆諦めることと、受け入れることは全然違う