男と女は全く別の生き物だ。それゆえに、スレ違いは生まれるもの。

出会い、デート、交際、そして夫婦に至るまで…この世に男と女がいる限り、スレ違いはいつだって起こりうるのだ。

-果たして、あの時どうすればよかったのだろうか?

できなかった答えあわせを、今ここで。

今週のテーマは「食事会からデートには落とし込めたのに、その先が進まない理由は?」という質問。さて、その答えとは?

▶【Q】はこちら:年収も店選びも完璧な広告代理店マン。しかし、2回目のデートがない意外なワケ




丸の内仲通りのイルミネーションは、来週から始まるらしい。通りに面した木々には既にライトが巻き付けられており、いつでも美しい光を灯す準備ができている。

そんな様子を見ると、2023年も終わりに近づいていることを嫌でも意識せざるを得なくて、少し焦り始めた。

― クリスマスまでに彼氏を作りたかったのにな…。

そう思いながら、隣にいる翔也を見つめなおしてみる。そして私は、首を横に振った。

― 違う、彼じゃない。

どんなに焦っていても、彼とは付き合うことはないだろう。むしろ今日のデートも、かなり時間の無駄になってしまった。

― 私、焦ってるなぁ…。

そんな自分を省みながら、寒くなってきた丸の内を後にした。


A1:代理店特有の食事会ノリに惑わされた。


2つ年上で31歳の翔也と出会ったのは、男女3対3の食事会だった。私たち女性陣はバラバラだったけど、翔也たちは同じ会社で、大手広告代理店勤務の三人組だった。

三人とも仕事ができそうなオーラはあったけれど、その中でも、翔也は先輩から褒められていた。

「翔也はすごく仕事ができるんだよ〜」

一番年上の先輩っぽい人が言っていたので、間違いはないのだろう。

「そうなんですか?すごいですね」
「いや、全然。大したことないですよ」

でも、当の本人はとても謙虚で、その感じがいいなと私は思った。

食事会は盛り上がり、私たちは2軒目にも行くことになった。しかし、2軒目で代理店マンの真髄を目の当たりにした。

「翔也、なんか歌えば?」

そう先輩から促された翔也は、おもむろにデンモクをとり、マイクを握った。そして飲み会で盛り上がる鉄板の曲をかなりノリノリで歌い始めた。

相当、歌い慣れているのだろう。男性陣のチームワークも抜群で、翔也が歌っている間に他の二人は完璧な合いの手を入れている。

あまりの完成度の高さに、思わず笑ってしまった。こんな宴会芸、久しぶりに見た。




「翔也さんって、面白い人なんですね」
「いやいや、歌わされ慣れてるので」
「そんな感じがしました(笑)」

― この人、面白いなぁ。

その後も、この会は楽しくて、みんなでグループLINEを作成してから解散となった。

すると翌日、翔也から個別でデートのお誘いが来た。クリスマスまでには、彼氏が欲しいと思っていた私の答えは、YESだった。



そして翔也との初デートは、丸の内勤務の私に合わせてくれたのか、『マルゴ 丸の内』となった。




テラス席もあって気持ちが良いのだけれど、この日は少し肌寒く、店内で飲むことになった私たち。

しかもこのお店を選んでくれた理由は、前回私が言ったことを翔也が覚えてくれていたからだった。

「明日香ちゃんって、ワインが好きって言っていたよね?」
「大好き!覚えていてくれたの?」

これはかなり嬉しい。翔也のこういう気遣いがいいなと思った。

「この前そんなことを言っていたなと思って、この店にしたんだ」
「嬉しい!ありがとう」

ここでこの話が終われば良かったと思う。でも翔也は一言何か言いたかったようで、若干のドヤ顔をしてきた。


A2:シンプルにつまらない。会話が続かない…


「女性って、話していたこと覚えていてもらえると嬉しいって聞いたことがあって」

― それはそうなんだけど…。

わざわざこれを言う必要はあっただろうか。曖昧に笑顔を返しながら、私たちはワイングラスに手を伸ばす。

そしてここからが、試練のデートの始まりだった。




「翔也くんって、普段はどういう所で食事をしているの?」
「昼は社食が意外に多いかも。夜は、何もないときは適当に食べて帰るかな」

最初は、気がつかなかった。でも会話を進めていくうちに、私は気がついてしまった。

「そうなんだ。お家、どの辺りだっけ?」
「僕は十番だよ」

― あれ…??

デート相手の女性が家の場所や夜ご飯のことを聞いたならば、普通は「明日香ちゃんは?どこに住んでいるの?」とか聞くと思う。

でも、翔也は私に興味がないのか、会話が全部「。」で終わる。何度こちらから質問しても、翔也からボールが返ってこない。私もボールを投げてばかりで、次第に疲れてくる。

「十番だと美味しいご飯屋さんも飲むところもたくさんあっていいね!」

これに対しても、完全スルーだ。

女性側から誘いの口実になるボールを投げているのに、「美味しいお店があるから、今度行こうよ」とかは言えないのだろうか?

しかも、珍しく質問形式で来たと思ったら、どこか論点がズレている。

「明日香ちゃん、酔っ払ってきた?」
「え?まだ全然大丈夫だよ」
「本当?それならいいんだけど」

私は、会話の合間に訪れる沈黙タイムが、耐えられなくなってきた。

「明日香ちゃん、飲むペース速いんだね」

― いや、話がつまらないから飲むしかないんだって…。

女性が、初デートでたくさん飲むのは、すごく楽しいときか、もしくは逆につまらなさ過ぎるときだ。




「そうかな。翔也くんはお酒強いの?」
「普通、かな」
「それって意外に強いってことだよね(笑)」

せっかくの楽しい週末の夜のはずなのに、驚くほど会話が弾まなくて、次第に疲れてきた。

どうにかして盛り上げようとしてみるけれど、頑張っても無駄骨だった。

「翔也くんって、先輩達といる時と雰囲気違うね」
「そう?って、あんな毎回バカみたいに一生懸命歌を歌ったりしないよ(笑)」
「まぁ二人きりの時にあのテンションで歌われても困っちゃうけど」

しかし、振り返ってみて、気がついた。大人数でいる時も、翔也は、たいして面白くはなかった。歌芸も、一生懸命笑ってみたけどよくよく考えると微妙だ。

「それにしても、すっかり冬めいてきたね〜」

あまりにも話すことがなさすぎて、天気の話などしてしまう。

「本当だね…」
「私、夏が好きで。寒いの苦手なんだよね。翔也くんは?」
「僕は逆に冬が好きかな」
「真逆だ〜」
「……」

絶望的だった。こんなにも「早く帰りたい」と思うデートはいつ以来だろう。

お店が素敵だったことが唯一の救いだったけれど、お会計の時間になったとき、ほっとした。

外へ出てると、もうイルミネーションの準備が始まっている。それを見た途端に、なぜか泣きそうになってしまった。

好きでもない人に対し愛想よくし、一生懸命盛り上げ、相手が気分よく過ごせるように気ばかり使っている私。

― 私、何をしているんだろう…。

「この後どうする?よければもう1軒行かない?銀座になるんだけどいいバーがあって」
「ごめん、行きたいんだけど少し酔っ払っちゃったみたいで…また今度でいい?」
「もちろん。ってか、大丈夫?」
「うん、全然大丈夫。ごめんね、今日は先に帰るね」

― 2軒目なんか、行くわけないのに。

すっかり冬の気配を感じ始めた東京のビル風が、私の体に冷たく吹き付ける。なんとも言い難い虚しさを抱えながら私は家へ帰った。

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▶1話目はこちら:「この男、セコすぎ…!」デートの最後に男が破ってしまった、禁断の掟

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