「見たくないものを見せないで」が「可愛い」に…身長115cmの軟骨無形成症モデルがSNSで実感した“障害者を見る視点の変化”
軟骨無形成症による小さな体を活かしてモデル、俳優として活動する後藤仁美さん。東京2020パラリンピック閉会式では特技であるドラム演奏を披露した。「身長115cmのこびとあるある」などの日常や大好きなファッションを発信するTikTokやInstagramには「妖精さんみたいで可愛い」といったポジティブなコメントが並ぶが、発信を始めたばかりの頃は「見たくないものを見せないで」といった心ない声も少なからずあったという。後藤さんが語る「多様な人々を見慣れる」ことの大切さとは。
【画像】後藤仁美さん「“みんなと違う”ことに気付いていた」幼少期から、俳優・モデルとして活動する現在まで
■「みんなとは違うけど、私には私なりの可愛さがあるはずだ」
学生時代にブログやSNSを始めた後藤仁美さん。というのも、当時は軟骨無形成症当事者の情報発信が見当たらなかったからだという。その内容は明るくポップ。日々を楽しむポジティブなキャラクターとピンクヘアを生かしたカラフルなコーディネートで多くの視聴者の心を掴んでいる。
「最近は、この特徴的な体型を活かしたキャラクターのコスプレをすることも楽しみのひとつです。軟骨無形成症は背が低いだけでなく、手足が極端に短い、お尻が突き出ているといった体型の特徴があるんですが、この体型だからこそ似合うキャラクターを見つけて、夫が衣装を作ってくれます。
たとえば、『ハクション大魔王』のアクビちゃん、『ブラック・ジャック』のピノコとか。
撮影した写真をSNSに載せて、この体にもいろいろな可能性があると発信しています」
子どもの頃からオシャレが大好き。既製服はそのままでは着れないが、“自分にしかできない着こなし”を工夫しながら楽しんできた。
「物心付いた頃には自分が“みんなと違う”ことに気付いていました。そんな私を家族や友だちは『小さくて可愛い』と言ってくれていました。そうした環境もあってか、『みんなとは違うけど、私には私なりの可愛さがあるはずだ』という妙な自信みたいなものがずっとあったんです」
もちろん生活で不便なことはある。
「お洋服は基本的に直さないと着れません。サイズ違いのものをいくつか試着してどう直すか考えて買っています。電車の中で押し潰されたり、人混みでは周りが見えなかったり。脚が短いので、階段は腿上げです。椅子にはよじ登って、足が床に付かない状態で座っていることがほとんどです。お腹に力を入れているので、自然と腹筋がつきました(笑)。
ATMは液晶画面が見えなくて届かないので使えないんですよね。身長が115cmなので、お店のレジカウンターが頭上なところもあります。そういうところでは、支払いや品物の受け取りが難しいですが、店員さんがカウンターから出てトレイや品物を持って来てくれたりするとうれしいですし、ありがたい気持ちです。
あと、棚の上のほうにあるものが届かないので、周りの人や店員さんにお願いして取ってもらうこともあります。そもそも見えないと何があるかわからないので、お願いして取ってもらうことも難しいときもあります。決してやってもらって当然というわけではなくて、こちらから声を掛けてお願いして、やってもらえるとすごくありがたいです」
■「この小さな体は私の強みなんだ」気づかせてくれたさまざまな出会い
興味を持ったことに臆せず挑戦し、モデル、俳優、ドラマーと次々と夢を実現していっている後藤さん。しかしこれまでに諦めた夢もなかったわけではない。
「子どもの頃から『軟骨無形成症の人のための洋服ブランドを作りたい』と考えていました。その夢の実現に向けて高校卒業後は服飾大学に。ところが手が小さくて大きな布やハサミを扱うのが難しいなど、思うように作業ができないことを痛感し、2年で中退しました」
その後はファッションと同じくらい好きだったという絵を学ぶために専門学校へ入学。卒業後はチラシやポスターなどのデザインの仕事と並行し、イラスト作品の制作にも勤しんだ。そうした表現活動は、次なる表現の場にも繋がっていった。
「大学は辞めましたが、ファッションへの興味がなくなったわけではなく、恩師が代表を務めるユニバーサルファッション協会に所属していました。ユニバーサルファッション協会とは、年齢、体型、障害、性別、国籍などに関わらず誰もが豊かなファッションを楽しめる社会を創ることを目指す団体です。その団体で知り合ったファッションデザイナーさんが私のイラストの個展に足を運んでくださり、モデルに誘ってくださったんです」
モデルとしての初めての仕事は東京コレクションという大舞台だったが、不思議と緊張はなかったという。
「子どもの頃から歌ったり踊ったりするのが好きで、ドラムも練習より、ライブやお客さんがいる本番が好きでした。芸能人になることに憧れたこともありましたね。だけどテレビに出ているのは身長がスッとしていて、手足が長い方ばかり。みんなと違う私はきっと受け入れてもらえないだろうなと、どこかで自分の気持ちを抑えていたんです。それが東京コレクションや他のモデルの仕事を通じて、『やっぱり私は人前で表現するのが好き』ということを改めて実感しました」
生き生きとファッションを楽しむ後藤さんの姿は多くの人を惹きつけ、やがて“小さな体の表現者”を求める映画や舞台などへのキャスティングが相次いでいく。
「監督さんや演出家さんには『君みたいな俳優を探してた』と言われることも多いです。子どもの頃は“みんなと違う”から表舞台に出るのは無理だろうなと思っていましたが、むしろ逆で“みんなと違う”ことが武器になるのがエンタテインメントの世界。もともと自分の体型にコンプレックスがあったわけではないんですが、さらに『この小さな体は私の強みなんだ』ということをたくさんの素敵な出会いを通して気付かせていただきました」
■「恐れずに多様な俳優を起用してほしい」エンターテイメント業界への切実な想い
80年代初頭、視聴率50%を記録したこともある大人気番組『8時だヨ!全員集合!』(TBS系)にミゼットプロレスの人気選手たちがレギュラー出演していた時期があった。ところが「かわいそうな人を見せ物にするな」という視聴者からのクレームで降板に。それから時代が流れた現在も、障害をテーマにした番組以外で軟骨無形成症の人をテレビで見ることはほぼない。
「その番組を実際に見たことはありませんが、当時の視聴者の方の気持ちもわからなくはない気もします。小さい人を初めて見て驚いてしまった方も多かったんじゃないかなって。私のSNSにも始めた当初は『なんで小さいの?』『CGなのかな?』といったコメントがたくさんありました」
中学の頃には幼い子どもから街で「なんで小さいのに制服を着てるの?」と言われたこともあったという。
「子どもって素直ですから、思ったことをそのまま口にしてしまいますよね。SNSのコメントも似た感じだと思う。だけど続けていくうちに、コメントも『新しいコーデが見たい』とか『ピンクヘア可愛いですね』というふうにどんどんポジティブな内容に変わっていったんです」
なぜ変わったのか? 後藤さんは「きっと見慣れたんだと思う」とさらりと言う。その上で「恐れずに多様な俳優を起用してもらえたら」とエンタメ界にメッセージする。
「最初は批判もあるかもしれません。ただ私の友人にも学校の先生や会社員の軟骨無形成症の人がたくさんいますし、社会にはいろんな体の人がごく当たり前に存在しています。いろんな体の俳優が"障害枠"ではない1人のエンタテイナーとして起用されることが増えれば、おこがましいですけど、もっとリアルな社会が描けるんじゃないかなと思います。たとえば、日常生活の一場面で主人公の友だちや同僚として登場してみたいです」
海外では軟骨無形成症の俳優が数多く活躍している。アカデミー賞をはじめ“障害枠”とは関係のない評価を得ている俳優も少なくない。
「中でもすごいなと思うのはピーター・ディンクレイジさん。体が小さいことより何より、お芝居に惹きつけられます。私も“日本の小さい俳優といえば後藤仁美”と言われるくらい、演技で認められる存在になりたい。軟骨無形成症の人たちの希望になるのが私の人生の目標です」
(取材・文/児玉澄子)
■「みんなとは違うけど、私には私なりの可愛さがあるはずだ」
学生時代にブログやSNSを始めた後藤仁美さん。というのも、当時は軟骨無形成症当事者の情報発信が見当たらなかったからだという。その内容は明るくポップ。日々を楽しむポジティブなキャラクターとピンクヘアを生かしたカラフルなコーディネートで多くの視聴者の心を掴んでいる。
「最近は、この特徴的な体型を活かしたキャラクターのコスプレをすることも楽しみのひとつです。軟骨無形成症は背が低いだけでなく、手足が極端に短い、お尻が突き出ているといった体型の特徴があるんですが、この体型だからこそ似合うキャラクターを見つけて、夫が衣装を作ってくれます。
たとえば、『ハクション大魔王』のアクビちゃん、『ブラック・ジャック』のピノコとか。
撮影した写真をSNSに載せて、この体にもいろいろな可能性があると発信しています」
子どもの頃からオシャレが大好き。既製服はそのままでは着れないが、“自分にしかできない着こなし”を工夫しながら楽しんできた。
「物心付いた頃には自分が“みんなと違う”ことに気付いていました。そんな私を家族や友だちは『小さくて可愛い』と言ってくれていました。そうした環境もあってか、『みんなとは違うけど、私には私なりの可愛さがあるはずだ』という妙な自信みたいなものがずっとあったんです」
もちろん生活で不便なことはある。
「お洋服は基本的に直さないと着れません。サイズ違いのものをいくつか試着してどう直すか考えて買っています。電車の中で押し潰されたり、人混みでは周りが見えなかったり。脚が短いので、階段は腿上げです。椅子にはよじ登って、足が床に付かない状態で座っていることがほとんどです。お腹に力を入れているので、自然と腹筋がつきました(笑)。
ATMは液晶画面が見えなくて届かないので使えないんですよね。身長が115cmなので、お店のレジカウンターが頭上なところもあります。そういうところでは、支払いや品物の受け取りが難しいですが、店員さんがカウンターから出てトレイや品物を持って来てくれたりするとうれしいですし、ありがたい気持ちです。
あと、棚の上のほうにあるものが届かないので、周りの人や店員さんにお願いして取ってもらうこともあります。そもそも見えないと何があるかわからないので、お願いして取ってもらうことも難しいときもあります。決してやってもらって当然というわけではなくて、こちらから声を掛けてお願いして、やってもらえるとすごくありがたいです」
■「この小さな体は私の強みなんだ」気づかせてくれたさまざまな出会い
興味を持ったことに臆せず挑戦し、モデル、俳優、ドラマーと次々と夢を実現していっている後藤さん。しかしこれまでに諦めた夢もなかったわけではない。
「子どもの頃から『軟骨無形成症の人のための洋服ブランドを作りたい』と考えていました。その夢の実現に向けて高校卒業後は服飾大学に。ところが手が小さくて大きな布やハサミを扱うのが難しいなど、思うように作業ができないことを痛感し、2年で中退しました」
その後はファッションと同じくらい好きだったという絵を学ぶために専門学校へ入学。卒業後はチラシやポスターなどのデザインの仕事と並行し、イラスト作品の制作にも勤しんだ。そうした表現活動は、次なる表現の場にも繋がっていった。
「大学は辞めましたが、ファッションへの興味がなくなったわけではなく、恩師が代表を務めるユニバーサルファッション協会に所属していました。ユニバーサルファッション協会とは、年齢、体型、障害、性別、国籍などに関わらず誰もが豊かなファッションを楽しめる社会を創ることを目指す団体です。その団体で知り合ったファッションデザイナーさんが私のイラストの個展に足を運んでくださり、モデルに誘ってくださったんです」
モデルとしての初めての仕事は東京コレクションという大舞台だったが、不思議と緊張はなかったという。
「子どもの頃から歌ったり踊ったりするのが好きで、ドラムも練習より、ライブやお客さんがいる本番が好きでした。芸能人になることに憧れたこともありましたね。だけどテレビに出ているのは身長がスッとしていて、手足が長い方ばかり。みんなと違う私はきっと受け入れてもらえないだろうなと、どこかで自分の気持ちを抑えていたんです。それが東京コレクションや他のモデルの仕事を通じて、『やっぱり私は人前で表現するのが好き』ということを改めて実感しました」
生き生きとファッションを楽しむ後藤さんの姿は多くの人を惹きつけ、やがて“小さな体の表現者”を求める映画や舞台などへのキャスティングが相次いでいく。
「監督さんや演出家さんには『君みたいな俳優を探してた』と言われることも多いです。子どもの頃は“みんなと違う”から表舞台に出るのは無理だろうなと思っていましたが、むしろ逆で“みんなと違う”ことが武器になるのがエンタテインメントの世界。もともと自分の体型にコンプレックスがあったわけではないんですが、さらに『この小さな体は私の強みなんだ』ということをたくさんの素敵な出会いを通して気付かせていただきました」
■「恐れずに多様な俳優を起用してほしい」エンターテイメント業界への切実な想い
80年代初頭、視聴率50%を記録したこともある大人気番組『8時だヨ!全員集合!』(TBS系)にミゼットプロレスの人気選手たちがレギュラー出演していた時期があった。ところが「かわいそうな人を見せ物にするな」という視聴者からのクレームで降板に。それから時代が流れた現在も、障害をテーマにした番組以外で軟骨無形成症の人をテレビで見ることはほぼない。
「その番組を実際に見たことはありませんが、当時の視聴者の方の気持ちもわからなくはない気もします。小さい人を初めて見て驚いてしまった方も多かったんじゃないかなって。私のSNSにも始めた当初は『なんで小さいの?』『CGなのかな?』といったコメントがたくさんありました」
中学の頃には幼い子どもから街で「なんで小さいのに制服を着てるの?」と言われたこともあったという。
「子どもって素直ですから、思ったことをそのまま口にしてしまいますよね。SNSのコメントも似た感じだと思う。だけど続けていくうちに、コメントも『新しいコーデが見たい』とか『ピンクヘア可愛いですね』というふうにどんどんポジティブな内容に変わっていったんです」
なぜ変わったのか? 後藤さんは「きっと見慣れたんだと思う」とさらりと言う。その上で「恐れずに多様な俳優を起用してもらえたら」とエンタメ界にメッセージする。
「最初は批判もあるかもしれません。ただ私の友人にも学校の先生や会社員の軟骨無形成症の人がたくさんいますし、社会にはいろんな体の人がごく当たり前に存在しています。いろんな体の俳優が"障害枠"ではない1人のエンタテイナーとして起用されることが増えれば、おこがましいですけど、もっとリアルな社会が描けるんじゃないかなと思います。たとえば、日常生活の一場面で主人公の友だちや同僚として登場してみたいです」
海外では軟骨無形成症の俳優が数多く活躍している。アカデミー賞をはじめ“障害枠”とは関係のない評価を得ている俳優も少なくない。
「中でもすごいなと思うのはピーター・ディンクレイジさん。体が小さいことより何より、お芝居に惹きつけられます。私も“日本の小さい俳優といえば後藤仁美”と言われるくらい、演技で認められる存在になりたい。軟骨無形成症の人たちの希望になるのが私の人生の目標です」
(取材・文/児玉澄子)