恋人や結婚相手を探す手段として浸透した「マッチングアプリ」。

接点のない人とオンラインで簡単につながることができる。

そう、出会うまでは早い。だけど…その先の恋愛までもが簡単になったわけじゃない。

理想と現実のギャップに苦しんだり、気になった相手に好かれなかったり――。

私の、僕の、どこがダメだったのだろうか?その答えを探しにいこう。

▶前回:色白でグラマラスな人気会員に「会いたい」と言われたが…。“ある部分”に自信がなくて悩む32歳男




Episode05【Q】:高松早苗、33歳。
婚活をいったん忘れて、年下くんと恋がしたい。


「祐輝くん、またすぐ会いたいんだけど…忙しい?」

日曜の午後。アプリで会った年下男子と2回目のデート。

私は、次に会う約束をしてから帰ろうとした。

「あー、じゃあ予定見て、また連絡しますね」
「うん!待ってる」

そう言って、荻窪駅で別れた日曜日の午後なのに、彼から連絡が来ることはなかった。

「お昼のデートは本命としか行かない」なんて考えは、もう古いのだろうか。

1週間前までは、私は彼に好かれている自信があった。

「年下とばかり付き合っていたから、次は年上がいい」と言っていたし、連絡をすればすぐに返事をくれた。

何より、祐輝は年齢の割に落ち着いていて、お店選びのセンスも意外性があってよかった。

ちょうど最近、10歳下の男性と恋に落ちるドラマにハマり、年下もアリかも?と思い始めていたというのに。

どうして私は、祐輝にハマらなかったのだろうか。




アイドル顔に釣られて。


祐輝とは、3週間前にマッチングアプリで出会った。

『祐輝:おうち、白金高輪なんですね。麻布十番も近いし、サイゼもあるし最高だ!』

『早苗:まぁ、たしかにあるけど 笑』

私の最近の口癖は「結婚したい」だ。だから、25歳の男性と遊んでいる余裕などない。

だけど、アイドル顔でかなりのイケメンから「いいね」がきていたので、思わず反応してしまったのだ。

『祐輝:うちは高円寺なんだけど、サイゼリアがあるからそこにしたんです』

― いやいや、それが決め手って…高校生じゃないんだから。

自宅のソファでくつろいでいた私は、苦笑いした。

私は33歳で、祐輝は8個下だ。

こんなに年が離れていたら、価値観が合わないことくらい容易に予想ができる。

それなのに私は、祐輝のプロフィール画像にまんまと釣られてしまった。




ドラマの見逃し配信を観ようとリモコンを取ると、さらにLINEが届く。

『祐輝:早苗さんって、何時に仕事おわります?』

今日は少し残業したが、普段は19時までには帰るようにしている。

『早苗:ある程度調整はできるけど、早くて18時半かな』
『祐輝:じゃあ、20時集合なら余裕ですね^^』
『早苗:うん。大丈夫だと思うけど』

こんな会話の流れから、祐輝との初デートの日取りが決まった。

― まぁいいや。最近イケメンと飲んでなかったし。

私は、婚活という言葉を一度忘れ、デートを楽しむことに決めた。

『祐輝:早苗さんちの近くがいいですよね…僕、港区とか全然わからなくて』
『早苗:じゃあ、私がお店選ぶよ』
『祐輝:ありがとうございます!』

最初くらいはお店を予約してほしかったけれど、顔の良さに免じて許すことにした。

それに、私もたま〜にファミレスには行くが、デート使いしたことはない。

だから、それも避けたかった。

私が住む白金高輪には、彼が大好きなファミレスもあるから、そこを提案されたら困る。


初デート当日。


私は、八芳園内にある『スラッシュカフェ』を予約し、そこで祐輝と初対面した。

「早苗さんって、今までどんな方とお付き合いされてきたんですか?」

― いきなりの恋愛の話題なのね(笑)。

25歳っぽいな、と思いながらも私は正直に答えることにした。

「どんな、って…う〜ん…そんなに付き合った人数多くないけど、みんな年上だったよ」

「そっか。じゃあ年下は恋愛対象外?」

「そういうわけじゃないよ!年下でもしっかりしている人はいるし、実際の年齢というよりは、精神年齢が大事かな」

祐輝が真っすぐ見つめてくるので、ドギマギしながら答えた。

でも、彼は優しく私に笑いかける。

「よかった〜。僕は、年下の子としか付き合ったことないんですよ。昔はそれでよかったし、こっちがいろいろしてあげるのが楽しくて」

「うんうん」

「でもなんかそれにも疲れちゃったんですよね。次付き合うなら、お姉さんがいいなぁって」




そう言いながら、祐輝は私を見た。

― それって、私くらい年上でもいいってこと?

私は、彼のことが気になり始めていることに気づいた。

帰り道、家の近くまで送ってくれるというので、夜道を話しながら歩いた。

昼間は暑かったが、夜は気温が下がり過ごしやすい。

「早苗さん、荻窪に友達がオープンした店があって、今度そこ行きませんか?」

あと少しで歩けば家に着くというタイミングで、祐輝が言った。

― えっ…?荻窪?

祐輝は高円寺に住んでいるが、私は白金高輪に住んでいる。

彼はそれをわかっていて誘っているのだろうか?

― 初回のデートだけ頑張って、次からは適当になるタイプか…。

今日のディナーが最高だっただけに、少し落胆した。

25歳なのだから、期待してはいけないことはわかっている。

けれど、港区とは言わないが、せめて二人の家の中間地点とかにしてほしかった。




「荻窪かぁ〜。ちょっと遠いなぁ」

「あ、そうですよね。じゃあお迎えに行きますよ」

― 迎えに来て、ふたりで電車移動ってこと?

私は曖昧に会話を終わらせ、気まずかったので、家までワンメーターだったがタクシーを拾い帰宅した。

『祐輝:今日はありがとうございました!さっき話した店、早苗さんを連れて行きたいので、また空いてる日教えてください』

『早苗:うん、また連絡するね。今日はありがとう!』

この連絡のあと、私はしばらく返信をしなかった。

『祐輝:(チラ見するネコのスタンプ)』

1週間後、祐輝からスタンプだけが送られてきたが、それも未読無視してしまったのだ。

私が彼に返信したのは、それから3日後のことだ。

『早苗:ちょっとバタバタしてて、連絡遅くなってごめんね。前に言ってたお店行きたいな』

荻窪でもどこでもいいから、やっぱりまた会いたいと思ったのと、アプリで他にいい人に出会えなかったからだ。

祐輝は、無視することも怒ることもなく、対応してくれた。




週末、訪れたのは、まだグルメサイトにも口コミがほとんどない開業したばかりのお寿司屋さんだった。

さほど期待せずに口に運ぶと、その期待は見事に裏切られた。

「えっ!おいしっ!!」

正直、驚いた。25歳の彼がこんなお店を知っていることに。

話を聞くと、大将と祐輝は友達で、大将がNYの和食店で働いていた頃に出会ったという。

お寿司はもちろん、締めに出してもらった手打ちのお蕎麦がとても美味しくて感動した。

― 同年代の男子よりも優秀かも…。

店を出たあと、私は興奮気味に祐輝に近寄った。

「本当に美味しかったよ。こんなレベルのお店、港区にあったら予約取れないし!ありがとね」

「喜んでもらえてよかったです。友達とかにも教えてあげてくださいね」

そして勇気を出して「また会いたい」と言ったのだが、見事に玉砕。

やはり、ずっと年下と付き合ってきた祐輝に、年上女は無理だったのだろうか?

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