『お宅の夫をもらえませんか?』(C)KADOKAWA

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 意味深なタイトルで注目を集める『お宅の夫をもらえませんか?』(KADOKAWA刊)は、田舎の小さなコミュニティでW不倫に陥る2組の夫婦のそれまでとそれからを描いた物語。フィクションながらリアリティのある内容で、不倫の噂は瞬く間に近所中に広まり、生活も仕事もままならない田舎の地域社会ならではの“生き地獄”の物語に「された側も問題」「子どもは幸せになって」など、様々な反響が寄せられている。そんな本作を手がけた原作者のいくたはなさんと、作画担当のみこまるさんに、作品に込めた思いを聞いた。

【漫画】「トロい嫁だね!」義母の嫌味とパワハラに耐え続け10年、妻が不倫に逃げたきっかけ

■義父母の強烈なパワハラに耐え続け10年、妻が求めた「自由」

――田舎の農家に嫁いだ主人公のなな子は、義父母からのパワハラ的な嫌味を受けながら農作業に追われる毎日。そんな日々を抜け出したいと、「パートができたら自由になれるかも…」と考え始めます。

【いくたさん】なな子は、幸の薄い“雪女”のような女性にしようと思いました。自己主張ができないので、姑からいいように扱われ、夫も味方になってくれません。そういう“耐え忍ぶ女性”という存在は、つい助けたくなってしまう。不倫のきっかけって、いったいどういうところから始まるのか…いろいろと考えた結果、一番描けそうな人物が彼女でした。

【みこまるさん】夫の家業や、昔ながらの田舎の風習に縛られて、自由な意思を持つことができなかった。彼女にはそんな印象を抱いて描きました。

――そんな中、新しくスーパーがオープンし、店長となる忍の一家が引っ越してきます。姑や夫との関係でギリギリの精神状態だったなな子は、ここでパートを始めて、忍と不倫関係になってしまいます。

【いくたさん】忍は、なな子に頼られたことが嬉しい。一方、なな子は、自然に人に頼ることができるけど、自分の夫は頼りにならない。ふたりの欠けた部分が、うまく重なるように描きました。それと、その土地の持つ風土のようなものが、ふたりを結びつけたように読んでもらえるといいなとも思っていました。

――“サレ妻”で登場する忍の妻・香織は、夫(忍)の転勤のために、好きな仕事を辞めて田舎へ引っ越して、家族と暮らすことを決めました。家族のために尽くす“強い女性”の印象です。

【いくたさん】香織は、なな子と正反対のキャラクターです。夫婦で対等な関係を築きながらも、好きな仕事を辞めて、家族のために自分を犠牲にできる女性。忍は、そんな香織に感謝しつつも“負い目”を感じます。香織はそれもわかっていて、「感謝してよね」とアピールします。忍にとっては、マウントのように感じられたのかもしれません。

【みこまるさん】「仕事は好き」だけど「家庭が一番大事」という、自分の物差しをちゃんと持った自立した女性です。どこにいてもやっていける強さもあります。

――そんな香織は、自分の勘と“ある噂”から、夫の不倫を疑います。

【いくたさん】家族のために好きな仕事を辞めて、いわば“犠牲”になったのに、こんな仕打ちをされて…。言い表せないほどの怒りを感じたと思います。物語の冒頭には、なな子を見かけて「可哀想な女性」と憐れんでいたシーンもあるので、それが不倫相手だったということですから、なおのこと屈辱だったと思います。不倫を確信したときの鬼気迫る表情は、家庭を壊された女性の怒りと悲しみが表現されていてお気に入りです。

【みこまるさん】香織は前述の通り「仕事<家庭」の女性です。家族のために仕事も犠牲にしてきた。それなのに、それを脅かされて、自分の安全基地が崩れていく危機感があったのかなと思いました。

――舞台は田舎の小さな町。不倫の噂は瞬く間にあちこちで広まり、不倫した2人は居場所を失っていきます。生々しい陰口のシーンは臨場感があり、ラストに向けた怒涛の展開も見どころです。

【いくたさん】不倫って、いつどこで起こるのかわからない。遠いようで、もしかしたらすぐ隣で起こっている出来事かもしれない。そんなふうに感じます。明確に悪い人は誰なのか、どうすれば不倫は起きなかったのか…、解決策を考えながら読むのも面白いと思います。

【みこまるさん】はじめは寄り添ったり支え合ったりしている夫婦も、慣れてくるとそれが当たり前に感じて、相手のことを大切に思いやれなくなることがありますよね(自分で言って耳が痛いですが…笑)。そんなときに気づいてくれる誰かがいたら、もしそれが誰かの伴侶なら…。だからもう一度、自分の本当のパートナーを見つめてみませんか? そんな気持ちで描きました。不倫は、傷つく人がたくさんいます。でも、頭の中で起きるぶんには大いに楽しんでいいと思います。この作品を、エンターテインメントとして楽しく読んでいただければ幸いです。