「脱・頭痛持ち…タイプ別症状とセルフケア」と題し、頭痛の種類と特徴、治療法、セルフケア法について、脳神経外科専門医でいのうえクリニック(大阪府吹田市)の井上正純院長に連載でお話しを聞いています。

「日本の頭痛持ちは推計4,000万人と言われ、市販の鎮痛剤で過ごす人が多いかもしれませんが、頭痛はときに、命にかかわる病気のサインとして現れることもあります」と井上医師。今回・最終回は、そうした危険な頭痛について尋ねます。

井上正純医師

突然の衝撃的な頭痛は危険

--第1回で、頭痛には大きく分けて2つの種類があり、「ほかに病気がなく、頭痛そのものが病気となる場合で、くり返してつらい慢性頭痛(一次性頭痛)」と、「脳や体に何らかの原因や疾患があって起こる頭痛(二次性頭痛)」に分けられるということでした。これまでは一次性頭痛について伝えてきましたが、命にかかわる病気のサインとなるのは、後者の「二次性頭痛」のことですね。

井上医師:そうです。病気やケガの二次的な症状で頭痛が現れるため、二次性頭痛と総称しています。その病気やケガには実にさまざまな種類がありますが、危険性が高いものに、脳の血管の病気の脳血管障害である「くも膜下出血(まくかしゅっけつ)・脳梗塞(こうそく)・脳出血」といったいわゆる脳卒中、「脳腫瘍(しゅよう)」など、また脳の髄膜(ずいまく。後述)や脳に細菌やウイルスが感染する「髄膜炎」「脳炎」などの病気があります。痛みかたが次のような場合には、それらの可能性があります。

◎突然、バットやハンマーでたたかれたような衝撃的な頭痛
◎いままで経験したことがない突然の激しい頭痛
・時間が経つにつれて頭痛がひどくなる
・朝起きたら、いままでとは違う嫌な感じの頭痛がする
◎頭痛とともに、突然に片方の手足や顔半分ががうまく動かない、呂律がまわらずうまくしやべれない、片側の視野がかける、ふらついてバランスがとれないなどの症状がある

このようなときには、すぐに受診をしてください。とくに◎の症状が出現した場合は、迷わずに救急車を呼んでください。意識を失う場合もありますので、ひとり暮らしなどで周囲に人がいないときは注意が必要です。

危険な頭痛の原因となる脳の病気の特徴「くも膜下出血」「脳腫瘍」「髄膜炎」

--危険な頭痛の原因として、脳の重篤な病気が挙げられるのですね。各病気の特徴を教えてください。

井上医師:主に次のような病気があります。

・くも膜下出血
脳は頭蓋骨(ずがいこつ)の中にあります。とても軟らかく、3枚の膜で覆われています。その膜は頭蓋骨と脳の間にあって、外側から硬膜、くも膜、軟膜の順に三層になって脳を守っています。

くも膜と軟膜の間にあるすきまを「くも膜下腔(くう)」といい、ここには動脈が走っています。その動脈が分岐する部分にコブのような「動脈瘤(りゅう)」ができ、破裂するとくも膜下腔に出血が広がります。これがくも膜下出血です。原因はほかに、血管の奇形や頭部の外傷などもあります。

症状には、「突然に(何時何分に痛みだしたと言えるような)、『雷鳴頭痛』と呼ばれるバットやハンマーでたたかれたような衝撃的な痛み」「おう吐を伴う激しい頭痛」があります。

頻度は、1年で人口10万人あたり約20人と言われていてそう多くはありません。しかし予後が良くなくて、後遺症なく社会復帰できるのは30%に満たないとも言われ、また発症すると死亡確率は非常に高く約30%と報告されています。

また、典型的なくも膜下出血は、50〜70代の健康な人にほとんど前ぶれもなく起こります。破裂を来たすと重篤な状態になることが多く、約50%の方が破裂と同時に死亡するか、昏睡状態に陥ります。

破裂前の脳動脈瘤は人口の2〜6%に見つかるとの報告がありますが、症状がほとんどありません。まれに急に大きくなって動眼神経といわれる脳神経を圧迫して「ものが二重に見える」「まぶたが下がる」などの症状が現れるケースがあります。

また、くも膜下出血の発症前に、警告症状といわれる突然の頭痛を何回か経験する場合があります。動脈瘤からの微小な出血による頭痛と考えられていて、危険なサインです。すぐに医療機関を受診してください。

・脳腫瘍
頭蓋骨の中にできるすべての腫瘍の総称です。どこかに腫瘍があると、頭蓋骨内の圧が上がって頭痛が起こるとされます。

頭痛の症状は主に、「起床時の頭痛が長く続く」「日が経つに連れて痛みが増す」といったことで、「吐き気がないのに突然におう吐する」こともあります。

また、腫瘍の発生した部位によって、局所に症状を伴うことがあります。「片方の耳の聞こえが急に悪くなった」「片方に起こる運動まひやしびれ」「視野が欠ける」「言葉が出にくい」などです。けいれん発作をおこすこともあります。

・髄膜炎
くも膜下出血の説明で述べた、三層の膜をまとめて髄膜とも呼び、この髄膜に細菌、ウイルス、カビなどの病原体が感染する、また、がんや免疫の異常による病気(自己免疫疾患)によって髄膜に炎症が起こる病気のことです。脳に炎症が及んだ場合は「脳炎」といいます。高熱を伴うことが多く、おう吐や首が硬くなって回しにくい・曲げにくいなどを伴うこともあります。

--どの症状であっても、「突然の激しい頭痛」は危険であり、すぐの受診や救急車を呼ぶ必要がありますね。

井上医師:そうです。そして、それほど激しくない頭痛であっても、お話ししたようなサインがある場合や、味わったことがない違和感がある頭痛の場合も、脳神経外科か脳神経内科を受診してください。

聞き手によるまとめ

二次性頭痛のうち、危険度が高い頭痛は脳の病気に起因すること、逆に考えると、突然の危険な頭痛は脳の重篤な病気のサインだということです。自分や身近な人にとって、いざというときに少しでも冷静でいられるように、これらの情報を知っておきたいものです。

(構成・取材・文 藤井 空/ユンブル)