ハイスペ男に“選ばれる女”は、一体何が違うのか?

「俺は結婚に向いていないし、結婚しなくても十分幸せだ…」

と、思っていたバツイチ男が“ある女”と再婚した。

彼の結婚の決め手は何だったのか――。

6人の女性の中から、彼に選ばれたのは誰?

◆これまでのあらすじ

2016年にバツイチとなった桜井和真はその後、6年の間に6人の女性とデートを重ねていた。

2016年の玉城玲奈とは海外旅行をともにして、2017年の行野澪とは交際に発展。2018年の椎名由起子には逆プロポーズされ、2019年の黒木彩とのデートで失敗し「自分は結婚に向いてないタイプだ」と再認識する。

2020年、シングルマザーの石川沙耶とステイホーム中に出会うが、デートはリモートのみ。リアルでは対面せずに破局した。

そして2021年に元妻・佑子と再会する。彼女が再婚すると知った和真は、もう一度“結婚”に向き合うつもりで、過去の女性たちと1人ずつ会っていく。

▶前回:「元妻が結婚する」と聞いて焦る34歳男。手っ取り早く再婚相手を見つけようとして取った、最低な行動




2022年の桜井和真(35歳)


「すごい、思ったよりクオリティーが高いな」

渋谷と代官山、そして中目黒。3駅のちょうど中間にある洋館で撮影したフォトウエディングのアルバムが、4月になって自宅へ届いた。その出来栄えに、和真は舌を巻く。

「ちょっと、仕事してるときみたいに言わないでよ」

ソファに座り、和真の肩に寄りかかっている妻は笑う。そして「もっと無邪気に喜べばいいのに」と、彼女は続けた。

「ほら。これなんて和真さん、かっこいいよ!見て、次のページも!」

妻は自分の映りではなく、和真の映りに一喜一憂している。…いや。一喜一憂ではなく、一喜一喜だ。どの写真を見ても、常に楽しそうに喜んでいる。

そして最後のページまで見終えると、感慨深そうにこう言った。

「私、本当に和真さんと結婚したんだな〜」

結婚式を挙げないと言い出したのは彼女だが、それゆえに結婚の実感が湧いていなかったのかもしれない。

「…でも、本当に俺でよかった?」

「えっ、いまさら何を言ってるの?むしろ和真さんのほうが、私でよかったの?」

彼女には、離婚後の6年で元妻も含めて6人の女性とデートを重ねたことは、以前に伝えていた。

「もちろん、俺は由起子がいい。…由起子だから再婚したいって思ったんだ」


和真が選んだのは由起子だった。その理由とは!?


2021年の桜井和真(34歳)


さかのぼること6ヶ月前。和真は最低な行動を取っていた。

由起子と結婚した今なら「あれは最低すぎた…」と反省できるが、当時の和真はそれに気づかなかった。

「俺は結婚には向いてない」

離婚以来、何度もそう思ったのに…。元妻が再婚すると知った途端、和真の中に“再婚願望”が芽生えたのだ。元妻と勝負したわけでもないのに、心のどこかで「負けた」という思いがあった。

ただのジェラシーだ。

そのことに気づかないまま、離婚後に出会い、デートを重ねてきた女性たちと連絡を取り、もう一度デートしたいと考えた。

案の定、彼女たちは和真の最低な魂胆を見透かしていて、その行動を徹底的に否定してきた。

「相手がいてこそ結婚したいと思うもので、相手がいないのに結婚したいと思っている和真さんは、おかしいですよ」

2021年に出会った、沙耶からの一言が決定打だった。

― 俺は結婚相手を選べる立場じゃない。

和真はやっと気づいた。

これまでの交際も、最初の結婚も、いつだって和真は受け身だった。そして受け身を装い、相手を選ぶ立場を保っていたのだ。

― フラれてもいいから、もう一度あの人をデートに誘おう。

その相手こそ、2018年に出会った由起子だった。




「もう2人きりで会うことはないと思ってました」

雨上がりの広尾。『ボッテガ』のテーブル席で、由起子は少し不機嫌そうに言った。

「どうして私のこと誘うんです?」

「由起子さんと、結婚を前提にお付き合いしたいと思ったからです」

「…は?」

和真はひるんだ。「え?」ではなく「は?」という言葉に。そして、その声の低さに。

「何を言ってるんですか?」

「何を言ってるんですかねえ。…俺も自分が不思議です。でも由起子さんと付き合いたい気持ちは本当です」

すると、彼女はうつむいた。

出会った当初、由起子は突然「結婚を前提に付き合ってほしい」と告げてきた。和真は面食らったが、それから何度もデートをして、そして付き合うこともないままに離れたはずだった。

「どうして今なんですか?どうして私なんですか?」

「3年前、由起子さんから俺に『結婚を前提に付き合ってほしい』と言ってくれたじゃないですか。あれは本当に想定外でした」

女性から男性へのプロポーズ、しかも付き合ってもいない間柄でなんて、和真の発想にはなかった。

「でも、あのときの本当の気持ちを今になって思い返すと『はい。こちらこそお願いします』だったんです。

でも、女性からプロポーズされるなんてありえないと思っていたので、混乱してしまって。そのままうやむやにしました」

“由起子と真剣に向き合うため”という名目で、当時微妙な距離感だった女性たちとの関係はリセットした。

だが、いざ由起子に向き合おうとするタイミングで、すでに彼女の気持ちが自分から離れていることを悟ってしまったのだ。

「由起子さんとは、いつもタイミングがズレていた気がします。でもなんだかんだ、俺が誘うと由起子さんは会ってくれました。…もうタイミングを逃したくないんです」

人を好きになることに理由はない。でも好きになるタイミングはある。

朝まで飲み明かした翌日、あのときから由起子が好きだった。

「そう言ってもらえるのは嬉しいです」

うつむいたまま由起子は言った。

「でもやっぱり理由が知りたいです。私を好きになってくれた理由が…。それを聞けないことには、和真さんの申し出にはお応えできません」

和真は自分に正直になって答える。

「…否定しないところです。由起子さんは人を否定しない。それが好きな理由です。そういう女性と俺は結婚したいと思っています」


和真の告白を受け入れた由起子が、心の奥底で考えていたことは…


2021年の椎名由起子(32歳)


和真からプロポーズを受けた由起子は、舞い上がっていた。

― こんな見事に作戦がハマるなんて!

彼が単純な男でよかったと、心底そう思う。

3年前に仕事で出会ったとき、和真こそが運命の相手だと由起子は直感した。

しかし、いつまで経ってもデートに誘われない。自分から言うしかないと決意したものの、どんな言葉で誘えばいいか逡巡していた。

仕事もでき、高収入な彼を狙う女性たちは多い。そこでライバルと差をつけるために思いついたのが、逆プロポーズだった。

誘われ待ちに、告白され待ち。そのまま放置されて散っていった過去の自分を脱ぎ捨て、由起子は大きな一歩を踏み出した。

…だが、玉砕。和真は明らかに困惑していて、自然と疎遠になっていった。

それでも、由起子はめげなかったのだ。

幸運なことに会社の先輩・矢野充は、仕事でもプライベートでも和真と繋がっていた。彼から逐一情報を仕入れ、その後の和真がどんな女性とデートしていたか確認するようになる。

そして1年後、再びチャンスは訪れた。

そのときの和真は、ほかに3人の女性と同時進行でデートしていた。おそらく天秤にかけていたのだろう。

かなり腹が立った。

― でも、ここで諦めたら終わりだよね。

由起子はすっかり和真に執着していたのだ。

男性としての魅力はもちろん、収入の面でも申し分ない。なにしろ売れっ子デザイナーの伴侶となれば、映像プロデューサーとしての自分にハクがつくと考えていた。

とはいえそんな考えを悟られたら、それこそ終わりだ。

由起子は本心を隠したまま、作戦を立てることにした。




なんと由起子は、和真がデートを重ねた女性たちの身元を割り出し、その全員とコンタクトを取ったのだ。

女性たちからしたら気持ち悪かっただろう。

だがそこは、プロデューサーとして培ったコミュニケーション能力で乗り切り、皆を味方につけた。

「私、どうしても和真さんと結婚したいんです」

助かったのは、ほかの女性たちが揃いも揃って、和真に興味を失っていたことだ。むしろ全員が、由起子のことを面白がってくれた。

「あなたが和真さんと結婚すること、応援しますよ」

こうして皆、由起子の味方となってくれたのだった。

しかし2021年。何があったのか知らないが、彼は全員の女性と再びコンタクトを取り、デートをするようになったのだ。

女性たちは、誰もが誘われたことをこっそり教えてくれた。

「また天秤にかけるのか」とムカついたが、同時に絶好のチャンスだとも思った。

― ほかの女性たちに、私が和真さんと付き合うように仕向けてもらおう。

再び映像プロデューサーとして培った能力を発揮し、シナリオを用意した。それは「女性たちが徹底的に和真を否定する」というもの。

その中で由起子だけが否定しないとなれば、和真は由起子を選ぶのではないかと考えたのだ。

男という生き物は、一切否定をせず何もかも肯定してくる女に、圧倒的に弱い。だからこそ由起子は、再会デートの場で言った。

「私の不躾なプロポーズに対して、和真さんは真剣に向き合ってくれて嬉しかったです」

申し訳ないことをしたと思っている男に対して「逆に私のほうこそごめんなさい」とか「ううん。むしろ嬉しかった」と返すことのできる女が勝つ。

由起子は30年以上女をやってきて、そう実感していた。

そして実際、それで勝利した。



和真から「結婚を前提に付き合ってほしい」と言われた夜。由起子はあえて答えを保留にし、作戦協力者の女性たちと連絡を取ろうと試みた。

が、やめた。

女は怖い。いつ裏切るかわからない。

以前は、由起子のことを面白がってくれて“和真ゲット作戦”に乗ってくれたかもしれない。だが成功したと知ると、裏事情を和真に暴露するかもしれないから。

そうすれば努力は水の泡だ。

今後は、いかにして“和真ゲット作戦”が彼にバレないか考える必要がある。…新たな作戦が必要だ。

結婚式を挙げれば、作戦協力者たちが来場する可能性は否定できない。だから結婚式はやらないと決めた。




2022年4月。単純な男である和真は、結婚式代わりのフォトウェディングにご満悦で目を細めている。

由起子も幸せそうな新婦を演じている。

でも内心は穏やかでない。心は休まることはない。

これから和真には、ほかの5人の女たちと完全に関係を断ち切ってもらわないといけないから。

ただ、どこか高揚している。

自分1人の人生では決して住むことのできない豪邸。

業界内で自慢できる伴侶。

その両方を手に入れた由起子は、新たなモチベーションのもと闘争心を燃え上がらせるのだった。

Fin.

▶前回:「元妻が結婚する」と聞いて焦る34歳男。手っ取り早く再婚相手を見つけようとして取った、最低な行動

▶1話目はこちら:結婚願望のないハイスペ男が“結婚”を決意。絶対手に入れたかった女とは