はあちゅうって何者なんだろう。1986年生まれ、慶応→電通→トレンダーズ→フリーランス、31歳未婚女子で、主にネットで活躍する、アラサーのブロガー・作家。学生時代からSNSを駆使した、「タダで世界旅行」とか「クリスマスまでに彼氏を作る」なんて企画で大人気に。その後広告代理店の電通でコピーライターとなって、あっさり独立。

『半径5メートルの野望』(講談社)を始めとする、自信がなくて人生に足踏みする人々の背中を押す自己啓発エッセイが売れに売れ、今では著書・連載多数、複数のオンラインサロンを運営して、噂ではその収益だけでも食べていけるとかなんとか。今度は小説も出版し、そのマーケティング過程をサロン化してそれさえもマネタイズするらしい。

インターネット/SNS時代の落とし子としての感性と動きに、常に注目が集まる。旅しても、何か食べても、誰かとどこかに行っても、すべてがネット上で話題になる。

「私は日本一のブス」「学生時代、暗かった」「私は作家」なんて発信、発言が、いちいち話題を呼ぶ。彼女に会ったことのある人たちは、どこか「リアルで会ったことあるんだぜ」とのドヤ感を醸しながらそれぞれのはあちゅう観を語る。会ったことのない人たちは、ネット上でたまたま拾った発言やネタ、噂をもとに彼女を”ジャッジ”する。

そしてとても不思議なことに、はあちゅうという人は「好き嫌いが分かれる」。中立のふりをする人も、実はどちらかに転んでいる、それがはあちゅうをめぐる人々の心理だ。

みんなが認める、文豪のような圧倒的な文才があるわけでも、すごい美人でも、これ見よがしなセレブでもない。だから、「自分にもできそう……」なのにできない。彼女に感じるのは、憧れ、それとも嫉妬?

ある日、独身アラサー編集Y子が言いました。「河崎さん、はあちゅうさんってお好きですか?」

何か「しでかしてくれる」という期待

私:おっ、いいところ突いてきますねぇ〜。ウェブメディア関係者の飲み会では、その話題が投入されるとしばし盛り上がるものですよ。はあちゅうを知る人は必ず彼女に対して何かしらの意見を持ってしまう、まあ一種の踏み絵ですね。ちなみに私は醜い心の持ち主なので、当然『チッ』と思って見てますよ(笑)

Y子:(私の渾身の告白を無視しながら)……私、はあちゅうさんと同世代なんです。彼女って学生の頃からネットの新しい可能性を見せてくれた人なんですよ。でもああいうタイプが身近にいたら、毎日複雑だろうなぁ。あの人って何者なんだろうって思うんです。『何言ってんだ』とイラっとすることもあるのに、また新しくて面白いことをするんじゃないかって目が離せない。結局ハマっているんですよね。

私:自信のない自分を変えていくための方法論を、みんなにわかりやすく魅力的に伝える洞察力と器用さ、何よりも強い発信力を持っている人ですよね。本人も”ブス”だなんてとんでもないと思うほど”かしこ可愛い”し、キャッチーですし、SNS投稿もいちいち面白い。憧れている人、彼女の本で本当に人生が変わる人がたくさんいますよね。私もあの世代だったら猛烈に憧れたか、その裏返しで猛烈に嫉妬したと思います。でもね……。

Y子:でも?

私:ご自分でもオープンにしていますけど、もともとコンプレックスの人なんですよ。それでも彼女自身に『何者かになりたい』というリビドーやプレッシャーが強くて、自己を見つめ、セルフブランディングした賜物がいまの姿なんですよね。『私は作家』発言もそのあたりに根がある。確信のある野望ほど、根拠として強いものはないですよ。

Y子:なるほど。だからですかね……私たちが刺激され続けてしまうのは。自分と同じようにコンプレックスがあり、自分に似ているから?

私:そうそう。だから私たちは彼女から目が離せず、何か『しでかしてくれる』たびに、賛否を戦わせて熱狂するんじゃないかなぁ。

はあちゅうにイラっとした時、心の中にあるのは?

はあちゅうの文章や発言や行動に「すごく面白い」「元気が出る」「私も自分を変えてみようと思う」と勇気や希望を見る人たちがいる一方で、「なんなのこの人」と心をざわつかせてしまう人も一定数いる。この、「賛否を呼ぶ」という特性がはあちゅうの強みでもあるように思います。

というのも、彼女は、はあちゅうという人格を確信犯的に、「わかってやっている」からなのです。私が実際に耳にした、はあちゅうを評する人たちの言葉はさまざまです。

「賢くてかわいいよね、俺は好きだよ」「自由奔放」「非リアのリア充化を商売にした人」「なんだかんだ勝ち組」「何を考えているのかわからない」「就活の時に参考にする学生とか、人間関係が苦手な若い社会人に読まれているみたい」--。他人は勝手にいろいろ思うものですが、賢い彼女は「会いたい人に会える人生を作ろう」「したいことを叶えられる人生にしよう」と書いたり語ったりしながら、自分の夢や野望を確実に形にして歩んでいるだけなのです。

だから、もしはあちゅうの、あるいはあなたの周りの「はあちゅうタイプ」の発言や行動に触れてイラっと感じたのなら、その時こそ私たちの心の淵を覗き込んで本当の自分を知ることができるチャンス。きっかけとなった発言や行動は、あなたの「コンプレックスを刺激するトリガー」なわけですから。

はあちゅうはあなたの心の中を映し出す

人は固定観念を手放せないが故に、固定観念から自由な人をうらやんでしまう。冒頭に書いたように、はあちゅうは「あなたよりちょっとだけ上」「ちょっとだけ先」にいる自己像を発信するのがとても上手です。ところがその「ちょっとだけ上」は綿密なマーケティング思考のもとに作り上げられているのだとしたら。だから注目される。だから読まれ、求心力がある。彼女の空恐ろしい賢さ、直感力の鋭さを感じませんか。

えっ、私ですか? 一回り以上も年下の彼女を、私は「チッ」と思って見ていますよ(笑)! だって売れてるもん! 本人の文章そのものではなく、「すごく面白い、読みやすい」「勇気出る」なんてファンの絶賛を目にすると、「くっそう! どうせ私の本は読みにくくて長くて暗くて重たいよ!」ってハンカチのはじっこ噛んでますよ!

そして今日も彼女はネットの一角で、その世界の中心で、涼しいポーカーフェイスで何かしらを発信しているのです。彼女がどこまで行くのか、私だって関心を隠すことができません。ああ、私こそ、はあちゅうの本を読んで自己実現しようかしら。

(河崎 環)