「フリー編集長」と「社畜プロデューサー」というまったく異なる立場から、ウートピ編集部というチームを運営している鈴木円香(33歳)と海野優子(32歳)。

脱サラした自営業者とマジメ一筋の会社員が、「心から納得できる働きかた」を見つけるため時にはケンカも辞さず、真剣に繰り広げる日本一ちっちゃな働きかた改革が現在進行中です。

第2回のテーマも前回から引き続き「そもそもなんで会社員やってるの?」。20代で最初の働きかたを選ぶ時、やっぱり参考にするのは「親の働きかた」です。「フリー編集長」と「社畜プロデューサー」のふたりがそれぞれ見ていた「親の背中」とは?

海野P(左)と鈴木(右)

自営業者の父を見ていたから、会社員

鈴木:前回話したように、海野Pは大学卒後に新卒入社したわけだから、最初の働きかたを選んだのは、22、23歳の頃だよね。その年齢の頃って、やっぱり一番身近なロールモデルは親になると思うんだけど、「親の働きかた」は意識してた?

海野P:してましたね。うち、母が専業主婦で父が不動産関係の自営業だったんです。だから、自分が大学生で「会社員になる」と決めた時は、父の働きかたをどこかで意識してたと思います。

鈴木:お父さんが自営業だったから、逆に会社員を選んだの?

海野P:それもありますよね。私が小さかった頃はバブルで不動産関係はすごく儲かってたんです。欲しいものは何でも買ってもらえたし、生活は裕福だった。でもバブルが弾けたら一気に不景気になっちゃって。父は私が高校生の頃、生活費が足らなくてコンビニのトラック運転手をやったりしてました。そういう自営業者の浮き沈みの激しさをそばで見ていたから、「会社員が一番安全」っていうのはありました。

鈴木:お父さんから直接「自営業者はやめときなさい、会社員にしておきなさい」って言われたことあった?

海野P:それはなかったですけど、「優子は女の子なんだから、そんなに勉強や仕事をがんばらなくていいんだよ。お嫁に行くという手があるんだから」とはよく言われてましたね(笑)。でも、そう言われるのはすごくイヤだった。埼玉の田舎で社会から断絶されてテレビを見ながら健気に夫の帰りを待つ母を見ていたので、「主婦になる」という選択肢は最初から消去されてました。

鈴木:「逃げ」として専業主婦、ね。でも、女の子がいるあの世代の親は、経済的自立を願いつつも、「困ったら、お嫁に行けばいいや」っていう感覚が多かれ少なかれあるよね。

サラリーマンの父を見ていたから、自営業者

鈴木:うちは逆に父親が会社員だったんだよね。おもしろいよね、自営業者の父を持った娘が会社員になって、会社員の父を持った娘が自営業者になるって。

海野P:ホントですねー、考えたこともなかった。

鈴木:父は大手企業のサラリーマンだったけど、職人肌で出世に1ミリも興味がなかったみたい。一応最終的にはまあまあ出世したみたいだけど、ギラギラしたところも全然ないし。自分で起業して経営者やってた祖父から「経営者は大変だから、おまえはサラリーマンをやりなさい」って言われて素直にそうしたっていう。

海野P:おもしろい! 自営業→会社員→自営業……という家族の歴史が繰り返されているわけか(笑)。

鈴木:ということは、私の働きかたを見ている娘は「やっぱり安定が一番!」ってことで会社員になるのか(笑)。

サラリーマンの父を見ていて、会社員って、出世してナンボなんだな、って感じてたんだよね。会社員って、出世するためのゲームだから、そのゲームに興味がないなら、新卒入社してから60歳とか65歳で定年するまでの40年って、長すぎてつまんなくない?って。まあ、父は、安定収入もらいながら趣味に生きっか、って感じで人生、楽しんでましたけど。ザ・団塊世代サラリーマンで新卒入社で転職も一度もせず定年まで勤め上げたパターンです。

海野P:確かに、「会社員やるなら、出世しろ」とは言いますよね。裁量範囲も増えるし、自分が好きなことをやれて楽しいし。

鈴木:そうそう。だから出世に興味が持てるなら、たぶん、会社員は楽しんだよね。海野Pは、負けず嫌いだからやっぱり出世を目ざしてるんでしょ? 最年少で役員入りとか?(笑)。

海野P:え〜、そんな〜、目ざしてないですよ〜。

鈴木:またまた〜、社畜のくせに出世に興味ないとか、ありえないでしょ。ホントのところはどうなのよ。その「出世、全然興味ないよ〜(ホントはめっちゃあって、おまえのこと蹴落とすつもりだけど!)」みたいなサラリーマントークはやめて、社畜のホンネ、聞かせてよ。

出世に関する社畜OLのホンネ

海野P:社畜のホンネ(苦笑)……そうですね、出世には正直興味ありますよ。

鈴木:ほらね、やっぱりあるんだ。いいね、いいね、もっと社畜のホンネ、聞かせて。ホントはどんどん出世したいんでしょ?

海野P:うん、ぶっちゃけ出世したいですね。でも、ゲーム的に出世の階段を昇っていきたい、みたいな感じじゃないんです。男性で出世目ざす人って、わりとゲーム感覚の人が多いじゃないですか。だけど、私の場合、ゲーム感覚はなくて、出世したら結果的に自分がやりたいことができるようになるからという理由が大きいですね。そしたら、仕事がもっと楽しくなるかな、って。

鈴木:今より仕事が楽しくなってどうするの? 働きすぎで死んじゃうよ(笑)。

海野P:とにかく自分で決められる範囲を増やしたいんです。こんなプロジェクトをやりたい。このくらい予算が欲しい。こういう人を採用したい。自分の中で「こうしたい!」っていう方向性がある時に、実現するまでのハードルが少なくなるのが出世だと思うんです。今はまだアイデア段階から形にするまで、社内調整したりして超えなきゃいけないハードルがいろいろあるから。

鈴木:つまり、今はまだピーーーさんが邪魔でやりたいことができないと?

海野P:編集長!!! もうやめてください!

鈴木:ごめん! 出世の邪魔しちゃったかな。

海野P:私の話はこのくらいにして。鈴木さんはどうして出世に興味が持てなかったんですか?

鈴木:ずいぶん強引に話変えてきたねー。うーん、なんでだろ。一番の理由はこれまで経験してきた職場で「心底楽しそうな管理職」を見てこなかったからかなあ。昇進した時はみんなすごく嬉しそうなんだけど、やがて生気を失っていくというか。数字とにらめっこでつらそうだったし、現場から離れてつまんなそうだった。夜中に残業してると「ふーーーっ」っていう深いため息が、管理職やってる人のデスクから聞こえてきてね。ペーペーとしては「お給料上がるけど、やっぱりつらいんだ……」って、なんか胸が痛かった。

海野P:出世のプラス面よりマイナス面が先に目に付いちゃったんですね。

鈴木:そうね。でも、プラス面って、ホントにあるのかなあ? 権限がもらえて自由の範囲が広がるっていうけど、フリーの自由度に比べたら「奴隷の自由」じゃん。

海野P:編集長の今の発言、全社畜を敵に回しましたよ(笑)。

鈴木:だよね。「出世の快感」に関しては、また別の回でじっくりやりましょう。もっと社畜のホンネを深掘りしてみたいし。今回は、わが子に勧められるほど自分の働きかたを肯定するのは難しいってことと、ピーーーさんが海野Pの目の上のたんこぶだってことがわかってよかったです。

海野P:もう、やめてください!

次回は第1回、第2回で話し合った「そもそもなんで会社員やってるの?」というテーマについてまとめてみたいと思います。

(構成:ウートピ編集長・鈴木円香)