恋人や結婚相手を探す手段として浸透した「マッチングアプリ」。

接点のない人とオンラインで簡単につながることができる。

そう、出会うまでは早い。だけど…その先の恋愛までもが簡単になったわけじゃない。

理想と現実のギャップに苦しんだり、気になった相手に好かれなかったり――。

私の、僕の、どこがダメだったのだろうか?その答えを探しにいこう。

▶前回:狙い目の“新規会員の男”と初デート!途中までは順調だったが…




Episode02【Q】:田所雅也、31歳。
ほなみの純粋で素朴なところが気に入った。なのに…


『ほなみ:なんで次付き合うのは少し地味な子がいいんですか?』

『雅也:地味っていうか、美人じゃなくてもいいから真面目そうな子?少なくともルブタンを一足も持ってないような女性がいいね。理由はまた今度話すよ』

『ほなみ:笑』

僕は、以前から使っているマッチングアプリでつながった、大野ほなみ・26歳とのLINEを楽しんでいた。

彼女とマッチしたのは、つい最近だ。

見た目も悪くなかったが、それよりも早稲田大学スポーツ科学部出身というのが気に入った。

女性でこの学部に行くのは珍しいし、真剣にスポーツをやってきた人間に、悪い人はいない。

僕が出会ってきた女性たち――。それは例えば、全身をブランド物で固めているような人。高校時代は帰宅部。努力もせず男ウケしそうな女子大に指定校推薦で入り、将来は専業主婦になりたいと平気で口にする。

いくら美人でも、そんな女はもうこりごり。だから、ほなみはちょうどよかった。

顔は“中の中”。仕事もちゃんとしているし、服装もメイクも落ち着いている。

それが、今の僕にとってのベストなのだ。


雅也がほなみとのやり取りを再開したきっかけ


「麗香ちゃん、今日で会うのは最後って…なんで?」
「う〜ん。雅也くんと私は、合わないかなって」

目の前の女が、そう言いながらワインを一口飲んだ。

― は?…なんだよ、それ。

そんなこと言いに来たなら、そのトリュフがたっぷり乗ったパスタなんか注文するなよ。

それにその赤ワイン、いくらすると思ってんだ?君が「ブルゴーニュが好き」だなんて言うから、ソムリエが店で2番目に高いワインを出してきたじゃないか。

そりゃそうだよな。誰に買ってもらったのか知らないけれど、アクセサリーはヴァンクリだし、バッグはシャネル。

そんなの身につけていたら、店の人も勘違いするよ。「高いワインを持ってきても平気だ」って。




僕と麗華は、開業して間もない東急歌舞伎町タワーで出会った。彼女は友達と一緒に来ていたようだが、麗華の妙に色っぽい容姿に惹かれ、僕から声をかけて連絡先を交換したのだ。

今日がまだ4回目のデートだし、もちろん体も重ねていない。

それどころか、手さえつないでいない。

だからなのか、ひどく損をした気持ちになり、麗香への嫌味が頭の中で止まらない。

「…雅也くん?」
「そんな申し訳なさそうな顔しないで。今日はそれ食べたら解散しよ」

こうして、僕と麗香の関係は終わった。そして元々登録してあったマッチングアプリで出会ったほなみのことを思い出したのだ。

僕ら男がアプリを開くとき。それは、常に一定数いるデート相手が少なくなった瞬間だ。

『久しぶり、元気ですか?』

僕はほなみにメッセージを送った。



『雅也:ほなみちゃんって、家どこだっけ。どの辺りでいつも飲んでるの?』

僕は彼女と仲良くなりたくて、マメにやりとりをしている。

『ほなみ:家は、東横線沿いです。最近仕事が忙しくて…外食はほとんどしてないですね』

― はぁ。僕が欲しい回答をくれないな…。東横線の何駅なんだ?

ほなみは、僕に住んでいる場所を教えない。

行動エリアを教え合い、会う約束に持っていくのが僕のパターンだし、アプリ界隈でも王道の手法なのに。

しかし、そのほなみのガードの堅さは逆に燃えるし、彼女に「会いたい」と思う気持ちは高まる一方だった。

『雅也:僕の家は晴海のタワマンなんだけど、飲みに行くのは、恵比寿や西麻布かな』




― 大抵の女なら、これで食いついてくるんだけど…!

祈るようにメッセージを送信した。

しかし、その願いもむなしく、ほなみからの返信は来なくなってしまった。

もう25時を越えているし、もう寝てしまったのかもしれない。

「僕も寝るか…」

僕は、枕元に置いてあるペットボトルの水を飲んで、スマホを充電器に挿した。

― それにしても…彼女作るのって、こんなに難しかったっけ?

僕は、誰もが知っている総合商社に勤め、昨年購入した晴海のマンションで、一人暮らし。身長は平均的だけど、顔は割と良い方だと思う。

― それなのに、なぜなんだ…?


僕はいつのまにか寝てしまい、朝になっていた。

何度目かのアラームで起き上がり、バスルームへ直行しシャワーを浴びる。

夏用のセットアップに着替えていると、ほなみから返信が来た。

こういうとき、つい嬉しくなってしまうのは、相手の思うツボなのだろう。

でも、やっぱり胸が高鳴る。

『ほなみ:そうなんですね。私も恵比寿なら時々行きますよ』

― おぉっ。きたきた。

昨夜に返信がなかったのは、ただ寝てしまっただけなのだろう、と安心する。

『雅也:恵比寿はいい店たくさんあるよね!ほなみちゃん、焼肉好き?よかったら来週お肉食べに行こうよ』

そう返信してから、洗面台の前に立ち、髪にジェル状のワックスをつける。




― そろそろデートの誘いに乗ってくれ…!

そう願いながら、手についたワックスを洗い流していると、「ブッ」とスマホが震えた。

『ほなみ:いいですね。でも、その前に電話で話してみたいかも』

― えっ………電話?

僕は、落胆する。

会ったことのない人と、いきなり電話で話すのは苦手だからだ。

仕事の電話や配送業者などの赤の他人とは全然平気。けれど、アプリで知り合った子と電話するのは恥ずかしい。

だからといって、ここで断ったら、ほなみとはこれっきりになってしまう。

『雅也:わかった。じゃあ、今日の夜に電話しよう』
『ほなみ:はい、そうしましょう』

僕は、昼の商談とプレゼンの用意を急いで終わらせ、19時には退勤した。

『雅也:お疲れさま!いつでも電話できるから、大丈夫な時間教えてね』
『ほなみ:おつかれさまです。じゃあ、21時から話しましょ』



― よしっ。

気合を入れるために、冷蔵庫から缶のハイボールを取り出し、意を決してほなみに電話をかけた。

「どうも。雅也です」
「お仕事お疲れさまです、ほなみです」




最初こそ緊張していたものの、話を始めてしまえば、仕事のことや、たわいない話で盛り上がって楽しかった。

「もうこんな時間か。そろそろお風呂に入ろうかな」
「うん。じゃあ、切るね。また話そう」

僕は、スマートに通話を切り上げ、その後のメッセージもすかさず送る。

『雅也:ほなみちゃんの声聞いたら、ますます会いたくなったよ』

僕は、ほなみに好印象しか抱いていない。

だから彼女に会えば、必ず好きになれる確信があったので、素直に今の気持ちを伝えた。

なのに、ほなみは今回も欲しい答えはくれなかった。

『ほなみ:雅也さんって、どんな人がタイプなんでしたっけ?』

― ???なぜ、今その質問なんだ。

『雅也:前に言わなかったっけ。マジメな子がいいって』
『ほなみ:じゃあ、私はちがうかも笑。そんなに真面目じゃないし』

― ……え?

僕は、その後なんて返したらいいのかわからなかった。

彼女は、学生時代に部活を頑張って、大学もスポーツ推薦で入って、スポーツブランドに就職した。

その一貫性が、とても素敵だと思っている。

そのことは電話でも褒めたし、会話もかなり弾んだと思う。

LINEでのやりとりだってマメにしていて、付き合っている男女の頻度と比べても、引けを取らないだろう。

『雅也:何か気に障ることがあったなら、ごめん。でも、直接会ってから判断してくれないかな』

そのLINEに返信が来ることはなく、ほなみからの連絡は途絶えた。

ほなみは、僕のどこが気に入らなかったのだろうか…。

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ほなみが電話で確認したかったこととは?雅也への連絡をやめた、まさかの理由