“善い人”役から猟奇的な悪役まで演じ分ける、実力派俳優の郄嶋政伸さん。

俳優にとどまらずさまざまなジャンルで表現者として活躍する彼の原動力に迫った。




「デビュー前は映画監督を目指していたんですが、ジャズドラマーにもなりたかったんです。

父親がジャズ好きで幼少期からジャズは聴いていましたが、16歳の頃にアート・ブレイキーに出会ってジャズドラムの虜に。

日本で行われた、とあるジャズフェスティバルで、アート・ブレイキーの生演奏を聴いた時、あまりにも格好良くて鳥肌が立つほど衝撃を受けました」

その体験からドラムを叩きはじめ、学生時代にはバンドを組み、ジャズクラブでの演奏やストリートミュージシャンも経験。実際、その腕前はプロ並みとの評判だ。


郄嶋政伸を突き動かす、ひとりの人間としての使命感


華やかな芸能一家に生まれ育ち、実力派俳優として確固たる存在感を放つ郄嶋政伸さん。

NHKの朝ドラ『純ちゃんの応援歌』でデビューを果たし、ヒット作『HOTEL』を筆頭に仕事に恵まれ、役者のキャリアを築いていった。

「とはいえ順調に行くわけはなく、もちろん壁にもぶち当たる。そんな時、山田五十鈴さん、丹波哲郎さん、松方弘樹さん、野際陽子さん、緒方 拳さん……偉大な先輩方が救ってくださった。

もう、くよくよしている訳にもいきませんよね(笑)。壁はサクッと突き抜けました」

するとまた別の役が舞い込んで、30代は良きパパ、40代に入ってからは殺人鬼や悪役など。郄嶋さんの怪演光る役どころは、記憶にも新しいところだ。

その一方で、エッセイ執筆や、朗読会を主宰するなど、他ジャンルでも才能を発揮している。

「役者は“アウトプット”の仕事だから、絞り出すものがなくなるとそこで止まってしまう。

朗読会は僕にとって、インプットの場。プロアマ問わず集まって、ひとつのものを作り上げる。オーラさえあれば上手い下手関係ない。

多様性ってやつですね。これがものすごい刺激と学びをもらえるんです」


音楽も料理も共通言語。言葉や文化が違う者同士を繋げることができるんです


そんな柔軟性が、郄嶋さんを多彩な表現者として押し上げているのだろう。

現在、NHKの朝ドラ『ちむどんどん』でシェフ役を演じているが、プライベートではこんな一幕も。

「妻のママ友のスロベニア人家族に、手料理を振る舞うことがあったんです。

イタリア寄りのスロベニア出身と聞いて、現地の食文化を勉強して、イタリア料理のシェフと相談してボロネーゼパスタを作ったら、『故郷のママの味と同じだ!』ってすごく喜ばれて。僕自身も似たことがあって。

以前、広尾の『茶禅華』で食事した際に、雲南省を旅した時に少数民族の方にご馳走になった料理の味とそっくりで、驚きと共に涙が出ました。料理って、味と記憶が結びつく強みがありますよね」


全て、自分の沽券に関わる。俳優として、日本人としてひとりの人間として努力する


やるからにはとことん。なぜそこまで研究熱心なのかと聞くと、「俳優として日本人として、こんなもんかって思われたら嫌。日本とスロベニアの友好の為にも中途半端なことはできない」と答えた。

「音楽も、料理も、世界や文化を超える共通言語。言葉や文化が違う者同士の架け橋になってくれるんです」と、郄嶋さん。

チャレンジ精神旺盛で、多様なモノやコトを受け入れてきた彼だからこそ、真実味を帯びたその言葉が胸に響いた。


■プロフィール
郄嶋政伸 NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』に二ツ橋光二役で出演。自身が主宰する朗読会「リーディングセッションVol.16」が8月28日(日)『BODY&SOUL』新渋谷公園通り店にて開催。

■衣装
眼鏡(70's Vintageウェリントン セル)45,000円〈groom TEL:03-3476-1408〉

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