彼氏との“初お泊まり”で予想外の事態。彼ってこんなコトするの…?
女にとって、経験豊富な年上男性は魅力的に映る。
だが、その魅力ゆえこだわりの強いタイプが多く、女は年を重ねていくうちに気づくのだ。
― 頑張って彼に合わせるの、もうしんどい…。
年上ばかり選んできた女が、自然体でいられる相手は一体どんなタイプの男なのだろうか?
これは、アラサー独身女がこれまでの恋愛観をアップデートする物語。
◆これまでのあらすじ
テレビ局で働く多佳子は、年下の彼氏・颯と初めておうちデートをする。だが、彼は口数少なく食後すぐに帰ってしまった。
▶前回:ソファでキスくらいは覚悟していたのに。男がすぐに帰って悶々とした女は…
Vol.7 肝心なときにかみ合わない2人
初めてのおうちデートは、あっけなく終わってしまった。
― 颯くん、どうして急に帰っちゃったんだろう…。
彼が使った食器をシンクへ運びながら、ぼんやり考える。すると、来客を告げるチャイムが鳴った。
モニターに映っているのは、まさかの颯だ。
― えっ、忘れ物でもしたの…かな?
エントランスのオートロックを解除した私は、慌てて部屋の中を見渡す。だが、それらしき颯の私物はない。
そこへ、玄関のインターホンが鳴った。
「多佳子さん、これ!」
ドアを開けると、颯は真っ赤なガーベラの花束を私に差し出した。
「うわ、キレイ…!でも、どうしてお花?」
「もうすぐ誕生日でしょ?」
私が食事の準備をしている間、颯に黒木さんからあるLINEが送られてきたそうだ。その内容は、美智子が私の誕生会を近日計画している話だった。
「あ、うん。ありがとう!嬉しいよ。でも『失敗したかも』って、あのLINEは?」
「あー。だって、もうすぐ誕生日だって知ってたら、モンブランじゃなくてバースデーケーキを買って行ったのに…。俺、動揺してどんどん変な空気にしちゃって。プレー集とか、今じゃなくてもいいのに見たりしてさ…」
一旦帰って仕切り直そうと思ったのだと、視線を落として言う。
「でも、俺、1番最初に多佳子さんの誕生日を祝いたくて、戻って…」
気持ちを抑えきれず、私から颯に腕を伸ばしたのだが、彼はそれをサッと制止した。
いい雰囲気のはずが…。颯がハグを拒んだのはなぜ?
「今日はやめておく!今、そういうことをしたら、帰りたくなくなるから…。でも、誕生会の後は、多佳子さんの部屋に泊まってもいい?」
「うん、わかった。いいよ」
みるみる顔が赤くなっていく颯を見て、ますます愛おしさが増す。
私は、この年下くんの不器用だけれど真っすぐなところに、すっかりハマってしまっているようだ。
― あーもう!私、彼のことがすごく好きかもしれない…。
◆
10月24日。私の34歳の誕生日。
麻布十番にある『十番右京』を美智子が予約してくれた。
「誕生日おめでとう!今日は、多佳子が好きな日本酒といくら三昧だよ」
「ありがとうー!さすが美智子、わかってる。黒木さんも颯くんも来てくれて、ありがとう」
この4人で集まるのは、初対面での食事会から約3ヶ月ぶり。
今はそれぞれ恋人として付き合っているので、前回よりも打ち解けた雰囲気だ。会話も盛り上がっている。
私も、雰囲気につられて日本酒が進んでしまい、2時間もたつ頃にはほろ酔い状態だった。
― 明日も仕事なのに、ちょっと飲み過ぎちゃったなあ…。
化粧室から戻りスマホを手に取ると、ちょうど一樹からLINEが送られてきた。
『誕生日おめでとう!今、何してる?こっちは、六本木で食事中』
『ありがとう!会社の同期の子と颯くんたちに、西麻布でお祝いしてもらってるんだけど。良かったら、後で来ない?』
ふと、一樹のことをみんなにも紹介したくなったのだ。
みんなも、彼の参加を快くOKしてくれた。ただし、颯を除いては…。
一樹がやって来たのは、それから1時間後のことだ。
「あー、来た来た!みんな、こちらが一樹です。私の大学時代からの友達!」
「突然お邪魔してしまって、すみません。多佳子がいつもお世話になっています」
そんな一樹の冗談めいたあいさつにも、目をギラギラさせる颯。だったのだが…大のサッカー好きの一樹とは、ものの数分で打ち解けてしまい、気がつけば、今日で一番楽しそうに笑っている。
大切な2人が仲良くなってくれるのは、嬉しい。
その様子に安心した私は、美智子と黒木さんと美味しい料理を堪能する。
だが、その時間はあっという間だった。
「多佳子…ごめん!颯くん、飲ませすぎちゃったかも」
颯の方へ視線を向けると、ひどく酔っぱらって一樹にくだを巻いていたのだった。
声が大きければ、態度も悪い。
― うわ、ちょっとー…。颯くん、ただでさえ銀髪で目立つのに!
「一樹さん…これからは、多佳子さんと2人で会わないって約束して?」
「ちょっと、やめてよ…。颯くん、静かにしよう」
落ち着いた店内には似つかわしくない、颯の不満げな声が響く。
「そもそも、多佳子さんだって悪いんだよ?」
そう言ったあと、グラグラと体を揺らしたかと思ったら急に静かになった。
そのまま眠ってしまいそうな勢いの颯を、呼びつけたタクシーにやっとの思いで乗せる。
そして、予定よりも早く私の部屋へと連れて帰ることになったのだった。
彼氏が泥酔…。せっかくのお泊りデートは、どうなる?
翌朝。
私が忙しなく身支度を整えている間にも、スースーと寝息を立てる颯は起きる気配がない。
昨日の夜、何とかベッドまで連れて行ったが、それからずっとこのありさまだ。仕方なしに合鍵と置き手紙をして出社すると、昼前に彼からLINEが来た。
『本当にごめん!鍵は次に会ったときに返すから』
『昨日、本当に大変だったんだからね。バースデーケーキも食べ損ねたし!で、二日酔いは大丈夫?』
颯は初めて日本酒を飲んだらしく、体調がかなり悪いようだ。その後も何度かLINEを送ったが、午後になると既読さえつかなくなった。
― まさか、倒れてたりしないよね?ていうか、もう家に帰ってるか。
仕事を終え、帰宅したのは21時。予想通り、颯の姿はなかった。
その代わり、部屋の中が大変なことになっていたのだ。
多佳子の部屋は『HAPPY BIRTHDAY』のバルーンや、花の飾りつけが至るところにされていた。
テーブルの上には『冷蔵庫を開けて!』というメモ書きもある。
すぐさま冷蔵庫の扉を開くと、そこには、1人では食べきれないくらい大きなケーキが入っていた。
― 買ってきてくれたんだ。でも、こんなに大きなケーキ…。んっ?
今度は、ケーキの箱の横に『ベッドの枕元を見て!』とメモが貼られている。
指示に従うとそこには封筒が置いてあり、中には『誕生日おめでとう!もうすぐオフシーズンに入るから、一緒に温泉旅行をしよう』と書かれた手紙が入っていた。
― えー…。何かなあ…。
真っ先に出てきた言葉に、自分でも驚いた。
決して、こういう演出が嫌いなわけではない。慣れない日本酒を飲んで、二日酔いの状態で、私を喜ばせようとしてくれたことには、嬉しい気持ちもある。
ただ、せっかくの誕生会と初めてのお泊りは、少しの時間だけでも2人でゆっくり過ごしたかった。
思い描いていたものとは違う結果にガッカリした私は、素直に喜べないのだ。
― 何か颯くんと私って、大事な時に気持ちがかみ合わないような気がする。
モヤッとした感情が顔を覗かせたのは、きっと一瞬だけ。やきもきするのは、私が颯のことを好きだと認識した後も、2人の関係がまったく進展しないからだ。
だから、もし、次の旅行でもこんな調子だったら…。
ある考えを思いついた私は、颯にこんなLINEを送ったのだった。
『部屋の飾りつけ、ありがとう。ねえ、温泉旅行は、客室に露天風呂がついた旅館にしない?』
▶前回:ソファでキスくらいは覚悟していたのに。男がすぐに帰って悶々とした女は…
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次も進展がなかったら、もう…。年の差カップルの温泉旅行の行方は?